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番外編END泡になって消える狂愛に口づけを
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泉に連れられて先生の家に行く間、何度も車から逃げようと思った。
先生はどうせ全部知ってる。
来客があの人なら、泉か先生が呼んだ…
あの人の意思ではないのに会ったところで
何にもならない…
むしろ…引導を渡されるだけだ。
あの人の気持ちは分かってる。
あの背中が全て語ってた…。
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先生の家の前に、黒い車が止まっていた。
ードキンッ
百目鬼さんの車に似てる…
百目鬼さんの車なら。
助手席の前のBOXのところにぬいぐるみが置いてあるはず。
先生に呼び出されて、百目鬼さんの車に似た黒い車、その時点で分かり切ってた…
だけど確かめずにいられなかった。
そうであって欲しいのと…
そうであって欲しくないのと…
会いたく無いような…
でも会いたい…
緊張で心臓がバクバクいいながら痛んで…
意を決して助手席を覗き込む
ードキン、ドキン…ドッ!!
マキ「ぁ…」
そこには…
(ッーーーーー!!!!!)
イルカのぬいぐるみ、だけ、置かれていた。
…胸に走った強烈な痛み…
そして自覚する。
痛むような〝気持ち〟が実在したこと…
〝百目鬼神〟が、好きだってこと…。
失恋して自覚する…。
バカみたいな話だ。
でも、仕方ない…
痛みの中に〝嬉しい〟という感情が混ざっている。
そもそも、百目鬼神に惹かれたのは、彼が修二を狂うほど好きだったからだ…
修二を気に入ったのも…
華南を気に入ったのも…
一途に恋していたから…
むつを気に入ったのは、天然素材の面白さの方が上だけど…彼もまた、一途に熱い…
変わらぬ一途な愛情があることが、嬉しくて、羨ましくて…、とても愛おしかった…
そんな恋愛が…したかった。
そんな愛情が欲しかった…
そんな風に一途に想われたかった。
一途で優しい百目鬼さんが好き…
それでいい…
いっ時でも相思相愛の体験が出来て
幸せだった…
泉「マキ?」
泉の心配そうな声に、現実に引き戻された。
マキ「あっ…、ごめんごめん。来客に挨拶ね。はいはい。そしたら本当に開放してよ♪」
泉「マキ」
マキ「…」
泉「今日を逃したら、次は無いかもしれません、あの人は、しばらく潜入捜査に関わるそうです。何処かに潜り込むために、外界と連絡を断ちます。」
マキ「はいはい。ちゃんとすればいいんでしょ?しますよ、しますとも、サマーバケーションが待ってるし、浴衣姿の修二とむつをいじり倒して華南をムハムハ言わすの楽しみだもの♪」
泉「マキ…」
ーガチャ
先生の家の玄関が開き、中から大柄な男と、ひょろっと安いチンピラみたいな2人組が出てきた。久々に見る百目鬼と、矢田だった。
そして、二人の姿を見た瞬間、予想もしてない彼の有様にマキはびっくりした。
マキ「ええ!?何その怪我!?」
何と、2人とも包帯やらガーゼをしていた。
真夏らしく、半袖のシャツに柄のダサいズボンの矢田は、頭にガーゼにネット。手首には包帯がまかれ、足もびっこ引いて歩いる。
一方。真夏なのに背広をキチンと着ている百目鬼は、頬に大きな湿布。手に包帯を巻いていた。
2人の大怪我に思わず声をあげてしまったマキ。その声に、百目鬼と矢田がマキの存在に気づいた。
矢田「あっ、あの時の美人さん」
百目鬼は、マキを視界に入れた瞬間、眉間にシワを寄せてマキを睨み、ポケットから煙草を出し、火をつけてこちらに歩いてくる。
マキ(あは、睨まれちゃった…♪、でも…あの怪我どうしたのかな?こないだのは解決したっていってたから別の事件?)
