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番外編70ひと夜咲く純白の花の願い
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病院に行くまでは、百目鬼さんの運転する車で移動した。後部座席にむつと華南に挟まれ。
華南はずっと僕を気遣ってくれくれるけど、その擽ったい感覚に居心地が悪い。
むつは僕の右手をがっちり掴み、運転席の百目鬼さんを睨みつけてた。
傷は、やっぱりこんな大騒ぎするほどじゃない。刃が片面だったことと、ポケットナイフだから、そこまで鋭利な刃物じゃなかったから、神経は無事だし、刃側と接した指が〝ちょこっと〟切れただけ…。
唯一の難点は、痛くて手を閉じたり開いたりはしんどいから、左利きの僕は、〝ちょこっと〟不便するってだけ。
診察には百目鬼さんだけついてきた。
後の人は総合受付前の待合室で待機。百目鬼さん以外が良かったけど、百目鬼さんは譲らなかった。大人しく診察を受ければ満足なんだろうと思って僕は抵抗を諦めた。
処置室に移動し、看護婦さんが処置していると、急に百目鬼さんがあの話題に触れてきた。
百目鬼「マキ、茶封筒の事なんだが…」
ズキッ……………………………。
マキ「ふ……今する話し?」
百目鬼「今ならお前は逃げられない」
まぁ、確かに、手を固定して消毒して包帯巻こうとしてる今なら、確かに僕は逃げられないと思うよ。
でも、看護婦さんいるんですけど。
百目鬼「あの中身は給料なんだ」
マキ「はいはい、僕の労働(セックス)に対する給料ね♪、でも、いらないから♪」
マキの言葉のニュアンスに、真実が伝わってないと感じた百目鬼は、ポケットから茶封筒を取り出し、その中から白い紙を出した。
百目鬼「誤解だ。これは、お前が俺の事務所を手伝っだてくれたり、依頼を取ってきた事への、正当な給料だ。明細もちゃんと入ってた」
目の前に提示された紙には、日付や時間。猫探しをした日から、毎日、僕が事務所に顔を出した時間、外で探偵事務所の話しをして依頼に繋がった案件の件数と、案件の数の報酬金額が加算された額が書いてあった。
なにこれ。こんな事してまで僕に〝給料〟ってやつを渡したいの?
マキ「ふふ、手が込んでるね♪」
百目鬼「マキ、勘違いさせる原因を作ったのは悪かった、ちゃんと謝る、だから、俺の話しをちゃんと聞いてくれ」
聞きたくない。
早く包帯巻き終わらないかな…
もう、こんなとこ一分一秒だっていたくない。
マキ「修二やみんなが居て、これから僕たちについて説明しなきゃいけないから取り繕ってるなら、必要ないよ。僕は修二に言う気はないし♪。処置が終わったら消えるからさ♪。修二と心置きなく話して来なよ。僕とのことは、ちゃんと無かったことにしたから」
百目鬼「マキ、本当に悪かった。修二を探してたんじゃないお前を探しに来たんだ。俺は無かったことにできる事じゃないと思ってる」
無かった事にしろよ。
今朝起きたら姿がなかった。
昨日のことには何も触れない…
昨日のこと、覚えてないくせに…
マキ「ふふ、百目鬼さん、自分の首自分で締めるの止めなよ。無かったことにしよう。僕は忘れたから」
百目鬼「そんな事には出来ない、お前とちゃんと話しがしたい。聞いたんだ、矢田や賢史がお前にやった事…」
ッ!?
矢田さん喋っちゃったのかよ!なんて余計な事を…。折角終わらせたのに。全部捨てたのに。次から次へと…。
マキ「なんの事?」
百目鬼「…」
マキ「ああ、矢田さんに男だってバレちゃったこと?大丈夫百目鬼さんの秘密は喋ってないよ。矢田さんは本当に百目鬼さんが好きなんだね、僕怒られちゃったよ♪仕方ないよね、僕みたいなのに尊敬する百目鬼さんの周りをウロつかれちゃたまんないもんね♪矢田さんのこと仕事出来ないとか言ってたけど、矢田さん一人で僕の正体調べたんだよ、優秀じゃない♪」
百目鬼「マキ、俺は矢田から全部聞いた。賢史がお前にしたことも…、本当にすまない」
…謝らないで…。
僕をこれ以上…
可哀想だと思うのはやめて…
百目鬼「矢田が俺の伝言を間違って伝えたんだ。この茶封筒は、支払いじゃない、給料だ」
マキ「…百目鬼さん分かったよ♪。その茶封筒は〝バイト料〟ね♪。ちゃんと受け取る♪。ちゃんと受け取るから、それで用事はお終いでしょ?」
百目鬼「…………昨日のことだが……」
マキ「今朝、僕が裸で転がってたから焦ってるんでしょ?やだぁ♪勘違いだよ♪。あはは♪何もなかったから安心して♪覚えてない事にまで罪悪感を感じたりする必要ないよ♪何もなかったの♪だからもう気にしないで♪」
昨日の事は…ちゃんと処理した。
心臓が飛び上がるほど嬉しかったこと…同時にこれは夢なんだとちゃんと言い聞かせた…
百目鬼「…違う…、俺は…全部覚えてる」
!?
百目鬼「俺がなんてお前に言ったかも…、お前が俺になんて言ったかも…全部…」
真剣な百目鬼さんの瞳は、嘘を言ってるようには見え無かった。
だけど…
だから…何?
