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32〔裏番外〕ゆくえ……
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駄目だ、苛立ちがどんどん俺の頭を支配する。
嘘を付かれたとか、わざわざ性欲剤入りのスープを用意したとか、腕時計を貰えないとか。グルグルしてる俺はマキを追い詰めて震えさせてる。
いつもだったら言い訳の一つもするのにしやがらねぇし、ただただ俯向くマキに、俺の心に痛みが走ってかろうじて我を忘れるところまでいなかないいてくれてる。
これ以上ここにいたら、マキを泣かせちまいそうだ。
一旦離れて、タバコを吸ってクールダウンしなきゃ、きっと冷静に話すことも側にいることも出来ない。
キレて酷い扱いをする前に…
俺は、決めたんだ…
もう一度再確認するように、烏磨から貰った書類の入った鞄を持ってる手を強く握りしめた。
これを実行するためには、俺は大人の男の余裕というやつを持たなければならない。
気持ちを切り替えるために深呼吸して息を吐く。息を吐いた俺を感じ取り、俯いてるマキがビクッと震えた。
俺はマキを怯えさせてるんだ…
嘘をつかれたり、時計を貰えなかったりして俺は過剰反応してる。マキは、俺が腕時計の存在を知ってることを知らない、だから、貰えないと苛立つのは、マキには理不尽なことだ…。一度返してマキの手から貰おうと決めたのは俺なのだから、そこは、呑み込まなくてはいけない。
たとえ、その腕時計をこの先ずっと貰えなくても…
一旦タバコを吸うために、マキを給湯室に残して事務所から出て行った。
マキが逃げ出すと困るので一階の階段の真下でタバコを吸い始め、火をつけて煙を吸い込んだ瞬間から、苛立ちに支配されてた脳みそがリラックスして活動を再開する。
落ち着け百目鬼神。
相手は10も年下のガキだ。ましてやセックス依存症だ。やつの中でセックスは不安を埋めるための安定剤だ。俺が4日間いないのが不安だったんだろう…。
…なぜマキはあそこまで不安がりなんだ…。その癖平気な顔するし、ちゃんと言葉で言ってくれなきゃこちとら恋愛スキルも癒しスキルも底辺這いずり回ってるから分かりゃしないんだぞ!
その代わり、一度言われた事を、理解するまで話してくれた事を忘れるほど馬鹿じゃないぞ!
矢田じゃねぇんだから!!
マキが話してくれた過去と、今のマキを見る限り、本当の意味で甘え下手で、甘える事を悪いことだと思っちまってるから、そこの調節はなかなか難しいしデリケート過ぎて俺にどうこうできそうにねぇ、だから、出来ることから順にやってるつもりなのに追いつかない…。
俺の行動が、マキの心に追いつかない…。
どうやったら、マキと、茉爲宮優絆の心を掴める?
……修二や奏一なら…簡単に出来るんだろう…
マキを幸せな気持ちにしてやれるんだろう…
ボンクラな自分が憎い…。
タバコが早くも半分になろうとしていて、俺の頭もほんの少し落ち着いた。怒りや苛立ちをマキにぶつけるのは簡単だ。だが、すぐに怒鳴ったり怒ったり俺の悪い癖だ。もう何度もそれでマキを泣かせてる…。
落ち着け百目鬼神。
要は、セックスしたかったんだよマキは、4日間もそうだが、平日のセックスを減らされて、不安になってんだよ…。つまりここは、抱いてやりゃいいんだ。頭を冷静に、やさーしく抱いてやりゃいいんだ。
…。
………ッ、ダーーッ!!そうすると怒るじゃねぇか。
こないだは、セックス依存症だから無理に抱いてるんじゃないかって怒ったじゃねぇか!
だから!俺は毎日だってお前を抱けるが!おめーが動けなくなるし卑猥なオーラだだ漏れの気だるい顔して大学行くのが嫌だってんだろうが!!どんだけ大学で襲われてーんだ!このモブ取りホイホイがッ!!
はぁ…はぁ…
…駄目だ…、落ち着いたと思っらすぐに怒りに逆戻りじゃねぇか。
落ち着け百目鬼神!大人だろ!
そもそもセックスしたきゃ可愛いツラしておねだりすりゃ一発だろ。俺の理性なんかマキに本気出されたら紙紐より脆い。だいたい何でスープまで作って性欲剤混ぜようなんて思考になんだよ!おかしいだろ!
