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俺たちのバランス〜華南〜
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玄関で縮こまるむつ。雨でグッショリ濡れた衣服でうな垂れるように頭を下げて土下座する。
怯えてるからか寒さからか、カタカタ震えた肩が痛々しい…。
俺は、そこで初めて自分の声が嫌な緊張で低くなってることに気がついた。
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、もう一度話しかける。
華南「むつ」
むつ「ッ…」
俺の声にむつがビクッと肩を震わせる。
土下座したままだから、むつは俺の表情が分かってないんだ。
濡れたむつの頬に優しく触れる。震えるむつの顎を上げさせ、目と目で見つめ合った。
顔が冷たい…顔色も悪い…どうしてこんなになるまで…
華南「むつ、俺は謝って欲しいんじゃない、何があったのか教えてくれって言ったんだ」
むつ「俺…ごめん…」
華南「シー、分かった。一回落ち着こう。風呂入って温まってこいよ」
頬に触れてる指で、むつを優しく撫でる。
しかしむつは首を振った。
華南「どうして…」
むつ「…俺…俺……、こんな状態のままじゃ、まだ説明できない……、それに…、きっと修二が…」
修二には、まだ説明できないってことね。
むつの抱えてることが複雑なことだと分かった。どんな内容か想像つかないが、むつが一人でなんとかしようとしていたのは分かった。
華南「分かった。ちょっと待ってろ」
俺たちの寝室に入り、修二が眠ってるのを確認して、仕事で早く行くことになったと書置きをした。
仕事道具とむつの着替えを持って外に出て、適当なラブホテルを見つけて入った。
むつを風呂に突っ込んで湯船に浸からせてあっため。風呂から上がったむつは、心なしかグッタリしている。
華南「大丈夫か?」
むつ「ごめん…あったまったら眠くなっちまって…」
ああ、マジに眠そう、落ちる寸前の顔してる。でも、少しでも話をしてからじゃないと…。
ホテルのバスローブを着て、タオルを頭に被るむつをベッドに座らせて、俺は隣に腰掛ける。
シャンプーのいい匂いがしてるむつは、俺が隣に座った瞬間顔を強張らせた。
華南「話せよ、何があったか」
むつ「……俺…」
言葉に詰まったむつは、何度も何度も言い淀んだ。
むつ「…俺……………酔って浮気しちまった…」
半分予想していた答え。だけど半分は、それを全否定する。
華南「…いつ?」
むつ「…華南と…修二が…家を空けた日…」
マジ?あの日は、むつがマッサージの勉強会やって、そのままたこ焼きパーティーした日?ってことは、あの女のうちの一人?…そんでもってもしかして…
華南「…まさか…うちの中で?」
コクンと頷かれ、ゾッとした。
だけどまだ聞きたいことは山ほどある。
華南「相手は職場の子?誰?」
むつ「勉強会に来てた…美樹…二つ結いのやつ」
二つ結い?昨日一緒に歩いてたのもその子か…。
華南「そいつのこと、好きになったのか?」
むつ「違うッ!!…違うんだ!」
膝のバスローブ握りしめ、強い否定の声に。今まで嫌な緊張と痺れがあったが、フッと和らぐ。
むつは、気持ちの上では潔白だと、その必死な声を俺は信じた。
むつ「俺、美樹のこと意識したことない、可愛い奴だって思ったことはあったけど、美樹見てて勃ったことねぇーし!ドキドキしたこともねぇー。だけど…ッ…起きたら美樹が腕の中にいて…」
酔った弾み?覚えてないってことか…。
それってだいぶ飲んでるよな?
