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狭い世界の外側と俺たち〜むつ〜
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奏一「鍵を出せ」
一層厳しい表情で、俺を見下ろす奏一さんは、俺のカミングアウトに対して、言葉での否定も肯定もなく。
ただ、修二が1人にならないようにと案じて俺に預けた〝信頼の証〟であろう鍵を「出せ」とだけ口にする。
奏一さんが何を考えているか分からない。
華南は散々自分が行くから俺には修二を見てろって言っきてた、否定や罵倒があっておかしくないし、きっと修羅場になるから…と。
むつ「鍵を渡したらどうなる?」
奏一「どうもしない」
むつ「…俺たちは、本気だ!」
奏一「俺に病院送りにされたくなきゃ、鍵を出せ」
むつ「俺は殴られても、奏一さんを怒らせるようなことはしてない!」
奏一「…。てめぇは黙って鍵を出せばいい」
ドスの効いた静かな殺気が口からこぼれた。
奏一さんの目が怒りの炎で色を変える。
数年前から見なくなってた、敵陣に殴り込む時の殺気に満ちた瞳。
元朱雀特攻隊長の眼光にゾッと悪寒が走る。
牙を無くしても、虎は虎だ。ひと睨みで何十人もの不良が蜘蛛の子を散らすほどの威力がある。
しかし、引くわけにはいかねぇし、何故引かなきゃならないのか分からない。
むつ「嫌だ!」
睨み合い、ピリつく空気が肌に痛い錯覚を生む。
鍵を渡したらきっとお終いだ。
奏一さんは何も言わない。だから俺も言葉が出て来ない…。これなら罵倒されたりした方が、まだ、言い返しようがある。
でも、俺たちが何か悪い事したのか?好き合っただけだ。過去の傷に触ったから?確かに始まりは自慢できた事じゃない、けど、その後は、可愛く見えて、触りたくて、修二も「まって」とは言ったが、俺を拒んだりしなかった。今は、好きだから触れ合ってる。
好きな人とセックスしたくなるのは、普通のことだ、悪いことなんかじゃない!
こんな時…華南ならどうする?
その時、ピリつく空気を破って奏一さんの携帯が鳴った。
ーピリリ♪ピリリ♪
奏一「はい。・・・。そう、やっぱり居たか、連れてきて」
誰?
奏一「余計なお喋りはしないでくださいよ。部屋は三階の突き当たりですから」
誰かを呼びつけた奏一さんは、脅威のオーラを放ったまま、黙ってソファーに座り直す。
数分して、カラオケルームの重い扉をよく知った顔が開けた。
谷崎「連れてきたぜ」
谷崎!?なんで?ッて谷崎と一緒にいるの…
むつ「華南…なにやってる…」
華南「悪りぃ…」
すまなさそうにした華南を、谷崎が俺の隣に座らせ、谷崎は入り口前に立ったまま、バツが悪そうにしていた。
奏一「さて。むつの話しは済みました。次は華南だね」
むつ「済んでない!」
机に身を乗り出したが、すぐに華南に止めらた。
華南は、奏一さんの睨みに動じず、真っ直ぐ見返した。
華南「俺、むつと修二が好きです!」
奏一「…」
谷崎「はぁ!?」
奏一さんは、やっぱり知っていたのか、表情は動かず。代わりに事情を知らない谷崎が度肝を抜かれたように華南と俺を交互に見て指差した。
華南「奏一さんの胸中が穏やかじゃないのは分かります。いえ、俺に分かるのはせいぜい一握り。貴方の気持ちを理解するには到底及ばない。男同士とか、3人だとか、修二の過去とか、複雑で、俺みたいなガキに何が分かるって言われても仕方ない。簡単に受け入れてもらえるなんて思ってない!でも、一つだけ信じて欲しい、俺たちは修二を好きで、百目鬼から守ってやりたい!」
華南の言葉を黙って聞く奏一さん。
一方谷崎は落ち着かない様子で華南と奏一さんを交互に見ている。
奏一「…むつにも言ったけど、君たちじゃ百目鬼に勝てるわけがない」
華南「それは、百目鬼がまだ修二を狙ってるってことですね?」
ハッ!そうゆうことなのか?