誤解を解きに来て、給料渡して、矢田さんや賢史さんのこと謝って、おしまいでしょ?
お終いなんだよ…。
給料のこと誤解させたから可哀想だと思ったんだね…
矢田さんや賢史さんが僕にしたこと知って可哀想だと思ったんだね。
怪我してるから可哀想に見えるんだね。
一時の感情でいちいち優しくすんなよ…
そんなのいらないよ!
同情なんて一時の感情だ…
僕は百目鬼さんのやる事に期待しない
勘違いもしない
貴方が何をしても良い風には捉えない…
ちゃんと結果は見えてる
僕の気持ちが許されるわけでも…
叶うわけでもない…
そうして貴方の逃げ道を作ってあげてるのに…
マキ「……覚えてる?…全部?」
百目鬼「ああ…全部」
〝かわいい〟って言ったことも?
僕が惚れ薬を飲んでも好きだと言った事も?
全部覚えてる?
それで?…何がしたいの?
手がズキズキと痛む…
痛くて痛くて…
痛くて頭がグルグルする…
百目鬼さんは何がしたいの?…
最終的な答えが変わるわけじゃ無いのに…
なんだか…疲れた…。
マキ「それで?」
なんだか疲れて、争うのが面倒になった。
今百目鬼さんから逃げられたとしても…まだむつや修二や華南がいる…
僕の気力は、携帯を捨てた時振り絞ったので全部だったのに…
僕は、もう、逃げる場所も無いんだ。
百目鬼「矢田と賢史にはきっちり謝らせる」
マキ「…」
百目鬼「……マキ、気づかなくて悪かった」
その時、看護婦さんが包帯を巻き終わった。
「お大事に」って言われて処置室を出る。
処置室から会計に向かう廊下で、百目鬼さんは僕の右手を掴んで歩く。
逃げたい…
僕はそればかり考えた…。
百目鬼さんが喋らなくなった…
用事が終わったからだ…
誤解も解いた
お金も受け取った
矢田さんと賢史さんの事もあやまった
…百目鬼さんスッキリした?
よかったね…
僕はもう…無理…
無理だよ…
心が折れた。足が動かなくなって立ち止まる。
腕を引いていた百目鬼さんも立ち止まり、僕を振り返った。
百目鬼「マキ?」
マキ「…ふふ…。どうして?僕は忘れるって言ったのに…。百目鬼さんが僕と付き合いたくないのも…好きじゃないのも…ちゃんと分かってるのに…。ふはっ♪…誤解させたままにすりゃいいじゃん…、そうすりゃ…嫌いになれたのに…、あんた真面目すぎんだよ…、いいじゃん…、僕は娼婦で…、あんたから金をもらった…それでよかったじゃん…」
病院の廊下を眺めながら…
本音が漏れた…
百目鬼「…すまん…」
なんで謝るんだよ…
百目鬼「お前の真剣な気持ちを、そんな風にしたくなかった…。俺は…」
百目鬼さんの大きな煙草臭い左手が僕の頬に触れる。
優しく撫でられて、顎を持ち上げられた。
目の前に見えるのは、困り眉のティーカッププードル。
百目鬼「お前が今、泣けばいいと思ってる、泣くくらい俺が好きだってーのが見たいと思ってる。最低だろ?」
マキ「ハハッ…、最低だね…。絶対泣かないよ」
百目鬼「最低なのに泣かしたいと思ってる…、泣いてどうしようもないくらい俺が好きだと言って欲しいと思ってる…」
マキ「ふふ…何それ…、百目鬼さん、ホストに向いてるんじゃない?客が離れそうになるとそうやって優しくして引き止めて…、抱きしめたりとかしたら、客はまたあんたにメロメロに…ッ!?」
突然百目鬼さんが僕を壁際に押したと思ったら、抱きしめられてた。
一瞬何が起こってるのか分からなくて、嬉しいのとゾッとするような恐怖と、全部がごちゃまぜになってパニックになった。
マキ「な、何してんの?」
百目鬼「……すまん…」
マキ「は?」
百目鬼「…泣きそうなお前を滅茶滅茶に泣かしたいと最低な事思いながら……………。
お前を泣かしたくない…」
は?!
百目鬼「側にいたら、お前を傷つけるし滅茶滅茶にしちまうし離れた方がお前の為なのに…、お前の危うさが気になって…悲しそうな瞳がチラつくんだ……すまん」
マキ「ふっ、何それ…。気になる?付き合う気もないくせに…」
百目鬼「ああ…、付き合わない…」
マキ「ふはっ。なのに…諦めさせたくないってこと?」
百目鬼「…」
マキ「ふふふ、最低な上に残酷なんだね。でも僕…、捨てるって…忘れるって決めたから。……ふふ、でも、ここでキスの一つでもされたら、完全に僕を引き戻して縛れるよ…、そこまででき…」
それはほんの嫌味と悪戯心だった…
しかし、言った途端。
抱きかかえられたまま近くのトイレに連れ込まれ、獰猛な猛獣に荒々しく唇を奪われた。
!?
マキ「ん¨ッ!?ー」
唇を吸われたまま壁に押さえつけられ、僕は抵抗できず…、僕が抵抗しないと分かると、百目鬼さんは僕をキツく抱きしめてきて、口づけを深めてきた…
苦くて残酷なキスに、僕は…直ぐに溺れた…
自分から百目鬼さんの首に腕を巻きてけ体を密着させ。
キツくキツく抱きしめる。
残酷な口づけに酔いしれ、気付かないうちに…涙が溢れてきていた…
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