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朱雀
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それは、朱雀に入った頃の話し。
初めて百目鬼神という男と会った時、彼は睨み殺さんばかりに奏一を見下ろした。
奏一「小日向奏一です」
奏一が真っ直ぐ百目鬼を見上げて自己紹介したが、百目鬼は睨み下ろしていた。
中学生の奏一に、高校の学ランを着た百目鬼は全然違う次元の人間に見えた。高校生というくくりで見ても百目鬼は格が違う、その漂うオーラはヤクザが学ラン着てるみだ。強面の顔と立派な体格、細身で女顔の奏一からしたら、何もかも羨ましくて、百目鬼を怖いと言うより、ただただかっこいいと見惚れていた。
百目鬼「ずいぶん綺麗な面で細っこいな」
気にしてることを言われて、カチンときた。怒りを隠しもせずにギロッと百目鬼を睨みつけると、朱雀に入る仲介をしてくれた谷崎亮司が慌てて割って入った。
谷崎「奏一!やめろ!」
奏一「…すんません」
親の離婚で荒れた奏一を心配して、谷崎は色々世話を焼いてくれていた。今回朱雀に入るのも、敵が増えすぎて、これ以上1人では危険と谷崎が判断したため。朱雀の即戦力として引き入れてくれたのだ。何より、これ以上は修二に危険が及ぶ。朱雀がバックにつけば、そうそう手は出さないと谷崎に言われた。
谷崎「神も、ほらニコッとかしろ、それじゃ睨んでるようにしか見えない」
百目鬼「生まれつきだ」
谷崎「奏一も、クールにしてるのはいいが、あんま澄ました面してると、先輩はいい顔しないぞ」
谷崎は、ワチャワチャと煩い。でも、親の離婚で荒れた奏一には、その煩さが目障り半分感謝が半分。
谷崎「神、お前にこいつの面倒を任せたい」
百目鬼「は?」
奏一に向けてた鋭い睨みが谷崎に向く、谷崎は冷や汗で「睨むなよ」って笑ってるが、百目鬼の目はさらに鋭くなった。だが、谷崎は御構い無しに
谷崎「こいつの家、親が離婚して…」
奏一「亮司さん!!」
まさか家のことをバラされるとは思わなかったから、思わず谷崎の服に掴みかかった。
谷崎は落ち着けって言ってるけど落ち着けるわけない。親の離婚なんて恥でしかない!
百目鬼「顔に似合わず随分短気だな…」
百目鬼はボソッとそう言う。
またしても顔のことを言われて奏一は百目鬼をギロッと睨むが、百目鬼は動じるわけもない。
百目鬼「ちょっと待ってろ」
百目鬼が席を外し、仲間のところに何やら話に行った。
百目鬼がいなくなると、谷崎がコソコソ奏一に耳打ちしてきた。
谷崎「あいつの家父子家庭なんだ」
奏一「え…」
谷崎「それと神は、怖い顔してるけど中身はいいお兄ちゃんだから。ちょっと人を遠ざける傾向があるけど、本当は面倒見がいい。さっき奏一に細いって言ったのは、神の家が定食屋だから、心配しただけだ。誰にでもしょっちゅう『ちゃんと食ってんのか』って言うからよ。神は不器用で、言葉が選びが下手だから、奏一は一回言葉を呑み込んで神がなんて言いたいか考えてから発言しろよ。お前短気過ぎだから」
奏一「…」
そんなこと言われても…、と奏一は眉をしかめるが、谷崎は、百目鬼に奏一を丸投げして去っていった。
戻ってきた百目鬼は、その後朱雀の仲間に奏一を紹介して回った。その話の中で分かったのは、百目鬼は朱雀の中でかなり上の立場で、百目鬼の弟分ならと周りからかなり暖かく迎えてもらった。
その日、奏一は百目鬼の実家に連れて行かれた。
百目鬼の定食屋は、爺さん婆さんが定食屋を切り盛りしていて、百目鬼はその定食を持って自室へ入った。
