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番外編8ひと夜咲く純白の花の願い
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ーガチャ
夜7時過ぎ。
百目鬼が仕事を切り上げ三階へ帰ってきたのを、マキは玄関でニコニコ出迎えた。
マキ「おかえりなさい♪」
ふふ、おかえりなさいって言っちゃった♪
修二達の見てて一回やってみたかったんだ♪
マキは、百目鬼の布団で眠って久々にいい夢を見た。短時間だが、眠気もスッキリ。
百目鬼「…。ただいま…」
百目鬼は、家にマキが居るのを知っていたのに、少し驚いた様子でジッとマキを見つめた後、視線が下がり、靴を下駄箱に仕舞う。
あれ?怒ってる?
マキ「早かったね♪」
百目鬼「一般は来ないからな、今日はもういい」
不機嫌なオーラ。疲れた顔の百目鬼が、マキと視線を合わせずリビングのソファーにどっかり腰を下ろした。
百目鬼が上着を脱いでネクタイを緩めていると、ミケが百目鬼の足に擦り寄る。
百目鬼「ただいま。なんだ、いきなり飯の催促か?」
頭を優しく撫でると、ミケは喉をゴロゴロと鳴らした。
優しい表情の百目鬼。
動物に話しかけるなんて意外で、マキはジーっと見てしまった。
足にまとわりつくミケをそのままに、百目鬼は、ソファーの背もたれに一度深く腰掛け、
深いため息をついた。
そして…
百目鬼「そうだ…」
何かを思い出し、リビングから居なくなった。
リビングに戻ってきた百目鬼は、手に現金の束を持っていた。
百目鬼「受け取れ、昨日無茶なことした分と女装の代金だ」
マキ「…」
目の前に、一万円が十枚強。
一瞬で頭の中が冷えた。
胸が…痛い…
百目鬼さんの…話し…
って…
コレ?
僕にお金を渡すことだったの?
百目鬼さんの中で…
僕は〝淫乱な売り専〟のままなんだな…
また、小さくズキッと痛みが走る。
引き止められたのは、キッチリと清算したかったから…。
それなのに、1週間お泊まりをお願いしちゃったりとか、…僕は何をやってるんだ…。
違う、なに言ってんだ。
まるで自分のためみたいに…
違う、泊まるのは疲れてる百目鬼さんに恋人を作って元気にしてあげるため…
仕事だ…
マキは、へらっと笑った。
マキ「ふふ、百目鬼さん、僕、お金で体は売ってない。SM調教の技術料は取ってるけど、本番しないし。昨日のは派遣されたんじゃない。それに取引は、先生がやってる。僕個人はやらない。だからお金をしまって」
好きな人にお金を払われる。
それってけっこうクるね…、勉強になった。
マキは、ヘラヘラしながら、自分を分析する。
百目鬼「じゃあ先生に言えばいいんだな?」
…酔って、誰かと間違えられた。
それだけの方がまだマシだった。
僕は色んな人とセックスした、ビッチだって自覚がある。
百目鬼さんが僕をよく思ってないのも知ってる…
でも……
でもさ……
マキ「あは♪、それは困るよ。僕はこの腕の怪我を先生に隠したくてここに泊めてもらうんだよ?百目鬼さんが先生に言ったら、昨日の事も話すんでしょ?」
百目鬼「…」
マキ「昨日のはプライベートのセックス♪、酔った勢いの一夜の誤ち。この女装の見返りは、泊めて貰う事。でしょ?」
百目鬼の瞳が鋭くなる。
そして視線をそらした。
百目鬼「泊まりのことだけど、やっぱり無しにしたい」
ズキリと鋭い痛みが走る。
この雰囲気には覚えがある。
惚れ薬が切れた後の冷めた百目鬼さんだ。
嫌な予感しかしない。
胸の痛みに負けそうで、笑顔が引きつる。
百目鬼さんが僕を見ないのが唯一の救い。
気持ちを立て直し、仕事だと言い聞かせ、完全に心を切り離す。
第三者を見てると思えば、顔には出ない。
………あぁ…そういえばむつにはバレたか…
目に出るみたいだから、注意しとこう。
マキは笑顔を崩さない。
軽く返した。
マキ「え?…どうして?」
百目鬼「矢田に…、俺のことが好きだから付き合いたいって言ったそうだな。どうしてそんなふざけたこと…」
ードキッ
心臓が嫌な音をして軋んだ…
一瞬、優しい瞳の修二を思い出した。
『素直になってる方が可愛いよ。凄く可愛いし、美人だし、その人もマキを好きになると思うよ』
マキは、その優しい響きに目を瞑り、静かに心の中で呟いた…
ほらね…
嫌われてるって言ったろ?
修二とむつと華南に出会って、僕は馬鹿になってた…、あの子達に憧れるばかりに、過去の自分の誓いを破った…
『あんな思いは二度としない…』
その誓いを破って、またこんなことになってる。
馬鹿だなぁ…
憧れるあまり、もしかしたらなんて思うからこんな気持ちになるんだ。
ふふ、修二達につられた…
そして、冷めた自分が百目鬼の言葉を冷静に受け止めた。
〝好きだと言ったら、追い出されるのか…〟
自分のことなのに、自分の事じゃないように、目の前でショックを受ける自分の心を、別の自分が冷ややかに見下ろす。
そして分析する。
〝好きだとバレてはいけない…〟
〝矢田の厄介加減は良く分かった〟
〝油断したら瞳でバレる…〟
〝百目鬼さんはまだ暴走癖に悩んで次に進めてない〟
〝こんなことで泣きそうな自分がいる〟
でも、マキは合い判する反応をした。
瞳を瞬きキョトンとして…
マキ「え?言ってないよ?」
キョトンと軽く返した。
百目鬼「え?」
僕があまりにもあっさり返事をしたから、重たい雰囲気だった百目鬼さんが、鳩が豆鉄砲食らったみたいに驚いた。
言ってない。
『好きだから付き合いたい』なんて
本当にそんな事言ってない。
どう思ってるか聞かれたから、可愛いって答えた。
可能性ありますか?と、聞かれたから、僕はあるけど彼は無いと思うと答えた。
だから、『好きだ』とも『付き合いたい』とも言ってない。
僕は嘘はついてない。
だからだろう。
意外と言葉は、するりと出てきた。
百目鬼さんは、僕が嘘をついてるんじゃないかと凝視して観察してきたけど、僕は真っ直ぐその目を見返した。
百目鬼「でも…矢田と話したんだろ?」
マキ「ふふ、話したよ?百目鬼さんが仕事人間で倒れちゃうから、お嫁さん探してるって。矢田さんに百目鬼さんはどうですかって言われたから、可愛い人ね♪って」
百目鬼「可愛い!?」
マキ「そうそう、ツンデレだから?ふふふ」
百目鬼「お前、ふざけんな」
マキ「ふざけてません♪、だって会ったその日にセックスしちゃった女が、その相手を貶したらおかしいでしょ。そこは、『一目惚れで…』って言わないと」
百目鬼「うっ」
マキ「ちゃんと女の子のフリしたよ、それなのに追い出すの?酷いなぁ」
百目鬼「だから、金を受け取れ」
マキ「僕が困ってるのは、お金じゃなくて、泊・ま・る・と・こ♪」
百目鬼「でも…」
マキ「…んじゃ仕方ないね、家主が泊めたくないなら、出てくよ、それでいいでしょ?」
百目鬼「…いや、出てけとは言ってない」
泊められないって言ったのに?
おかしな百目鬼さん。
マキ「言ってないけど、嫌なんでしょう?」
百目鬼「…」
答えは、返ってこなかった。
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