マキ「…怪我したの?大丈夫?じん…」
百目鬼「お前には関係ない」
切り捨てるように言われ。彼の視線は逸れた。
ふふッ♪ティーカッププードルがライオンに戻ってるぅ。
名前…呼んでもらえるわけない…か。
マキ「痛いそうだけど、元気そう♪」
矢田「平気っす!天罰ですから」
百目鬼「矢田!」
矢田「す、すいやせん」
百目鬼のドスの効いた声に縮み上がった矢田。これ以上聞いたら矢田がまた口を滑らせて怒らせそうなので、可哀想で聞くのをやめておいた。
マキ「百目鬼さん、イライラしてるなら、僕に連絡くれればいいのに、また気晴らし付き合うよ♪」
マキの言葉に百目鬼は見ようともせず、マキの前を素通りして吐き捨てる。
百目鬼「俺は忙しい…ガキはガキらしく勉強してろ、夜更かしするな」
夜更かし…、先生が僕のこと教えたのか…。
マキ「無理無理、僕、寝つき悪いから♪」
百目鬼「…」
マキ「百目鬼さんが毎晩おやすみの電話してくれたら寝れるかも♪」
百目鬼「淫売が、俺相手に色目使って商売すんじゃねぇ」
マキ「テヘ、バレたか♪」
泉「…」
百目鬼「てめーみたな淫乱と付き合ってる暇はないんだ、これから潜る」
マキ「うん知ってる♪今度潜入捜査手伝うらしいじゃん♪僕、気晴らし以外も結構役に立つよ、少年とかに情報収集とか、囮とか、使ってよ。僕、護身術出来るし、結構強いし、足も早いし、美人だし♪」
百目鬼「…色仕掛けで床上手か?」
マキ「…キャ♪褒められちゃった♪」
泉「…」
嫌味を言われて軽く返す。
百目鬼は、その軽さにイラッとしてマキに詰め寄りながら声を荒げる。
百目鬼「お前みたいな身の程をわきまえないガキが、薬漬けにされて輪姦されて沈められるんだよ!お前も将来、股おっ広げて誰のかわかんないの垂れた流しながらラリって捨てられるんだろうよ!」
不穏な空気に、矢田が縮み上がってオロオロしているが、マキは百目鬼の言葉を静かに受け止めてにっこり微笑んだ。
マキ「うん、そうだね、気をつけます♪」
百目鬼「ッ…気をつけてどうにかなるもんじゃねぇーんだよ!」
怒りに胸ぐらを掴んだ瞬間、百目鬼の顔色が変わった。
百目鬼「…!、これ…修二の服…」
百目鬼がマキの着ていた薄手のパーカを見て驚いている。
マキ「ああ、さっきまで一緒にいて、貸してもらった♪羨ましい?」
百目鬼「…」
百目鬼の眉が複雑に歪む。
マキ「あは♪ごめん、今脱ぐね」
少し意地悪しすぎたと思い、マキがチャックを下ろして脱ごうとして肩が露わになると…
矢田「うわっ…」
矢田の息を飲む声で、百目鬼の視線がマキの着ている修二の服から、マキの胸元に移ると、百目鬼は目を見開いた。
パーカーの中は、濡れたランニングシャツ、肌が透けて見えるどころか、桜色の突起の形や大きさまではっきり見え、さらに、ランニングの中に隠れていたネックレスのトップスが目に止まった。
百目鬼「!!」
百目鬼は脱ごうとしたマキのパーカーを両手で掴みかかり、素早く着せて厳重にチャックを上まで閉める。
マキ「え?」
百目鬼「着てろ」
低い声で命令されて、マキは目を瞬かせる。
マキ「ぅ?…うん…」
すると、百目鬼はそっぽを向いて、煙草をプカプカふかし、眉間を抑えて動かなくなった。
マキ「…百目鬼…さん?」
百目鬼「おま……チッ」
マキ「…?。…怪我…痛む?無理しないでね」
百目鬼「…ッ俺は、色々と忙しい、色々と混み合ってんだよ、やることだらけなんだよ、一つのことしか出来ない、全部片付くのはいつになるのか分からない」
マキ「…」
矢田「そんなことないっす百目鬼さん!あなたは敏腕っす!俺、貴方の負担を減らせるように頑張って手伝いますから!」