野菜炒め定食に、唐揚げのオマケ付き。お金を払おうとしたら、止められた。
百目鬼「俺が作ったから」
奏一「えっ…百目鬼さんが?」
百目鬼「神でいい」
奏一「神…さん…」
百目鬼はニコリともしない、相変わらず睨んだみたいになってるが、谷崎いわく、これは彼の普通の顔なのだ。
百目鬼「…俺は、下の面倒なんか見たことないから、面倒見ろって言われても困るが…、取り敢えず、一つだけ言っとく」
奏一「…」
百目鬼「朱雀の奴らは、仲間が第一だ。だから、生意気な態度でいない方がお前のためだ」
奏一「…」
奏一は、百目鬼の言葉にムカッとしたが、谷崎のアドバイスの通り一旦呑み込んでみた、がイライラする。
百目鬼「……あー…、違うか…」
黙っていたら。百目鬼が頭をかきながら、何か悩みだした。
百目鬼「…仲良くしろよってこと……」
奏一「…」
百目鬼「あー…クソ。亮司の奴…」
奏一「…」
百目鬼「………俺の家も父子家庭だ、俺は爺さん婆さんいたから、アレだけど、ちょっと荒れてな…だから、お前の気持ちは少し分かる。爺さん婆さんにも親父にも泣かれて今は落ち着いた、それに、朱雀の奴らもいたし。朱雀の奴らは仲間第一だから、馴染んで仲良くしてれば、色々世話好きがいる、相談に乗って貰え…、……俺は、喋るの得意じゃねぇーから、取り敢えず、同じ釜の飯食っとけ」
そう、恥ずかしそうに言って、ご飯を食べ始めた。
その日から百目鬼について回る日々。
観察して分かったのは、百目鬼は、考えてることを単語にしてしゃべる傾向があることが分かった。
ぶっきら棒で、誤解を招くシーンもあるが、朱雀の仲間は百目鬼がそう言う不器用なところも分かってるみたいで、笑ってやり取りしてる。そうでない人も中にはいるが…相性だろう。
そして何より、百目鬼は誰もが認めるほど恐ろしく強かった。
そんな百目鬼の下で過ごしていたら、奏一も力を付けいつの間にか注目されるルーキーになっていた。
奏一は、敵対する奴らと出くわし、暴言吐かれると直ぐに殴りかかった。
その度に百目鬼が止めて、谷崎が奏一を説教する。
そんなある日、河原河川敷で夕日を眺めていたら、百目鬼がやってきた。
百目鬼「お前、いつもここに来るな…」
奏一「…」
百目鬼「どうしてそんなに喧嘩したがる?」
奏一「…強くなりたい」
百目鬼「……力があれば強いってことはない」
奏一「でも、強くなきゃ何も守れない」
百目鬼「………お前が守りたいのは家族だろ」
奏一「……」
百目鬼「家族は力だけじゃ守れない、頭を使え、いつまでもガキのお前じゃ何も守れない、拳で飯が食えんのか?」
谷崎にも、散々似たようなことを言われてた。
睨みながら心配してくれる百目鬼の言葉が胸に染みた。
それからは、勉強とバイトを始めた。
奏一が高校生2年生になった頃。
朱雀の中で重要な存在となりつつ、喧嘩と勉強とバイトに明け暮れた。
百目鬼「………またか…」
そこには、敵対するチームの無残な姿。
その真ん中で奏一が誇らしげに立っていた。
百目鬼「そぉいちぃ〜……」
呆れたと頭を抱えて名前を呼ぶと、奏一が振り返って〝見つかった〟って顔した。
その顔を見て、百目鬼は益々眉を寄せる。
奏一「手ぇ出してきたのあっちが先ですよ」
平然と言ってのけるが…
百目鬼「手を出してくるように仕向けたろ」
奏一「正当防衛っす」
そう言って奏一は爽やかに笑った。
呆れた百目鬼がため息ついてると、奏一のそばに転がってた1人が、突然起き上がって奏一を襲う。
百目鬼「奏一!!」
奏一「ッ!?」
ーバキッ!!!
