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(番外編)純愛>♎︎<狂愛4
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なにが、無理強いはしないだ。
滞在用の僕の部屋が用意されてた。
そこには、この家を飛び出すまでの荷物とか洋服とかアルバムとかが、綺麗に整頓されて置かれてた。
はっきり言って、ここにあるものは何一ついらない。
そもそも、僕は何事にも欲が薄い。
大好きだった清史郎さんのことも、僕の母親のマリアが本命だと聞いても、そばにいられれば良いやと思ってた。
結婚すると聞いた時は、流石に邪魔になるだろうと家を飛び出した。
でもそれは、別に清史郎さんが女の人と結婚するのが嫌だった訳じゃない。1番じゃないのが嫌だった訳じゃない。
他人の家庭を壊すことが嫌だった。
そして大きくなってやっと気づいた。
ここにいる誰も、僕を見てなかったということ。
愛人マリアの子供…
マリアの生き写し…
清史郎さんも、実父も、成一さんも、親戚も、お手伝いさんも…
誰も僕を見てなかった。
唯一一人だけ、僕を見ようとしてくれた人がいた。それが、実父の正妻の頼子さん。
あの人は、本当に苦しかったと思う。
愛人の子が同じ家に住んでるのに、それを顔にも出さず、毎日清史郎さんの子供、成一さんの従兄弟として優しく厳しく接してくれた。
中学生の時、僕と清史郎さんとの関係を知って、〝お金をあげるから、あなたは出て行ったほうがいい〟と言った。その表情はとても複雑で、怒りと悲しみの入り乱れた苦悩の表情だった。頼子さんは僕の母を恨み、子供にはなんの罪も無いと自分に言い聞かせていたが、日に日に母に似ていく僕を見るのは辛かったろうと思う。それでも、その憎しみをぶつけるどころか、茉爲宮家で軟禁状態の僕に〝外の世界〟を教えてくれた。憎しみも悲しみも押し殺し、根本を見据えて行動した頼子さんのあの苦悩の表情は、一生忘れない。
この家に何か気になることがあるとすれば、頼子さんにお礼を言いたい事くらい。
だけど、頼子さんは僕に会いたく無いだろうな…。お金を返す時、手紙を書いたけど、返事はなかった。
…だから、実父の晩ご飯に付き合ったら、百目鬼さんの所に帰ろう。
そうだ、百目鬼さん。
ポケットの携帯を取り出した。
だけど、百目鬼さんからの連絡は無い。
マキ「忙しいの…かな…」
帰ったら…会えるから…、もう少し我慢…。
胸元の羽根籠ネックレスと腕時計にそっと触れ、昨日まで百目鬼さんの腕の中にいたのを思い出し想いを馳せる。
マキ「百目鬼さん…」
何度も名前を呼んだ。その度この気持ちはそのうち消せると諦めていた。だけど今は、呼べば百目鬼さんが答えてくれる。
百目鬼さん『なんだ、マキ』
ぶっきら棒に眉間にしわを寄せながら、その瞳は優しくて……
百目鬼さんを好きなことを諦めなくていい、百目鬼さんの1番になりたいを諦めなくていい、諦めなくて良いって、なんて素敵なことなんだろう…。
今の僕は欲だらけだ。
百目鬼さん…
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広い部屋で、一つのテーブルを囲み、家族が食事をする。
シーンと静まり返った部屋には、わずかな食器の音。長方形のテーブルに、3人だけ座ってる。
車椅子に乗った実父、その周りにお手伝いさんが2人、後ろに秘書が立っている。そして、不気味なほど普通に接してくる成一さん、そして僕。
静かな食卓は、僕にとって普通で当たり前。会話がなくても特になんとも思わない。修二たちは賑やかで、それはそれで楽しいけど、口数の少ない百目鬼さんが食事をしながらテレビを見て、ビールを飲む横顔を見ながらの食事も僕は好きだ。
目の前には高級そうな食材で作った豪華なご飯が並ぶけど、やっぱり百目鬼さんの作るご飯の方が美味しいなぁ…。
実父「優絆、好きなものは遠慮なくおかわりしなさい」
マキ「ありがとうございます」
実父は、何かを思いついては僕に話しかけるけど、会話は二言三言で終わってしまう。
別に意地悪してる訳じゃ無い、返事をしたら終わってしまうような話題しかふってこないからだ。
実父「優絆は、嫌いなものあるのか?」
マキ「だいたい全部食べれます」
実父「そうか。成一はピーマンが嫌いだったな」
成一「父さん、それは子供の頃の話だよ」
実父「そうか…そうだったな」
そうしてぎこちない食卓は、堅苦しい空気のまま終了した。
さぁ、義務は果たした。百目鬼さんのうちに帰ろう。また来て話し相手になってあげれば…
部屋にもどると、僕は扉を開けたまま固まってしまった。
部屋には、さっきまで一緒に食事をしといたはずの成一さんが、もの凄く嫌な笑いを浮かべて部屋の真ん中で待ち構えていた。
マキ「…成一さん、何か御用ですか?」
成一「お前、父さんに逆らったんだって?」
先ほどの食卓では普通だったが、今まで通りの軽蔑の眼差しで人を小馬鹿にした言い方。
まぁ、そうだろうと思った。この人が僕と和解なんてありえない。
成一「せっかく、父さんが情けをかけてるのに、お前は最悪だな」
マキ「…分からないなぁ。私がこの家にいたらよくないと思うから断ったし、私がいない方がいいと思うのは、あなたもでしょ?」
成一「俺は、お前に戻ってきてほしいと思ってるぜ」
ニタリといやらしい笑いを浮かべてる。何か企んでるのは見え見え。
マキ「そういう顔には見えないけど♪」
成一「戻ってこいよ。戻って父さんの願いを叶えてやれよ。父さんがお前にいくら金使ったと思ってんだよ、その分を父さんに返せよ。そんで俺の下で働けよ、俺に逆らわずに働くなら今までのことは許してやるよ」
うわー、いびる気満々じゃん。そんなブラック会社で働きたいって言う訳ないじゃん♪。
マキ「親孝行ならいくらでもするけど、私は戻る気はありません♪」
成一「…俺に逆らうんだな」
マキ「逆らうも何も、そんな怪しい顔で勧誘されてホイホイついてくなんて、今時いないでしょ。ぼったくりバーへどうですかって言ってんのと同じだと思うけど♪」
成一「もう一度だけ言ってやるよ。俺の下で働けば、今までのことは水に流してやってもいい」
マキ「…私は、何もしてない。ここには戻らないです♪」
成一「フッ、自分から戻ってりゃ、嫌な思いしなくて済んだのによ」
成一は意味深なことを言って、内ポケットから、茶色い封筒を取り出した。
成一「百目鬼神から手紙だぜ」
マキ「えっ!?」
思わずビックリしたのが声に出た。
成一はさらに口角を上げるのを見て、僕は反応を隠せなかったのが失敗だったなと悟る。
成一は茶色い封筒を僕に渡し、ニヤニヤしていた。
封筒の中身は、一行だけ。
〝今後、茉爲宮優絆に関わらないと誓う〟
と、プリントしてある文字の下に、百目鬼さんの直筆サインがしてあるものだった。
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