むつ「起きたら、好きになったとか言われて…」
華南「美樹ちゃんは、むつと何があったか覚えてたの?」
むつ「…記憶はあるって、ただかなり酔ってて…。俺、話しを聞いてやってただけなんだ。あの日、美樹を慰める会とかって酒買ってきて。美樹はこないだ同窓会に行ったって、そしたら昔好きだった幼馴染の男が学生の時良いなと思ってたよっとか言ってきたから告ったらしいんだけど、今は彼女いるし昔の話だとか言われたって落ち込んでて。なんかそれが昔の修二見てるみたいでほっとけなくて…俺…、昔の修二になんもしてやれなかったから、美樹を励ましたんだ。だけど、途中から記憶無くて…」
むつのやつ、未だに混乱してるのか、話が前後するな。だから修二にはまだ説明できないって言ったのか…。まぁ、大きな理由は身の潔白を証明できないからだろうが…
むつ「…俺、夢の中でヤッてる夢見てた、キスして、恥ずかしがる修二を押さえつけて、華南が後ろから茶化す夢…」
華南「…ヤッてたら、起きた時に痕跡があるだろ」
むつ「俺…テンパってて覚えてない…。気が付いたらシャワーの水浴びて頭冷やしてて。…俺、覚えてないって美樹に聞いたんだ、そしたら美樹が泣き出して…、他の奴とも喧嘩になって美樹が飛び出して。俺、訳わかんなくて、その日美樹仕事来なくて、職場で胡桃に怒鳴られて、俺、うっかり言っちまったんだ…」
…まさか…。
むつ「俺はスッゲー好きな男がいるから…て…」
あちゃー。
華南「まさか…、それでクビに?」
むつ「……ぐちゃぐちゃ言われて最終的には…俺が店長殴った…」
華南「あぁぁ…」
きっと現場は壮絶なことになってたに違いない…。
胡桃ちゃんは何度か見たことあるけど、ハキハキしゃべるタイプだ、それに友達のことに口出しするタイプはキツイのが多いい。
それにきっと、マッサージ店って言うのもダメだったんだろう、人の体を触る職業だからな…
むつ「修二が…何であんなに外で警戒するのか分かった…」
華南「そうか…」
むつ「…クビになったなんて2人に言えなかった。一緒に住んでるのに、家賃払えないなんてぜってー嫌で、仕事見つけてから話そうと思って…。でも…噂が広まってて…断られて…、一旦バイトする事にした…それが夜勤の警備で…」
華南「ああ、それで遅かったの?」
むつ「…ん、…でも。昼間も家にいらんないし…職も探さなきゃだし…」
華南「一週間近くそんな生活してたの?…気づかなくてごめんな」
むつ「ちげぇーよ!!全部俺が悪いんだ!!」
むつは雪崩れこむように俺の前に土下座して、必死に頭を下げる。
むつ「ごめん!!本当にごめん!!」
華南「むつ、もういいよ」
むつは、真っ直ぐな奴だから、自分のを許せないのだろう。むつの記憶が無い間のことが黒だったにしろ白だったにしろ。むつは関係なく謝ったろう。それに、勢とは言えカミングアウトしちまったのは、反省すべき点だ。
むつ「許さなくていい!俺!最低なんだ!」
華南「とにかく土下座はやめろ!」
聞く耳を持たないむつの腕を掴んで引き上げて、抱き締めた。だけど、むつは「優しくすんな!」と俺を振り払って土下座する。
むつ「こんなこと言える立場じゃねぇーけど、お願いがあるんだ!修二には、まだ言わないでくれ!」
華南「…」
むつ「まだ、片付いてないんだ、美樹が納得してなくて…。俺、仕事も見つけてない!」
修二には、言うか迷うところだ…。
女性と関係したかもしれないむつを、修二は、きっと簡単に許す。だけど…心には大きな傷ができる…。
学生から大人になったこの一年の信頼は脆く崩れるだろう。
でも、話さないとなると、疑心暗鬼が続く…。
どっちにしても心臓に悪い話しだ。
修二が良くないこと考えなきゃいいけど…
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寝室で
一人目覚めた修二は
ベッドサイドの置き手紙を眺めていた。
起きたら華南がいなくて…
むつもまだ帰ってない…
修二はその置き手紙を腕の中で握り潰した…
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