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〔裏番外〕狂愛♎︎純愛16
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仕事に行く支度を整えて、背広を着ようとしたら、足元に何か当たった。
見ると、そこには、ベッドサイドに並べてあるはずのイルカのぬいぐるみが落ちてた。
そのイルカは、中学生の修二と水族館に行った時、修二に買ってやった物だった。要らないと言われ、なんとなく車に乗せっ放しにしていた物。俺は、一度もこのイルカの話しをマキにしてないが、マキは、このイルカのぬいぐるみを『修二』と呼んでる。…複雑だ。
今はぬいぐるみが増えて、ベッドサイドへ移動してる。
ベッドに目をやると、ミケが、ぬいぐるみにじゃれついて、ボトボト落としていた。
百目鬼「こらこら、このぬいぐるみはお前の大好きなマキが買ったもんなんだぞ」
ミケはマキの名前に反応して、「ニャー」と鳴きながら喉を鳴らす。
落ちたぬいぐるみを拾い集め、マキが置いてる通り並べ直す。青いイルカは修二。そしてそれより一回り小さいピンクイルカを隣に並べる。こいつは『むつ』。そしてこないだ合流した大きい目な白イルカは『華南』らしい。俺の部屋に置いてるのに、その名前をつけるマキのセンス。
そしてライオンのぬいぐるみをマグカップに押し込んだ。
マキ『見て見て百目鬼さん!このライオン小ちゃくて目つき悪くて可愛い!百目鬼さんみたい〜♪』
百目鬼『おい』
マキ『ふふ♪ほらそっくり♪二つ買おっかなぁ、僕も欲しいなぁ百目鬼さんのぬいぐるみ』
百目鬼『お前、いかがわしい事に使いそうだからやめておけ』
マキ『え?いかがわしい事ってオナニーとか?♪』
百目鬼『ブッ!ゴホッゴホッ』
マキ『あはは♪照れちゃって可愛い♪』
百目鬼『絶対買うな!』
マキ『やーん、意地悪ぅ!』
駄目だ。マキとの思い出はこんなんばっかりだ。ったく。
…。
出勤前に一服していくか…
しまった、昨日買い置き分終わっちまったんだ…。
おかしい。
ずっと、穏やかに過ごしたいと思ってそれが実現してるのに、なんだがモヤモヤしてる気がする。
俺は、マキの心に優しくするって雪哉と約束したし、ミケみたいに優しく扱って話しかけるって檸檬と約束した…
マキを笑顔にするって、修二に約束した。
俺の望んだ日々が続いてるのに、なぜ、こんなにモヤモヤするんだ。
ストーカー出現から、数日経った。
見つかった事でなりを潜めたのか、最近は写真が届かない。
今日は、姫香さんが母親の見舞いをするという事で、護衛をする。病院まで後ろから付いて行った。病院内は杏子が担当する。
念のため病院の周りを一周し終わったその時…
鋭く冷たい声がした。
「よお、百目鬼」
真横から、ドスの効いた凍りそうなほど冷たい声が聞こえてきた、それは、忘れることのできない声、全身に鳥肌が立った。
反射的に俺の腕に抱きついていたマキの手を振り払う。
声だけで、その人物が誰か分る。怒りに満ち満ちた声、今だに恨まれてるって分かってはいるが、悲しい痛みを感じながらも許されるわけないと分かってる。
ゆっくりと振り向きながら。名前を口にした。
百目鬼「そ…いち…」
かつて狂う程焦がれた相手。
細身で凛とした奏一は、弟の修二とよく似ていて、修二より凛々しい表情をもつ。冷たいクールな眼差しは、他を圧倒する鋭さを持つ。奏一に睨まれて逃げ出さない奴はいない。それぐらいオーラのある人間だ。
奏一は、冷たいばかりの鬼の形相で俺を睨んでた。
血の気が引く音が聞こえる
なぜ、奏一がここにいて、なぜこんなに怒っているのか…。
修二と話し合いをしてからだいぶ経ってる。
確かに修二と和解しただけで奏一に許されたとも、許してもらえるとも思ってないが…
頭が真っ白になった。
ただ、マキと一緒にいるのがマズイってことだけは分かった。
なんて説明すればいい?緊張で口の中が乾く、修二にあんな事しておいて、今度は修二の友達を…なんて、どうやって話したら聞いてもらえる?
