アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
〔裏番外〕狂愛♎︎純愛40
-
深夜。
静まり返った病院には、医療機器の電子音があちらこちらから聞こえたりしているが、空調の音が聞こえるほど静かだった。
誰もいない廊下は薄暗く、非常出口の灯りが遠くに光ってるが、それがまた何か出てきそうに演出している。
そんな薄暗い闇の中を、足音も立てず真っ黒な影が歩いてくる。
影は、茉爲宮優絆と書いてある病室に迷いなくたどり着き、誰にも気づかれないように、そっとドアを開けた。
室内には、外の僅かな明かりがカーテンに写り、室内の様子はベッドの位置しか分からないほど薄暗い。
影は、ゆっくりベッドに近づく。そこにはうつ伏せで点滴が繋がったまま眠ってるマキの姿。
その顔は泣き腫らされて浮腫んでいた。
その痛々しい頬に、そっと触れると、閉じられてる瞳からジワッと雫が溢れてこぼれ落ちた。
泉「触らないでください」
突然、暗い部屋に響いたのは、水森泉の声。
部屋の闇に紛れ、腕組みで待ち構えていた。
泉「触るなら、責任取って貰ってやってくれませんかね?
ねぇ、百目鬼さん」
闇夜に現れた百目鬼に、そう言う。
言われた百目鬼は、苦しそうに眉を寄せ、悲しそうな目をした。
百目鬼「…」
【百目鬼side】
水森泉に睨まれて、マキの頬に伸ばしていた手を引っ込めた。
指先は、今落ちたばかりの雫で濡れた。
俺が泣かせた…
マンションから去る時、瀧本のやり部屋から聞こえたマキの泣き叫ぶ声に、胸が張り裂けそうになりながら、俺は満たされるような気持ちになり興奮していた。マキが、俺と離れたくないと泣いた…、と。
こんな最低でクズな俺のそばで、誰が笑顔になるっていうんだ。
助け出す事も出来ず。間に合いもしなかった。高からの連絡で瀧本のやり部屋に飛び込んだ時、裸の男たちがいるのを見て、思考回路が焼き切れた。
さらに、瀧本の腕に、俺がマキにプレゼントした腕時計を見つけ、瀧本が奪って脅したんだと気づいて殺意が湧いた。いや、本気で殺してやろうとしてた。
俺は、自分の立場も、将来も全部投げ出してた。止めてもらわなかったら確実に裸の男たちと瀧本を八つ裂きにしていた。
マキの声が聞こえて我に返った時、その怒りはマキに向いた。
最低だ。マキを抱きしめてやる事もせず…
腕時計なんかのために、何故、体を差し出す必要があるんだ!?
努力はした。いきなり怒鳴らず、マキの話を聞く努力はした。だがマキは、瀧本が奏一に迷惑行為を働いたのは自分のせいだからと言う。俺に相談もせず、自分だけが犠牲になればそれで済むと。
マキはこの先も同じ事を繰り返す。
俺の周りには危険が付いて回ってる。
その度に、マキは自分の身を危険に晒す。
もう、マキを守る方法は1つしかなかった。
マキを手放す……
〝めんどくさい〟と言えば、マキは別れを承諾する。曖昧にしたらマキは諦めがつかないかもしれない、だからキッパリ切り捨てた。
「…捨て…ないで…」
マキが消え入りそうな声で言った時、酷く衝撃を受けて俺の心を抉った。
〝捨てる?〟こんなに大事にしてるのに、俺はマキを捨てた事になるのか…、俺は、マキを捨てる酷い人間になるのか…。
危険から遠ざけたいだけだったが、俺は、人を捨てる外道になるんだな…
お前のためだ…捨てられてくれ。きっとその先に、お前を笑顔に出来る奴との出会いがある。だから、俺は、マキを…、お前を…、捨てるんだ…。
お前が恋した男は、お前を利用した外道だ…
百目鬼「お前を修二の代わりにしてただけだ、だがお前は代わりにすらならない、手がかかるし、言うこと聞かないし、面倒くさいんだよ。だから捨てる。お前なんか、要らない」
マキの瞳が凍っていく、俺の言葉に絶望し。あんなに恋しい熱烈な色で俺を見続けた瞳から、色が消えていく…。俺のずっと欲しかったその瞳は、…消えた。
マキの絶望する姿に、この身が引き裂かれるような苦痛が襲ってくる。だけど、優しい言葉も、抱きしめる事も俺はしてはいけない。
断腸の思いで最後の言葉をマキに浴びせた。
マキの恋心が冷めるように…
俺を嫌ってくれるように…
腕時計は処分しよう。壮大な夜空か深い海を見た青が、マキに似合う気がして買った物が、マキの身を不幸にするなんて考えもしなかった。あんな物、買わなければよかった。
マキ、終わりにしよう。
俺には責任は取れない。
泣かす事しか出来ない。傷つける事しか出来ない。守る事も出来なかった。
それに、やらなければならない事が出来た。
泉「マキが入院した事、ご連絡頂いたのは感謝しています。ですが、マキが諦めようとしたのを引き戻して恋人にしたのは貴方だったのをお忘れですか?」
水森泉を呼んだのは彼になら、弱音を吐けると思ってだ。病院に着いたら、マキは未成年だから家族に連絡が行くと後から気付き、慌てて水森泉と先生様に連絡した。先生様なら、顔が広いから、水森泉をマキに会わせるように出来ると思った。
百目鬼「俺は、マキを捨てる。これからは、お前がマキを見てやってくれ」
泉「貴方達、破滅へ突き進んで楽しいですか?」
百目鬼「…」
泉「まぁ、こうなるだろうとは思いましたが、貴方たち、2人して自業自得ですよ」
百目鬼「水森泉。できるだけマキのそばにいてやってくれ。マキは、まだ狙われてる」