鈍い音とともに、体が床に叩きつけられ雑魚が再び床に沈んだ。
奏一は何が起こったか瞬き。地面にめり込み気味の雑魚をみると、顔には大きな拳の痕がついてる。
雑魚を一発で再起不能にしたのは、百目鬼神、朱雀の右腕になった男。返り血を浴びながらこちらを睨む。
百目鬼「やるなら、立たせるな」
奏一「…はい」
百目鬼神は、鬼と恐れられていた。
百目鬼「…ところで、今日は夕飯当番の日じゃないのか?」
奏一「しまった…」
奏一の母親は昼に夜に働いていて、夕飯を奏一が作る日がある。ほとんど母親が支度したものを食べれるように焼いたりチンしたり。1人なら適当にしたが、奏一には小学生の弟、修二がいた。
修二「おかえり、お兄ちゃん」
奏一「ごめん修二!ただいま!」
修二は可愛い可愛い弟だ。幼い弟の修二がいるから奏一はまともでいられる。
兄弟だけあって、修二と奏一はソックリで、整った綺麗な顔、修二は髪の毛を伸ばしていてパッと見は女の子みたいだ、それは、修二の大人しい性格も関係していただろう、修二は我儘を一度も言わない良い子そのもので、男の成長としては少し心配で…。
むつ「奏一さん!おかえり!!」
しかし、そんな修二には、ヤンチャな幼馴染むつがいた。
奏一「むつ、遅くまで悪かったな」
むつ「全然!なぁなぁ、その頬の傷ケンカぁ?かっくいー」
奏一「こらこら、おばさんには黙っててくれよ」
むつ「うん!」
むつは俺に憧れて真似をする傾向があって、喧嘩も強い。大人しい修二が、ヤンチャなむつと一緒にいることで明るく活発になることに感謝もしていた。
修二「お兄ちゃん、ご飯支度しといたよ」
奏一「ごめんな修二、今味噌汁作るから」
修二「うん、お兄ちゃんの味噌汁大好き」
可愛い可愛い弟の修二は、とても気の効く優しい子だ。優し過ぎるのが心配だが…。俺は強くなって、この弟と母さんを守りたい。
しかし、俺の考えは甘かったと思い知る。
母さんが疲労で倒れ、俺の頑張りなどガキのママゴトだと…
奏一「…」
百目鬼「また河原…、もう寒いだろ、弟はどおした」
奏一「…病院…、母さんの側…」
河原座り込む奏一の隣に百目鬼が座る。
奏一は、薄暗くなった川を涙ぐんで眺めていた。
百目鬼「とにかく、今日は俺の部屋に弟連れてこい」
奏一「いいです…」
百目鬼「お前はそれでいいかもしれないが、弟はどおする」
奏一「弟は、幼馴染のとこに預ける」
百目鬼「お前は」
奏一「俺は、帰ってやる事あるから…」
百目鬼「奏一!!!」
奏一「ッ!?」
百目鬼「来い!そんなシケた面弟に見せんのか!!」
奏一「ッ…ッ…じん…さん」
百目鬼は慰めなしなかった、ただただ暖かいご飯を食べさせてくれ、話しを聞いてくれた。
それだけでよかった。
谷崎「奏一!大変だったな!修二は大丈夫か?」
奏一「亮司さん。俺、お願いがあります」
谷崎を含め、朱雀の人間、OB、人脈をフルに生かして、高校卒業と同時に働くための知恵を集めた。
自分だけならなんとかなる、だけど、修二の将来を考えると、母さんだけが働いてもお金が足りない。
奏一は高校二年生で家族を守る方法を真剣に考えた。
百目鬼「なんだ、また河原にいるのか」
奏一「神さん、ありがとう」
百目鬼「…」
奏一「俺、朱雀のみんなに会えて良かった。神さんに会えて良かった」
夕日を背に微笑む奏一。
改めて感謝を口にすることに照れながら、百目鬼に頭を下げた。
百目鬼「ッ……奏一…俺は………」
奏一「神さんには、本当に感謝してる!」
百目鬼「……感謝されるようなことはしてない、手伝ったのは亮司だろ……、それに俺は…」
奏一「ううん、神さんが一喝してくれて目が覚めた。俺の考えなんてまだまだガキだって。…俺、頑張るよ」
百目鬼「……」
奏一「神さん?」
百目鬼「奏一…俺は………………ッ。応援してる」
百目鬼は言葉を呑み込む。
奏一は百目鬼の応援に疑いを持たず「うん!」と子供のように喜んだ。
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あれから10年…
修二「兄貴!」
奏一「ん?」
修二「ん?じゃないよ、疲れてるなら畳の部屋行ってよ、布団敷いたから。突撃してきて夕飯食べたら寝ちゃうんだもん」
奏一「おー、修二ぃー!」
俺が大きくなった修二を抱きしめると、修二はビックリした顔して、恥ずかしそうに離れようとする。
むつ「奏一さんビール1缶で酔ったの?」
華南「本当だ顔赤い」
ここは、修二とむつと華南の家。
幸せに満ちた弟の家。
奏一「大きくなったなぁ〜」
修二「ちょっ!兄貴!離してよ恥ずかしいから!
兄貴ってばぁぁあーー!!」
【朱雀】完
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