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〔裏番外〕狂愛♎︎純愛21
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チャペルから、本館に向かう廊下を抜けた渡り廊下に、小さな喫煙所がある。
木々に囲まれたその小さな喫煙所で、俺は煙草を吸いまくっていた。
やっちまった!!
マキに手を上げちまった!!
叩かれた瞬間のマキの表情に胸が痛んだ。
だが、あれはあいつがいけない!俺の前に飛び出してきやがって、危なく大怪我するところだったんだ!
吸い始めたばかりの煙草が、すでに短くなっていた。新しいのを出しながら、ふと、渡り廊下に目をやる。
マキがまだ来ない…。
5分ほど経った。マキは、ドレスを返しに本館に向かうはずなのだが…。
強く叩きすぎて泣いてる?マキはいつも、人目につかないところですすり泣く。
ついこないだも勘違いで泣かせて、あの時は声も出さず両目から涙を流してた。悲しい泣き方をするマキを思い出し、胸が詰まる。
うぅ…
ソワソワしていると、そこへ、トボトボとうな垂れた白い物体が横切った。幽霊かと思うほど、どんよりした、ウエディングドレスを着たままのマキだった。
うッ………。
俺に気づきもしないで、トボトボと、横切るマキ。うな垂れ歩くマキなど見た事もないし、あれほど感情丸出しのところなど、そうない。
うぅッ………。
今更マキを叩いた手がジンジンと痛み、ズキズキ胸も痛む。
だが、あれは、マキが悪い!あれほど勝手な真似はするなと…。あれは、マキが悪い!
ズキズキする胸が、さらに痛みを増しながら、さっきの涙目のマキを思い出すと、渦巻く感情の中に、獰猛な猛獣が首をもたげる。
くっ…、ダメだ、今はマキを許せない。
だけど、だけど、あのマキをほっとく訳にも…。
百目鬼「アチッ!」
悶々としながら吸いまくった煙草がいつの間にか短くなって、火傷するところだった。
煙草を灰皿に投げ捨て、マキの後を追いかけた。
何て声をかける?俺は間違ってない。ああいう軽はずみな奴は、ガツンと言わなきゃ、またやる。しかも笑って許されると思ってるマキは、ここで優しくしたら意味がない。
だが、怒り任せに叩いたのは事実だ。俺は、こんな風に手を上げたことないことだけが、唯一の境界線だったのに…。あんな小突けば折れそうな奴に手を上げたことなんか一度もなかったのに…。
奏一との再会…。今回のストーカー…。
これは、警告だろうか?
俺なんかが、マキと付き合ってることへの…。
マキを前にすると冷静でいられない…。感情はぐちゃぐちゃで、いつも悲しい顔ばかりさせて泣かせてる。
マキを叩いた手がジンジンする。
ズキズキと胸が痛む。
泣かしたいんじゃない…。
泣かしたいんじゃないんだ…。
「マリアッ!!マリアなんだろ!!」
本館で、年配の男が騒いでいた。
声の聞こえた方へ行くと、人だかりの向こうに、ウエディングドレスを着たマキが居た。
何事かと思って人だかりを掻き分けると、そこには、マキにしがみつく年配の男性と、それを何とも言えない表情で見つめるマキがいた。
なんだ…あの表情…
そう思っていたら、男性は、感極まって泣きながらマキに抱きつき、マキは男の背中をそっと撫でた。
は?
衝撃的な光景。
目を疑った。
哀れむような、優しく包むような眼差し、マキは、愛おしそうに、男性をなだめる。
作っていない感情が漏れ出たような表情に、メラッと心が煮える。
誰だ!?あまりにも年が離れてる。昔の男?でもマキは、付き合ったのは俺が初めてだと…。ハッ、育ての親?マキの初めての相手……
年配の男は、少しシワと白髪のある40半ば。結婚式に参列したんだろう高級そうな光沢のあるダークスーツ。
泣き喚く年配の男性を、マキは抱き寄せ、優しい眼差しを向けながら、廊下にいる人が全員2人に注目しているのを避けるように、隅へと移動した。
誰だ?!