いや、言えない、言えるわけがない…
現実が、重くのしかかってくる。
分かっていた、マキと付き合うって事はこういうことだと。
奏一の眼差しが冷たく刺さる…
分かっていたが…
この目だけは見たくなかった…
こんな時、俺は言葉が出てこない。拳を握りしめ。鬼の形相の奏一を前に、マキから離れておく事しかできない。
すると奏一は、俺に詰め寄り、低い声で静かに言った。
奏一「それは彼女か?」
えッ?!彼女?
質問に驚いて、思い出した。マキは今、女装していて、奏一には女に見えてるんだ。
百目鬼「…違う」
ゴクッと唾を飲み込みながら、この場はこのまま切り抜けられるか考えた。
上手い言い訳も、本当の事を言う事もできず、蛇に睨まれたカエルのように固まってることしかできない。
するとマキが、ニコニコしながら俺の前にヒョコッと出て、奏一に近づいた。
マキ「ワァーイ♪奏一さんだぁ♪こんにちは♪えへへ僕だよ♪」
奏一「…あっ」
顔を近づけニコッとマキが笑いかけると、奏一はマキに気がついたみたいで、少し困惑した表情を浮かべた。
マキは、ニコニコしながら余計なことを喋り出す。
俺は言葉に詰まり、奏一は呆気にとられ、この場はマキのペースに変わる。
奏一の怒りの表情は、混乱とともに徐々に薄れていく。
マキは、あの笑顔で、誰をも魅了する。
そうだ、マキはこういうことが出来るんだった。
百目鬼「悪い奏一、直ぐに見えないところに移動する」
また奏一を不快にする前に、マキを掴んですぐに消えようとしたが、すでに奏一から怒りのオーラが消えていた。
奏一「あっ、いや、いきなり仕事の邪魔して悪かった、ちょっと気が立ってて。すまない、俺は終わって帰るところだから、仕事を続けてくれ…」
これもマキマジックか?
でも待てよ、ここは病院の前だぞ。
百目鬼「終わって?病院から出てきたよな、まさかどっか悪いのか?」
ここは、奏一や修二の実家から離れたかなり大きな病院だ。もし体調不良なら、修二に隠してるって事もあり得る。奏一は抱え込むやつだから。
奏一「いや、違う。店の社員が怪我を…」
少し離れたところにいた社員を指さす奏一。そこには白のワイシャツに黒いズボンの店員さんが。
百目鬼「トラブルか?」
奏一「…いや」
百目鬼「嘘だな、奏一は嘘つくと唇に力が入る」
奏一も修二も、隠し事が下手くそだ。直ぐ顔に出る。マキと違って分かりやすい。
1人で抱え込んで、なんでもないフリするのに、上手くつっぱることもできなかった学生の頃からの癖、変わってない。
奏一は昔から頼り甲斐のあるいい奴だった、だけどそれは人一倍いろいろ考えて、何をすべきか考える、仲間や家族を誰より大切にする頑張る男だ。
心の底から、奏一が好きだった。
この頑張り屋の男の弱音を吐ける場所でありたい、涙を見せてもらえる存在でありたいと思いながら、その願いは、欲望に染まり醜くなった。
あの時は、傷つけることしかできなかった。
少しでも罪滅ぼしが出来るなら、少しでも、奏一の力になれるなら…
百目鬼「怪我とは穏やかじゃないな、言ってみろ力になる」
なんでもする…
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