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俺たちに射す斜陽〜むつ〜
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むつ「あー、修二ゴメン。今から教室に行くから」
華南「修二、もう大丈夫だぜ」
修二『ああ、分かった』
華南「教室で待ってろよ」
ーピッ
電話口の修二の声がやけに低くて、俺は少し心が痛んだ。
イラついて黙って出てきたのは失敗だったか?、でも、早く学校に来て吉良さんに文句を言ってやりたかった。
通話の切れた携帯を握りながら悶々とする俺に、華南の低い声が落ちてくる。
華南「ほらみろ、修二落ち込んでんじゃん」
華南は腕組みして俺を見下ろし、先程の説教を蒸し返す。しかし、仕方ない、今回ばかりは、どうやら華南に反論できそうもない。
華南「いいな、今日修二と話すんだぞ?」
むつ「分かった…」
先程のから俺と華南しか喋ってないが、華南が屋上に来る前から俺と一緒に居て、華南が現れてからずっと会話を聞いていた吉良さんは、声を殺して笑っている。
こちらも…今回はツッコミを入れることが出来ない…。むしろそのまま笑ってればいい、いらないツッコミを貰わずに済む。
妙な罪悪感と羞恥、得体のしれない感情に蝕まれたまま、俺は屋上から教室に向かう。
得体の知れない感情を、先程の華南が教えてくれたが、今だに信じがたい…。
だって確かにイライラしてたんだ…
イライラしていたと感じたんだ…
教室に着いたが、修二の姿がない。
まだ着いてないのか、俺はそわそわして落ち着かない…、間も無くHRが始まる、大半の生徒が席に着き、担任が現れるのを待ちながらお喋りに夢中だ。
俺は教室の前の廊下で、華南と一緒に修二を待っていた。
華南も落ち着かないのか、廊下をキョロキョロしている。
吉良さんは自分のクラスに行ったので、華南と2人で修二を待った。
遅い…。
あいつ、どこに俺を探しに行ったんだ。
痺れを切らし始めた頃、廊下の向こうに修二が姿を現した。
華南「修二!こっちこっち!」
華南は早く俺と修二に話しをさせたいらしく、教室の前で、でかい声を出して手招きする。
俺は、修二の姿を見た途端心臓が跳ねた。
早くなる脈を、そらみろと1人で思いながら胸に手を当てる。
修二を見ると落ち着かない。
修二は足早に掛けてきて、俺たちの前で息を切らしながら止まった。
修二「ごめ〜ん♪お待たせ♪」
ひたいの汗をぬぐい、軽い調子で謝ってきた修二に違和感を覚えた。
それは、華南も同じだったらしい。
むつ「修二…」
修二「ん?」
明るい顔して首を傾げた修二。
むつ「お前…、煙草吸ったの?」
俺を探してるとばかり思っていた…。
修二「あ、匂う?ごめんね♪」
明るい調子で悪びれずに謝る修二にイラっとしたが、なんか違和感が強まる。
修二「なんか今までゴメンねむつ、むつが怒るのは最もだかから、僕は謝るしか出来ない」
むつ「…ぁ…いや、今日は俺も悪かったし…、誤解だから…、お前に怒って先行ったんじゃ無くて…」
なんだろう、うまく話せない、顔が引きつる。
修二「むつが謝ることないよ、君には言いたくないなんて言われたら誰だって気分悪くなるよ」
華南「修二、むつの話し聞いてやって。むつ、言うことあるだろ」
華南が俺をせっつく。
言われなくても言うつもりだったのに…
ムッとした俺に、さらに華南が「ほらっ」って顎で即す。
むつ「あの…ゴメン、俺が悪かった。話がしたいから今日時間いい?」
するとにっこりしていた修二が、俺の後方に何か見つけたのか、フッと笑って呟いた。
修二「早…」
はや?
修二の視線を辿って振り返ると、廊下の向こうに、谷崎とスーツの男が、何やら真剣に話しながらこちらに向かってくる。
あのスーツの人、見たことある気が…。
スーツの男は谷崎と話してて、横を向いていたが、俺たちに気づいて顔を上げた。
あ、奏一さん!