あのオレンジの鍋はどっから持ってきやがった!何が弄りすぎて薄くなっただよ。
…………ん?
あれ?
市販のスープじゃなくて?
……、あのスープ、マキが作った?
料理が超絶下手なマキが…、1人で作ったとは考えづらい…。事務所の給湯室にってことは、杏子が協力したのか?それとも杏子に作らせた?いや、それはないか、スープの中の野菜はどれも大きさが不揃いだった。じゃあ、杏子に教わって……、あっ!昼間は修二の家にいたはずだ、ということは、修二……
修二が性欲剤入りスープを手伝うか?いや、無い無い。なら、修二を騙してつくり方を教わった?
そういえば最近、セックスしない日、週に3度修二の家に行っていた、料理を教わってたとか?
制欲剤入りのスープを作るために??
んん??
…そ、そういえば、驚きと衝撃で気に留めてなかったが、性欲剤の箱は…全て未開封だった。
ってことは、あの鍋にはまだ性欲剤が入ってない?
あんな風に俺に言われたら、マキはあの鍋を……
ハッ!!
慌てて二階に駆け上がって給湯室に戻ると、マキが泣きながら鍋の中身を捨てようとしているところだった。
百目鬼「待て待て!!定食屋の息子として、食べ物を粗末にするのは許されない!!」
マキ「ッ!!」
俺が急いでマキから鍋を取り上げると、マキは驚いて一瞬固まったが、すぐに涙を隠すように拭って右手を背中に隠して、申し訳なさそうに左手を差し出してきた。
マキ「ごめんなさい、もう捨てません、全部食べるから…」
返してと言うように手を出されたが、俺は鍋の中身を味見した。
マキ「やっ!やめてよ!!そんな不味いの食べないで!!」
確かに…味がほとんどなくて煮崩れたジャガイモが溶け始めてる。だが、確かに性欲剤が入ってる味はしない。恐らく野菜を煮込もうとして煮詰めすぎて味が濃いのを水で薄め過ぎたんだろう……。
性欲剤を入れる前なら、これはただの野菜スープだ、食べれないものじゃない。
それに、さっきっから隠してる右手。
百目鬼「マキ、右手を見せてみろ」
マキ「………」
マキは、背中に隠していた右手を、おずおずと俺に見せる。その指には、絆創膏が3箇所してあった。
このスープは、マキの手作り…。
なんてもったいない、性欲剤入れようとさえしなきゃ、褒めてやったのに…。
マキ「ごめんなさい、もうしません。だから返して、全部自分で食べるから」
百目鬼「味が薄いだけだ、コンソメ買ってきたんだろ?あと、塩胡椒すりゃいい」
マキ「…でも…」
百目鬼「食べ物は食べ物だ。俺は夕飯まだなんだ」
俺が鍋をコンロに戻して、火を付けコンソメを足そうとしたら、マキが急に真剣な顔をした。
マキ「神さんお願いします」
百目鬼「なんだ?」
マキ「神さんの言う通りにするから、味付け足すの僕にやらせて下さい」
やけにかしこまった言い方。不思議に思ったが、コンソメ入れて塩胡椒するだけだし、マキにやらせる事にした。
そして完成したスープを持って三階の自宅に帰り、2人で半分にして食べた。
ジャガイモがほとんど原形をとどめてないザラザラのポトフ。野菜は煮詰めてあるから柔らかいが、玉ねぎは溶けてなくなり、ウインナーは破裂して肉汁が出て行ってしまって味がしない。スープは俺が調節したからちゃんとしていたが、全体的には煮込み過ぎのポトフとなった。
食べ終わって食器を片付けようとしたら、マキが自分が片付けるからと食器を持ってくれた。
マキ「……神さん、〝こんなもの〟作ってごめんなさい。もうしないから……」
そう言って、また泣きそうな顔で食器を洗いに台所に向かった。
ングググ…
何故そんな顔する…。性欲剤入りなんて怒られて当然だろ……?そんなにセックスしたかったのか……。そんなに不安なのか……。
俺が前回お前を捨てたから、また捨てられやしないか怯えてるのか?
あーーもーー!!
知らねぇぞ!明日ヘロヘロになってもいいんだな!狼と化したモブ共に囲まれてもいいんだな!そこへ俺が乗り込んでも文句言わないな!!
百目鬼「マキ」
マキ「なに?」
百目鬼「来い、抱いてやる」
マキ「…………」
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