百目鬼「……矢田、お前は今のままでいい、手間が増えちまう」
矢田「す、すいやせん」
マキ「…」
泉「…」
百目鬼「…矢田、行くぞ!」
百目鬼がさっさと車に乗り込む
矢田も慌てて後に続き、つまづいつ手荷物をばら撒いた。
百目鬼「何やってる!」
百目鬼が怒鳴りながらも手伝おうと車を降りようとしたら、矢田が必死に静止する。
矢田「あ!大丈夫です!!百目鬼さんはそのまま!そのまま乗ってて下さい!!」
確かに、地面に散らばったのは手伝うほどの量じゃない、百目鬼は後部座席に戻る。
泉とマキが拾うのを手伝い、矢田がペコペコ謝る。
マキ「はい♪汚れて無いですよ♪」
矢田「す、すいやせんありがとうございます!」
マキ「泉、僕先行くね」
矢田「あっ」
矢田がマキを引きとめようとしたが、マキは、踵を返し、逃げるように先生の家に入っていく。
矢田「あぁ…」
泉「どうぞ…」
矢田「あっ、すいやせん」
泉「全部ありますか?…」
矢田「(小声)あの!百目鬼さんは誤解されやすいんです!」
泉「は?」
矢田は、必死な顔で訴える。
矢田「(小声)あの人優しいけど、口が悪くて!心配度合いが上がると言葉がキツくなるんす!だからさっきのは…」
泉「…」
百目鬼「矢田!!」
矢田「は、はい!」
百目鬼「早くしろ!」
矢田「はひ!!すいやせん!!」
矢田は泉にぺこりと頭を下げ、慌てて運転席に乗り込んむ。足を怪我しているために慌ただしく動きドスンと座席に乗り込み、バタンと扉を閉める。
ーポロッ
あまりに矢田が車体を揺らすので、後部座席の背もたれの上に置いてあったものが落ちて百目鬼のそばに転がる。
百目鬼はそれを拾って、また後部座席の上に飾り直した。
矢田「あっ、すいやせん、水玉の魚また落ちちゃいました?」
百目鬼「…マダラトビエイだ。いつも落ちてくる。気にするな、早く出せ」
矢田「はい、出発します。(落ちるから後ろに置かなきゃいいのに…)」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
泉が、先生の家に入ると、マキが上を脱ぎ捨て、着替えをしようとしていた。
ーブロロロ
車の発進音に反応して、マキが窓から百目鬼の車を眺めた。
泉「…マ」
マキ「泉、何も言わないで…、分かってるから…」
泉「…」
窓からこちらに振り返ったマキは
にっこり微笑む。
涙はない。
胸元にキラリとネックレスが光った。
泉「そのトップス、変わってますね」
マキ「ふふ、キーホルダーのやつ、付け替えたの。大きすぎるけど、綺麗でしょ♪」
泉「綺麗な青い海と魚ですね。マキの好きなラ○センですね」
マキ「うん、…すごく、大好き」
もしも、
あの日、百目鬼さんと相思相愛になった体験をしなければ、こんなに辛くはならなかったろう…
でも、
あの体験をなかった事にしたいか?
って、聞かれたら、僕は体験して良かったと思ってる。
あの日の百目鬼さんは、あまりに理想すぎて…あまりの熱量に幸せ過ぎて…夢みたいだった。
現実ではないと言われた方が納得行くし
あんなの幸せ過ぎて溺れてしまう。
主導権を取られちゃうのは苦手…
でも…
マダラトビエイのぬいぐるみ…
…捨てられちゃったのは…残念だな…
フフッ…、幸せな夢だった…。
百目鬼さんのことは、好き…
でも、あれは夢だった
それで十分だ。
神さん…、もう、イタズラしないから、いつかまた、遊んでね…。
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