泉「え?」
百目鬼「瀧本は、元々マキを狙ってたが、瀧本に、マキの居場所を売った奴がいる。もしかしたら身近な誰かかもしれない。それと、一部の朱雀からも狙われてる。退院しても女装させるな。俺に恨みがあるやつだ、俺に女が出来たと喜んで探してる、見つかればリンチにされる」
泉「…」
百目鬼「今日はそれを伝えに来た。片付くまでマキに何か起こらないように気を配ってやってくれ、俺はそいつらを一掃する」
泉「…マキを叱った貴方が、マキと同じことをしてますよ」
百目鬼「俺はマキのためにやってるんじゃない。俺のためにやるんだ。マキとは別れるんだ、もうマキは関係ない。瀧本に情報売った奴は、警察が探すさ」
そして、見つけたら、再起不能にしてやる。
百目鬼「マキは嘘だらけだ、俺は疲れた、めんどくさい、だから捨てる」
水森泉は、俺をジッと見るだけで、そのオーラはピリピリしてるのに、態度は冷静沈着。
俺がマキをめんどくさいと言ってるのに、怒り狂ったりしない。
やりづらい。怒ってくれたら、酷い男としてそれで終われるのに。
百目鬼「どうせ、1人で寝れないのも嘘なんだろ」
泉「…マキは不眠症ですよ。今は痛み止めに含まれる睡眠効果で眠ってます」
百目鬼「なぁ、マキの本名知ってたか?」
何度も話を遮るから、水森泉は不快そうに睨みながら、律儀に答える。
泉「知ってましたよ」
俺が〝やっぱり〟と眉間にしわを寄せると、水森泉はため息ついた。
泉「百目鬼さん、貴方が知りたいのは、〝私が知ってたか?〟では無く、〝マキから聞いたか〟では?」
百目鬼「…そう聞いた」
泉「日本語お勉強し直したほうがよろしいですね」
ニッコリ笑顔なのに。その威圧感が恐ろしい。さすが、マキの世話係。
泉「私は、マキから何も聞いてません。過去も家出の理由も、マキは初めから〝マキ〟としか名乗りませんでした。私がなぜ色々知っているかというと、先生様に世話を頼まれた時に聞いたからです。マキは、匿ってもらうために必要最低限を先生様に話しただけで、先生様にも細かい話はしてないと思います」
そう…なのか…。意外だった。水森泉には全部話してると思っていたのに…。添い寝してるし。いや、でも、だからって俺に細かく話してた訳じゃないだろうし…。
俺は、ふとした疑問を聞こうと、サラッと聞くつもりでいたが、顔が引きつった。
百目鬼「…お前は、マキと付き合う気は無いのか?」
泉「は?」
泉は、鳩が豆鉄砲食らったみたいに驚いて、そして即答した。
泉「お断りですね」
迷惑そうにズバッと斬って捨てた回答に驚きを隠せない。そういえば、水森泉は前からこういう奴だったか…。
泉「貴方たちが上手く行こうと別れようと貴方たちの勝手でしょう。他人が口出しすることじゃないと思います。ですが、腕時計を壊したのはやり過ぎましたね」
百目鬼「…あれは、あれがなければ、マキはこんな目に遭わなかった」
泉「このままでは、マキの心が持ちません」
百目鬼「別れた奴の物なんかいらないだろ」
泉「それはマキが決めることです!マキは、あの腕時計をとても大切にしていました。寝る時は着けたまま、お風呂ですら外すのが惜しい程ね。それこそ貴方の分身のように可愛がり。マキは、百目鬼さんと一緒にいる気がするって毎日惚気て着けてましたよ、それこそ半年間ずっとです。耳にタコです」
水森泉は心底迷惑そうに言う。
確かに、俺といる時もずっと着けてた。
なんだか…、泉の話を聞いてると、なぜか顔が熱くなるんだが…
泉「……顔が嬉しそうですよ」
百目鬼「なっ、違う。俺はマキと終わった」
泉「別れたらマキがどおなってもいいんですか?布団めくってマキの手の中を見たらどうです?」
言われて布団をめくり、見えたのは、マキの手の中に、ビニール袋に入った青い文字盤の壊れた腕時計
百目鬼「ッ……」
マキは、痛み止めの効果で深い眠りについていて。その目尻に涙を溜めていた。
泉「マキを捨てるならどーぞ捨ててください、でも、貴方はやり過ぎた。やり過ぎればかえって未練が残ります」
百目鬼「…どうすればいい?」
水森泉は、不敵にニッコリ笑った。
てっきり、どうしてマキを捨てるんだと罵られると思っていたから、水森泉が何を狙っているのか分からないが、マキと別れた俺は、マキのために今後何もできなくなる。
酷い振り方をすれば終わりになると思ったが、マキはまだ俺を思って泣いている。
確かに最初にやったキーホルダーをボロボロになるまで持ってたマキは、壊れた腕時計を見て、返って今日のことを思い出して泣くかもしれない。
俺は、そう思いながら、マキがいつまで俺を思って泣くのだろう?と変な期待感が走った。
できるだけ早く、朱雀の件を片付けて、そしてお前の居場所を売ったやつを始末する…。
出来ればお前が入院中に片付けたい。
マキ、お前を笑顔にする男が早くできることを祈ってる。
本当は、誰にも触らせたくない。
誰にも見せたくない。閉じ込めてしまいたい。懲りずにそう思ってしまってる。
マキ…、最後だから認める。
お前のこと、修二より好きになってたぞ…
お前と居て、修二を思い出さなくなってた…
修二と行った思い出の場所はどこも、
無邪気にはしゃぐマキの笑顔しか思い出せない……
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
707 / 1004