スーツの男は、修二の兄、奏一だった。
奏一は俺たちを見て、修二の存在を確認すると、真剣な顔付きが見る見る鬼の形相に変わった。
え?
俺はビックリした。いや何にビックリって奏一さんが怒ると恐いのは知ってるが、修二にあんなにあからさまな怒りを向けたことはないからだ。
俺はすぐに視線を修二に戻した。
修二の瞳には、あの闇が広がってた…、と思う。
何故、“と思う”かって?
修二の瞳をちゃんと見る前に、奏一さんが修二を平手で殴ったからだ。
むつ「ちょっ!奏一さん!!」
谷崎「奏一!!」
華南「奏一さん?!」
一発入れた奏一さんがさらに振りかぶり、殴られて斜めにうつむく修二は無抵抗
俺と谷崎と華南が慌てて止めに入る。
奏一「お前は馬鹿なのか!!」
奏一の怒声が廊下に響き渡り、その階にいた人間全員が恐怖に震えて5人を見ている。
奏一さんを後ろから谷崎が、前から華南が抑えて、俺は修二の前に立って後ろ手に修二を抱き込む。
背中の修二がわずかに震えた。
しかし聞こえてきた声は平喘としたものだ。
修二「兄貴、ここ、学校」
その言葉に、鬼の形相だった奏一さんが、静かに元の表情に戻る。目の色だけが、怒りの炎に包まれているが、振り上げていた手を下ろし、乱れた襟を正した。
奏一「…りょ…谷崎先生取り乱してすいません。今日のところはそういうことで早退させます」
谷崎「分かった…」
え?早退?
奏一「行くぞ、修二」
修二「はーい」
深刻な奏一と違い、平喘と流すように返事した修二は、殴られた左頬を抑えて、むつの背中からスルリといなくなる。
むつ「修二!」
奏一のあとについていく修二は、振り返らず、軽く手を上げてひらひら振る。
修二「大丈夫、また明日ねぇ〜」
追いかけようとしたら、谷崎に止められ、見たことない真剣な表情で首を横に振った。
華南「せんせ…」
谷崎「心配するな、ちょっと感情的になっただけだ、あいつは修二をあれ以上なぐったりしない」
むつ「何が…」
谷崎「家族の問題だ、お前たちは口を挟むな、今日は会いに行ったりもするなよ、今奏一を逆撫でしたら、修二が困ることになるぞ」
何故?
奏一さんが修二殴るなんて今まで見たことない…。
普段クールな奏一さんが怒ったら恐い、確かにそうだが、あんな声を荒げたのも殴るのを見たの初めてだ。
普段怒る時は静かに低い声で怒る人だ。それに修二を溺愛してて、高校生になる修二に過保護で、泊りは絶対に許可を取らなきゃいけないし、電話もメールも返事は絶対!電話も折り返しは10分以内じゃなきゃいけないし、バイトも自分の店以外では禁止、それほど大切にしてるのに、あんなに声を荒げて殴るなんて、ただ事じゃない…
谷崎「ほら、2人とも教室入れ、ホームルーム始めるぞ」
谷崎が、生徒名簿で華南に隣のクラスを指し、俺に自分の教室へ入るように示した。
華南も俺も唖然としていて、足が動かない。谷崎は仕方なしに、俺と華南の尻を名簿で叩いて、俺を教室に押し込める。
むつ「イテっ!」
谷崎「ほらほら」
華南「…むつ、さっき俺が屋上で言ったこと考えとけよ!」
谷崎「橘、教室に行った行った!」
華南の声が背中から聞こえたが、谷崎に教室の扉を閉められてしまい、姿は見えなかった。
谷崎に腕を引かれて席に着いた。いつも隣にいるはずの修二の姿が無い。谷崎は教卓に着いてさっさとホームルームを始めている。
俺は修二の机を眺めながら、華南に言われた通り、ここ最近の出来事を頭で思い出して整理することにした。
修二…大丈夫か…?
一瞬見た、修二の発作的瞳。
それが心配だった……
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