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番外編17ひと夜咲く純白の花の願い
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夜7時過ぎ、百目鬼は仕事を引き上げるところだった。
矢田「百目鬼さん…ゴホゴホ!…」
百目鬼「矢田、風邪か?早めに薬を飲めよ」
矢田「あ、ありがとうございます!あの、賢史さんから、お電話っす」
百目鬼は、嫌な予感がした。
案の定、賢史からは急ぎの依頼。
百目鬼「クソ、今は野良猫の世話があるから家はあけられねぇのに…」
百目鬼がブツブツ言いながら三階自宅の玄関を開けると、部屋には美味しそうな匂いが充満していた。
マキは料理が出来ない、となると…。
百目鬼「雪哉!!何してる!!」
部屋には、台所に立つ雪哉と、女装のままのマキが仲良く料理していた。
雪哉「寒いから、今日はシチューにしたよ」
百目鬼「したよ、じゃねぇだろう、家主が居ないのに上がりこむな」
雪哉「ウフフ、マキ様が入れてくれました。2人で作ったんだよ」
百目鬼「こいつと?」
疑いの目を向けると、マキはオタマでシチューを混ぜながら、照れたようにはにかむ。
百目鬼「お前、混ぜただけじゃねぇの?」
マキ「えへへー、バレちゃった♪」
百目鬼「あー、よかたった胃薬飲まずに済みそうだ」
マキ「ブーブー」
雪哉「神、酷ーい」
マキと雪哉が作ったシチューを食べながら、雪哉と完全に打ち解けてるマキが仲良くおしゃべりしてる。
百目鬼は、良い意味でも悪い意味でも感心する、マキはどんな奴でも虜にしてしまう…。
雪哉「でねでね、毎年クリスマスに俺の作ったケーキでみんなでパーティーするんだよ。マキ様も食べて」
マキ「雪哉さんの美味しいケーキでパーティーって贅沢だね♪」
雪哉「是非是非食べてよ!2種類のプッシュドノエル用意しました、チョコとイチゴがあるよ。二次会は菫ママの所で…」
百目鬼「駄目だ」
百目鬼が喋ると、マキと雪哉が同時に百目鬼を見た。
雪哉「なんで、いいじゃない」
百目鬼「こいつは未成年だし、その日は家に帰る日だ」
約束の1週間。
クリスマスが最終日だ。
マキ「…」
雪哉「えー!帰っちゃうの!?やだよ、マキ様ともっと一緒にいたい!」
百目鬼「雪哉、お前の都合で考えるな!こいつだってクリスマスに予定があるだろうが」
雪哉「えー!無いよ!だってさっきパーティーに参加しするって…」
マキ「ごめんなさい雪哉さん、パーティー行きたいし雪哉さんのケーキ食べたいけど…、僕、先約があります」
マキが申し訳なさそうに言った。
雪哉はそれを見て、百目鬼をブスッと睨む。
雪哉「ちょっと神!そんな言い方するから、マキ様が〝来るな〟って言われたと思ってるよ!」
百目鬼「は!?俺はそんなこと言ってないだろ!」
百目鬼は、マキにも予定があるだろうと言っただけなのにと弁解しても、雪哉はプリプリと怒る。
マキ「あっ、雪哉さん大丈夫です。百目鬼さんの言ったこと誤解なんかしてませんから」
雪哉「いや、さっきのは誰が聞いても誤解させる言い方だった!」
マキ「あの、本当に先約があるんです」
雪哉をなだめるマキに、雪哉も少し落ち着きを取り戻す。
雪哉「じゃあイブは?イブはまだいるんでしょ?」
マキ「雪哉さん、イブは百目鬼さんと2人で過ごして下さい」
雪哉「え?」
百目鬼(は?)