あれは誰だマキ?
マリアってなんだ!?
訳も分からず、胸の痛みは醜い嫉妬に変わった。マキは、見た事もない表情で男を抱き寄せ、2人っきりになるべく移動した。
煮え繰り返る気持ちは抑えられないところまで来ていた。
マキを追いかけようか迷っていたら、携帯が鳴った。まだ、仕事中だという事に正気を保った。
しまった檸檬だ…。まだスタッフの制服のままだ。返しに行かなければならない。
それに、今マキのところに行けば、俺は絶対マキに酷い言葉を浴びせてしまう、それだけはしたくなかった。
矢田にマキを任せ流事に…。
今は無理だ、ナイフの前に飛び出したマキへの怒りが収まってない。兎に角頭を冷やさなきゃ、俺は、優しくなりたいんだ…
もっと普通の人間になるんだ……
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
その日はマキに会わずに帰った。
マキからは何度も電話とメールがあったが無視した。
翌朝も会いに来たが、マキを無視して矢田に大学に送迎させた。
今の俺には、この複雑な心境をマキに伝える事も、マキを気遣う事もできない。
もし、あれが、マキの育ての親、初恋の相手なら…
そう思うと、嫉妬で理性が焼き切れそうだ。
修二の時も、初恋の相手に勝てなかった。
そして今、俺はマキを大事にできてない…、そんなタイミングで初恋の相手に会えば、再熱もあり得る…。そもそも、マキは何かを引きずっていた。それが初恋相手だったのなら、マキは、心のどこかで、その恋を整理できてない。
育ての親は、マキを昔の思い人の代わりにしたと言った。だが、あれから時間が経ってる。あの男の涙が、マキを思っての涙なら、今はマキを愛しているのかもしれない…もしそうなら…
もし、マキが優しくできる初恋に触れたら、もしかしたら、そっちが良くなるかもしれない……。
ダメだ…ドツボにはまってく…
奏一に偶然会い、ストーカーの姿に昔を思い出し、修二を毎日のように犯した日々を思い出す。
そして、マキをあんな風に求める男の出現と、あのマキの表情。
何もかも、俺たちの付き合い続けられないように動いてるような気がした。
頭は全然冷えない。
ナイフの前に飛び出すマキに腹を立てながら。さらに謎の男と抱き合ったマキに煮えるような醜い感情を抱く。
こんな状態で、もし、奏一へ営業妨害してるのが、瀧本で。さらに、奏一への接触で朱雀が動き出したら、マキを守ることなど出来ない。
マキを守るなら、このドス黒い俺の感情は邪魔だ。
ーピンポーン。
玄関のチャイムにハッとした。
時刻は22時過ぎ。
ストーカー事件解決の翌日、マキを完全無視した俺は、仕事を終わらせ、頭を冷やすべくシャワーを浴びていた。
インターホンを覗く前から、マキだと分かっていた。
瀧本に狙われてるかもしれないのに、こんな時間に来やがって!
すぐに矢田に電話して送迎させようとしたが、矢田は出掛けていてこっちにいなかった。
俺が送らなきゃならないのだが、今の俺は昨日のまんまの沸騰状態だし、マキには言葉で負ける。俺の気持ちも正確に伝わらず罵倒してしまうだろうし、最悪、ベッドに縛り付けてしまいそうだった。
心の中で舌打ちして、バスタオルを腰に巻き、手ぬぐいで濡れた頭を拭きながらインターホンを覗き込む。
玄関前にいたのは、上目遣いに困り眉、緊張気味に切実な表情で画面を覗き込む、マキだった。
ダメだ、やっぱりあの顔を見ると
マキを前にすると、感情が抑えられない。
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