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蝉しぐれ
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夏休み。
マキを僕の家に連れてきて3日目の夜、ちょっと目を離した隙に、お風呂に行ってるはずのマキが姿を消した。
ついでに禅さんもいなくて嫌な予感がしていたら、浄が慌ただしく僕の元へ来た。
呼ばれた場所に急いで行く…
そこは僕が世話をしている温室。
温室の中では、案の定。濡れ髪に上半身裸で浴衣姿のマキ、そして棚に押し付けられ股間を鷲掴みにされてる禅の姿があった。
マキが禅を襲ってる構図に呆れたため息が漏れる。
泉「コンコン、何やってるんですか?」
冷たく言うと、二人同時にこっちを見て、禅は青ざめ、マキは妖艶に微笑んだ。
禅「泉?!俺は何もしてないぞ!」
マキ「ふふ。そうそう、〝まだ〟何もしてないよ♪」
マキは禅のズボンの股間を弄りながら言ったが、禅はマキを振り払った。
僕はため息が漏れ、浄は無表情に禅を眺める。
さて、どうしたものか。
ぱっと見は、禅が襲われているように見える。
自暴自棄のマキなら、禅を誘い兼ねない。だが、マキは男を誘う妖艶な微笑みを浮かべているが、その瞳には、怒りが混じってる。
泉「…禅さん、マキを怒らせました?」
頭を抱えて僕が出した答えは、ここ数日不機嫌な禅が、マキを怒らすような事を言った可能性。
てっきり怒られると思ってたマキは、拍子抜けしたのか誘う表情が消えてキョトンとしている。
一方、禅は焦りまくる。
禅「俺!?」
泉「ここ数日の禅さんの態度を考えれば当然の質問だと思いますが?それとも禅さんは、マキが私の実家に来てまで男漁りをするほど最低な人間だと言いたいですか?主従関係である禅さんを誘惑して、私に不快な思いをさせて、私に軽蔑視されると分かっていてマキが不貞を働くほど頭の無い人間だと?まぁ、それも普段のマキを考えれば当然の可能性ですが」
禅は言葉に詰まり。
マキは瞳を瞬いた。
禅「…ぁーそこまでは…俺が悪かった」
マキ「……プッ、あはははは」
とりあえず、禅を浄に頼んで連れ帰ってもらい。僕はマキに浴衣を正すように言った。
するとマキは、浴衣の襟を正しながら、温室の奥の花に気がついた。
マキ「それ、綺麗だね」
マキが眺めているのは、一輪だけ咲いた白くて大きな花。
綺麗だと言いながら、その瞳は悲しげだ。
僕は気づかないふりをした。
泉「やっと咲きました」
マキ「全然咲かないから、枯れてるのかと思ったよ」
マキは、何度もここにおとづれているが、この白い花が咲くのを見るのは今日が初めて。それもそのはずだ。
泉「これは、月下美人です、1年に1度咲く花、まあ、上手く育てれば2・3ヶ月後にもう一度咲くこともあるんですけどね。一晩で萎んでしまいます」
月下美人を見つめるマキは、苦しげに噛みしめるように目を細める。
マキ「綺麗だけど、儚いね」
泉「ああ、花言葉がそうですからね。
儚い恋。ただ一度だけ会いたくて。艶やかな美人。儚い美。快楽。繊細。媚態。強い意志。秘めた情熱。やさしい感情を呼び起こす…」
マキ「…」
泉「…マキみたいですね」
マキ「…ふふ、僕は、こんな綺麗じゃない」
月下美人にそっと触れ憂うマキの瞳は、確実に想い人に馳せられているだろう。
それが果たして、どっちの男なのか。
初めての男か、百目鬼さんか…。マキと僕はそんな話しを一度もしたことがないので、知ることは出来ない。
泉「…月下美人は儚いですが、一度はキチンと咲きますよ」
僕の言葉に応えないマキは、いつまでも月下美人を見つめていた。
マキの願いは、簡単で難しい。残念ながら、僕はマキの願いを叶えてはやれない。
マキは、1人でないと泣くことすらできない…。
僕はそんなマキを一人にしてやるために、お風呂に入ってきますと告げて温室を後にする。
部屋に戻り、お風呂の着替えを用意していたら、部屋の襖に人影が映った。
泉「…禅さん、何の用ですか?」
襖が開いて現われたのは、高い身長が残念に丸まった項垂れる禅だった。
禅「さっきは…、悪かった」
泉「それは、マキに言う言葉でしょ」
呆れたため息を漏らし視線をそらすと、禅は僕の両肩を掴んで必死に訴える。
禅「そんなにマキが大事か!?」
泉「は?」
あまりに必死な形相に、〝マキが大事〟に嫌な予感がした。まさかとは思うが…
泉「もしかして、私がマキを好きだと言いたいんですか?」
禅「そうだろ?マキとの関係を隠すための婚約なんだろ?」
呆れて言葉も出ないとはこの事だ。どこをどう見たらそういう発想になるのか分からない。
泉「冗談じゃない、僕はノーマルですよ」
冷ややかにそう言うと、驚いて目を白黒させてる禅さんは完全にパニック状態、そしてうわ言のようにボソッと言った。
禅「…でも、マキが…」
泉「マキが?」
マキはが何かおかしなことを吹き込んだ?有りえすぎて怖い。慌てる禅に不信感が募る。
禅「あっ!いや!なんでも無い!」
泉「…分かりました、マキに聞いてきます」
部屋から出ようとしたら、後ろからすごい力で引き戻され、畳に引き倒された。肘をぶつけ痛っと一瞬目をつぶり、開けた次の瞬間。禅が覆い被さってきた。
腕を押さえつけられ。僕を見下ろす禅の瞳は怖いくらい真剣。
禅「行くな」
泉「…何故です?」
禅「…お前が、好きだからだ」
ージジッ
衝撃的な言葉に、うるさいくらいだった蝉の声が聞こえなくなった。
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