マキはニコニコ笑いながら、雪哉に言った。
マキ「雪哉さんには美味しいケーキ食べさせてもらってばかりだから、お礼に少しレクチャーしてあげますよ」
雪哉「え♪」
百目鬼「はぁあ!?」
雪哉は嬉しそうに驚き。
百目鬼は信じられないといった表情。
百目鬼「ふざけるのもいい加減にしろ!」
マキ「ふざけてないよ♪真面目♪。百目鬼さんも仲間はずれにしないから、安心してよ。セックスは片方が頑張っても意味ないからね」
百目鬼「お前は、そこまでして商売したいのか!」
雪哉「ちょっ、神!!」
マキの胸ぐらを掴んだ百目鬼を、雪哉が止めに入る。
殴るんじゃないかぐらいの鋭い眼光でマキを睨みつける百目鬼は、マキの胸ぐらにさらに力を入れた。
マキは、百目鬼の好きにさせていて、静かな瞳で百目鬼を見上げる。
マキ「商売じゃないよ♪、お礼だから♪、百目鬼さんもせっかく相手が居るんだから、早く暴走癖治したいでしょ?」
百目鬼「てめぇーに関係ねぇだろうが!」
マキ「…」
雪哉「神!手を離して!」
雪哉の言葉に、百目鬼は憎らしげにマキを睨みつけ、手を解いた。
百目鬼「おめぇーみたいなのに言われなくても、こっちでなんとかするんだよ!だいたいお前が現れなきゃ、あんな事には…」
雪哉「神!!」
百目鬼「…ッ」
マキ「…」
苦々しい視線を逸らした百目鬼は、心の中で吐き捨てた。
百目鬼は…、マキに惚れ薬を飲まされた後から、マキと再会するまで、1度も暴走しなかった。
マキと一緒にいると時々、無性にイラっとすることがある。ヘラヘラ笑う嘘つきな笑顔、その仮面を引っぺがしたくなる。
マキと再会しなきゃ、こんな気持ちにはならなかったはずだと、悔しさが滲む。
分かっているからだ。
マキのせいなんかじゃないと。
全て自分のせいだと。
でも、マキが、セックスを軽々しいものみたいに扱うのに腹がたった。
好きになった人を泣かせたくなる自分の衝動に対する悩みを、ヘラヘラ扱うマキに、腹が立って仕方がない。
どんなに心では相手を大切にしたいと願っても、相手を泣かしてしまう。泣かせて求められると分からないと満足できない。この苦しさを、マキには分かるわけないと…。
百目鬼(1年半前のあの日、そんな全部を包んでくれる幻を見せ、そんな人間は幻なんだとこいつが俺に突きつけた
『神さん…』
あのマキは幻だ…)
時々無性に、ヘラヘラ笑うマキを泣かしたくなる。
嘘くさい笑顔。
わずかに真実を語る瞳を隠して、傷ついた顔すらしない。
百目鬼は、自分が酷いことを言ってる自覚はあった。でも、本音の見えないマキが、百目鬼の内側に簡単に入ってきて、見透かして何かするのが無性に腹立たしい。勝手に入って来て勝手に出て行く魔性マキの本音を見たいと思うと、強く出てしまう。
前もそうだった。どんなに強く言っても、マキは笑ってかわす。
1度くらい泣いて人間味が見れればマキという人物が分かるような気もするが、マキは、一向に泣く気配はない。
マキを泣かせて、嘘ばかりの皮を剥いだら、この訳の分からないイライラが晴れるかもしれない…
そういう風な残酷な感情を刺激したかと思うと、幼い子供のような表情をする、触っただけで酷く傷つけてしまうんじゃ無いかと思うほど、脆く見える瞬間がある。
1人で眠れないマキ。
傷ついても笑うマキ。
子供には、母親のように優しいマキ。
マキは、一体本当はどんな人間か…?
百目鬼は、まだマキという人間が分からないでいた。
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雪哉が帰って、風呂にマキを入れてやり、百目鬼もシャワーを浴びて出てくると、マキがソファーで毛布に包まっていた。
こいつ、添い寝がないと寝れないくせに…、またどっかで倒れられて、困るのはこっちなのに!
百目鬼「おい!」
マキ「あっ、百目鬼さん、おやすみなさい」
百目鬼「おやすみなさいじゃねぇ!さっさとこっち来い!」
マキ「え?」
ジュピター色の瞳が、キョトンとした驚きで揺れている。
何をすっとぼけてるのかイラっとした。
百目鬼「つべこべ言わずにベッドで寝ろ!」
マキを百目鬼のベットに押し込むと、マキは驚き困惑した顔をしている。
イラっとしたので、頭を掴んで枕に押し付け、ジュピター色の瞳が見えなくなるようにおでこらへんに左手を添える。
百目鬼が黙ってると、マキも黙ってる。
コチコチ時計の音がやけにハッキリ響いて聞こえて…、沈黙が目立つ。
自分の足元でモゾっと寄り添ったマキの体温に、百目鬼は、耐えられなくなった。
百目鬼「……………さっきは俺が悪かった」
絞り出すような小さな声。
しかし、マキからは規則正しい寝息が聞こえていた。
百目鬼「…クソ、面倒くせぇー」
百目鬼は、寝ているマキの頭をそっと撫でる、寝顔は幼い…。
嘘くさい笑顔。嘘しか言わない唇。子供は寝てる時は天使だと言うが、マキはまさにそのとうり、寝顔は天使だ…
嘘ばかりの唇をふにふに摘んでいると、マキがブルッと震えた。
寒いのか、さらに縮こまる。
百目鬼はマキに掛かってる布団を顔が埋まるくらい引き上げ、そっと背中をさすってやる。
その綺麗な寝顔に、頭の中を引っ掻き回される、未だにあの日の幻が消えない…
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