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44〔裏番外〕ゆくえ……
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強い意志を宿した瞳が、溢れる大粒の涙の向こうからこちらを貫くように睨む。ボロボロ溢れ落ちる涙はキラキラ輝いて、悲しい怒りの象徴なのに綺麗だとさえ思えてしまう。
百目鬼「マキ、お前は何も分かってない、俺がどんな人間か…」
マキ「分かってるよ!!神さんは優しい人で!誰よりも努力家で!〝僕は〟大好きなのに!!分かってないのは神さんの方だよ!!」
溢れる涙を止めることができずに、震えて…崩れそうな体に力を込めて、キッと俺を睨みつけ泣き叫ぶ姿。
これが本来のマキだ、本当のマキの気持ちだ、マキの真実だ。
茉爲宮優絆という人間の本心で、怯えて隠して誤魔化してきた仮面を叩きつけた姿だ。
清史郎「…」
マキの激情に驚きを隠せない清史郎は、苦しげに俯いて目を反らす。
百目鬼「マキ…」
マキ「…僕は…逃げたりなんかしない…」
百目鬼「マキ」
マキ「僕は…怖いなんて思ったこともない…」
百目鬼「マキ!」
マキ「僕は…」
百目鬼「うるせーッ‼︎‼︎‼︎」
俺の怒声が響いて、マキが怯えたように黙る。
清史郎が恐ろしいものを見るような視線を俺に向けていた。
抑えなければと頭に浮かんだが、俺ってやつは止まるわけがなかった。
百目鬼「〝僕は〟〝僕は〟うるせーな!!」
マキ「ッ!!」
百目鬼「お前は本当の俺が分かってない!!」
マキ「……うっ…ひっ……く…」
止まれない俺は、ここまで抑えてきた発言を我慢しきれず、何もかもをぶち壊すと知りながら、爆発した。
マキが泣き崩れてしまっても、可哀想だと思うどころか、怒りが全てを支配して、全てを台無しにしてしまう。
何度も何度もこうして失敗してきたのに…
もう、我慢の限界だった。
百目鬼「俺だってお前が好きなんだ!!
手放すだの別れるだのありえねぇーんだよ!!
いい加減に貴様が俺を信じろ!!」
マキ「!!!!!!……」
清史郎「…………………」
怒声のあとの静寂……
俺の言葉に向けられるのは、何が起こってるのか分からないと混乱に揺れる大きな瞳。
信じられないと言いたげな疑いの眼差し。
チッ!やっぱりじゃねぇか!!
怖いのは分かる。
俺も同じだ。
だが!!少しでもお互いを信じなきゃ、何も育たねぇだろうが!!
お前は俺のこと分かってない!!自分がどれほど愛されてるか分かってない!!
いい子になるだと!?ふざけんな!!
振り出しに戻してどうするんだ!!
お前はいい子ちゃんでも都合のいい人間でも天使でもマキ様でもない!!
感情ある、茉爲宮優絆だ!!
清史郎。
その目でしっかり見やがれ、マキは…茉爲宮優絆は、いい子ちゃんでもねぇ!なんでもできてお利口さんの人形じゃないんだぞ!
百目鬼「俺がどんなに執着心が強くて嫉妬深い狂った奴だかもう忘れたのか!!」
マキ「……」
何が起こっているのか分からないと瞳を揺らすマキ。
その後ろに清史郎の姿を捉え、俺はハッとした。
…あぁ…やっちまった…
怒鳴り散らして切れた息。荒い息をしながら、沸騰した頭が冷静になっていく。〝やっちまった〟と思った時。いつも、終わってからだ。
百目鬼「…ッ…クソッ!」
発言権の無い内に、我慢できずに言っちまった。
清史郎「………もう…いいです……」
泣き崩れたマキを見ていた清史郎が、力無く呟いた。
諦めた様に肩を落とし、項垂れる清史郎は、悲痛な声を漏らす。
清史郎「…百目鬼さんの…、おっしゃった通り……でした………」
それは、俺に発言権を与える合図でもあった。
百目鬼「…、すいません…俺」
清史郎「いいえ、…もういいんです。百目鬼さんが正しかった。私が…間違ってました」
約束を破って発言したのに、清史郎は諦めた様に力無く答えた。
マキ「……」
清史郎「……優絆。すまない…意地悪な言い方をした」
マキ「…な…に?」
清史郎「どうしても戻って来て欲しくて、答えを聞くまで百目鬼さんには何も言わないで欲しいとお願いした」
マキ「……」
清史郎「……初めてだね。優絆の…泣いた顔も…怒った顔も…、何かをしたいと強く願ったことも…」
マキ「……」
清史郎「百目鬼さんには、それが出来るんだね…」
何が起こっているのか、マキはまだ理解できていないのか、大きく見開かれた瞳には、困惑の色が濃いまま涙に濡れている。
清史郎が、そんなマキを見つめて、力無く微笑んだ。
清史郎「優絆…、百目鬼さんと一緒に居たいか?百目鬼さんと一緒なら、幸せかい?」
マキ「…………」
マキが瞳を瞬いて、俺をチラッと見た。
マキが、今、何を考えているか想像がついたから、椅子に座り込むマキを抱き寄せて頭を撫でてやる。
百目鬼「これは夢だとか、嘘だとか、信じられないとか言うなよ。俺はお前が好きだ。お前を手放す気なんか無い。俺は嫉妬深いんだ。こんな俺と一緒に居たいか?」
マキ「………………」
マキの、震える唇が答えを言う前に、止まっていたはずの涙がボロボロ零れ落ちる。
溢れる涙はマキの喉を締めつけて、なかなか答えさせてくれなくて、マキはパクパク一生懸命口を動かしたが、声が出てくれずに俺に強くてしがみつく。
言葉の代わりに、一生懸命首を振って訴え、そのまま嗚咽を漏らして俺の胸に抱きついた。
マキの熱い涙が俺の服に染み込んでいく、その感触に俺って奴はは高揚感を味わいながら、愛しさと狂おしさに胸を締めつけられる。
マキの体は細くて熱くて折れてしまいそうで、強く抱いてやりたいのに出来なくて。
俺の腕の中でそっと抱きしめたマキは、子供の様に泣きじゃくった。
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