奏一「…。君たちには関わってもらわなくて結構だ。数日中に方がつく。これ以上関わるようなら、病院のベッドで大人しくしていてもらう他無いが…」
華南「脅しても無駄ですよ。百目鬼がまだ修二を狙ってるなら、黙ってられない!」
奏一「脅しじゃない、警告だ」
華南「百目鬼は、まだこの街に?だったら今修二は何処に?1人じゃないですよね!?」
奏一「…修二は俺の仲間のとこに居る。百目鬼は、今はこの街にはいない、修二の心配より、自分の心配したらどうだい?君たちは、百目鬼に喧嘩を売ったんだよ?こっちは君らの面倒なんて見てられない…」
俺は何も聞き出せなかったのに、華南がわずかな情報を聞き出した。百目鬼はこの街にはいないが、きっと修二を諦めてない。
奏一「俺は、忙しい…が、君らが俺に喧嘩を売るなら、売られたケンカは倍にして返す。華南からもむつに言ってくれないか?うちの鍵の俺に返すように」
むつ「奏一さん!俺、悪いことはしてない!修二を好きなだけだ!」
奏一さんは、俺を見ようともせず、華南を一層怖い顔で睨んだ。
奏一「華南、二人仲良く病院行きになりたくなきゃ、鍵を返すようにむつに言え、俺は本気だ」
ドスの効いた殺気混じりの声で、華南を威嚇した。華南は現役の奏一さんを知らない。だからゾッと驚いて体が一瞬ピクッと震えたが、視線は奏一さんを捉えたままだ。
華南「俺は、人として優しくて、時に厳しく俺たちを見守ろうとする甘えベタな泣けない修二と、普段 手はかかるけど、俺たちを強い前進力で前へ引き続けるむつと、3人で一緒にいたい。影に日向に修二を支えて来た奏一さんには到底及ばなくても、俺たちは修二を泣かさないし、奏一さんが修二を守っていく邪魔はしない」
奏一「……、話しにならない…。俺は帰る」
奏一さんは突然立ち上がり、俺たちを見もせずドアに向う。
むつ「奏一さん!俺!修二から離れる気は無い!!奏一さんを裏切ってる気もない!ただ…」
奏一「そうだ…、鍵はもういらない。玄関の鍵は別のに交換する」
むつ「奏一さん!俺たち、真剣なんだ!!」
奏一「…話はお終いだ」
引き止めるのも聞いてもらえず、個室から出て行ってしまった。
追いかけようとしたけど、谷崎に止められ、「今は複雑だから俺に任せろ」と言って奏一さんを追いかけた。
むつ「……複雑なのは…分かる…、でも、俺はマジに真剣だ…」
閉ざされた扉を前に。修二や吉良さんが散々言ってたことを思い出す。俺は、好きだから一緒にいたり触ったりしたいのに、それが、世間では非難される…。たいしたことないと…高を括って、このありさま。
けして軽く考えた訳じゃない。
少なくとも、奏一さんは修二を好きだと言った俺と華南を罵倒したり気色悪がったりしなかった。驚いたのも、最初だけ…。
修二と別れろとか、近づくなとは言われなかった。それって別れなくていいって事?
それに…華南のこと…知ってた風だった。じゃあ何故俺が話し出すまでは普通にしてた?
分からない…。俺には…さっぱり…
むつ「…華南…なんか知ってるの?」
華南「……」
むつ「華南!」
華南「あっ、いや、何も…。奏一さんって…昔はああだったのか?」
むつ「…喧嘩が始まったらあんなもんじゃないぜ」
華南「…想像以上だった…」
むつ「…ああ、久々に見たけど…背筋が凍ったね…」
華南「…むつの言った通りだったね」
むつ「俺、何か言ったっけ?」
華南「偏見とか小ちゃな人じゃないって…、少しは言われるかと思ったけど、何も言ってこなかったし、修二から離れろとも言わなかった」
むつ「それってそばにいていいって事?」
華南「難しいとこだね。…ただ、流石は兄弟、修二の兄だね。難攻不落…簡単には気持ちを聞き出せそうにない…」
むつ「…ああ、確かに似てるね…。あの人の…弱音とか、愚痴とか聞いたことねぇわ」
華南「…なんとかしないと…」
むつ「…そうだな…」
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谷崎「奏一!」
カラオケ近くの駐車場で、追いついた谷崎は、車に乗り込もうとした奏一を呼び止めた。
奏一「…フォローは亮司さんに任せます」
谷崎「お前、3人のこと知ってたのか?俺はてっきり地獄絵図になるかと…」
奏一「…ええ、知ってました。亮司さんが報告義務を怠ってたことをね」
谷崎「ヒィ…すまん。でも、修二に黙っててくれって頼まれたんだ。高校生の間だけだからって…」
奏一「……まったく、あいつは…」
谷崎「知ってて見守ってたならあんな風に脅さなくても…」
奏一「彼らがどうゆう風に付き合ってるのかは、修二の顔を見てれば分かる…。華南は、なかなか寛容だし。それに、百目鬼に再会して、どうなるかと思ったけど…、むつがまた、修二を引き戻してくれた…」
谷崎「それなら、なんで脅した。付き合ってることには反対なの?」
奏一「…百目鬼の件には関わらせない。そのためにあいつに2人をかくまってもらってる」
谷崎「ああ、そうでした。」
奏一「俺は、何が起こっても修二の味方だ。修二を泣かすようなら許さない」
谷崎「…ただのブラコンかよ」
谷崎の小声に、奏一はにっこり微笑む。
奏一「亮司さんは、電車で帰って下さいね」
谷崎「ええ!?いや!すまん!俺はただ…認めてやるならそう言っといた方が…」
奏一「認める?俺は華南とむつを認めるかは決めてない、あいつらは〝今〟宣戦布告してきた、俺はそれに乗っただけだ」
谷崎「やっぱりブラ…」
ーブロロ
奏一「駅はあっちですから、それでは失礼します」
谷崎「あっ!おい!鞄!財布が車の中なんだ!奏一!まって!奏一く〜ん〜!!」
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