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ー芽生えー8
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みみちゃんの相談内容は、人探しだった。
92歳になる曾祖父さんが、妻に先立たれ10年にもなり、90歳を過ぎてから人生振り返ってみると、心残りが1つあるそうで。それが、戦中にいた恋人の存在。戦争から帰ってきたら、彼女の行方もその家族の行方も分からず。その後、親の勧める見合いをして結婚、それが10年前に亡くなった奥さんだそう。
奥さんはとても優しく気立てが良く、とても好きになったけど、亡くなって10年、自分も終わりが近いことを考えると、昔の恋人があの時どこに行ってしまったのか気になってしまったのだという。
もちろん、直ぐに神さんに話を通した。
曾祖父さまは足が悪いので、代わりにみみちゃんとみみちゃんの弟が百目鬼事務所に来て話をした。なんでも、みみちゃんの親御さんには内緒らしい。
人生の最後に、かつての恋人を探したいなんて、娘息子には申し訳なくて言えないと曾祖父さまが言うので、ひ孫のみみちゃんたちが曾祖父さんのささやかな願いを叶えたいとやって来た。
百目鬼さんは直ぐに会ってくれた。
事務所のソファーでローテーブルを挟んで向かい合う僕ら、百目鬼さんと僕、みみちゃんとみみちゃんの弟の翼君。弟君は凄くみみちゃんと似ていて、端正で綺麗な顔に黒髪の真面目そうな男の子。高校三年生で、僕と同じぐらいの身長で、大人っぽい彼は、とても礼儀正しい子だった。
若干緊張気味のみみちゃんと弟君に、檸檬さんがお茶を出しながら明るく話しかける。
檸檬「百目鬼さんはこんな恐ろしい顔してるけど、中身はとっても優しい人だから安心して♪」
百目鬼「檸檬…」
檸檬「ほらほら、眉間にシワが寄ってますよ百目鬼さん、マキちゃんのお友達なんだからスマイル♪」
百目鬼「うるさい、顔は生まれつきだ」
場を和ませようと神さんに絡むから、神さん益々眉間にシワが寄っちゃってる。別に怒ってるわけじゃない。けど周りにはムスッとしてるように見えるみたい。
こんなに可愛いのに…。
すると百目鬼さん大好き矢田さんが…
矢田「大丈夫っすよお客様。百目鬼さんは顔は怖いけど凄く優しい人っす。俺はバカだし直ぐ仕事ミスって怒られやすけど、愛のムチっす!百目鬼さんはこんな俺を雇ってくれてる優しい人っす!言葉使いで誤解されたり、すぐ怒鳴ったりキレたり乱暴な言い方しちゃったりしますが、本当は優しくて腕は確かっすから、安心して下さい!」
矢田さんの力説に、その場が静まり返る。だけど矢田さんは〝こんなに百目鬼さんは素晴らしい〟とキラキラした目をしてみみちゃん達を見つめてる。
すると杏子さんが、矢田さんの首根っこを掴んで退場させた。
杏子「フォローになってませんから、矢田さんは車庫で荷物整理してて下さい」
矢田「す、すいやせん!」
檸檬「ギャハハハハ」
矢田さんと杏子さんのやりとりに爆笑する檸檬さん。
相変わらず、この事務所は賑やか。
ってか、杏子さん。フォローになってないって言っちゃうんだ、矢田さんの言ったことは否定しないのね。
百目鬼「騒がしくて申し訳ない」
百目鬼さんが頭を抱えてみみちゃんに謝ったけど、みみちゃんは微笑ましそうに笑ってた。
百目鬼さんは、みみちゃんの相談をとても親身になって聞いてくれて、みみちゃんも最初は緊張気味だったけど、百目鬼さんが質問したりしても普通に答えられてて、後半は、僕が間にいなくても大丈夫そうだった。
百目鬼さんなら、絶対引き受けてくれるとばかり思っていた…けど…、返ってきた答えは意外なものだった。
百目鬼「話しは分かりました。ですが、うちの事務所ではこういった人探しは得意ではなくて。私の知り合いにこういう人探しを得意とする探偵がいます。そちらの方が大手で力もあるのでお力になれるかもしれません。宜しければご紹介しますが…」
僕は驚いて思わず口を挟んだ。
マキ「えっ、百目鬼さん引き受けてくれないの?」
僕の言葉にみみちゃんたちが不安げな顔をした。
神さんは、2人を安心させるように優しく微笑んで、みみちゃんたちと僕に説明してくれた。
百目鬼「探偵にも、得意分野があります。私の場合は、昔ヤンチャしてたもので、そういう裏の人間に人脈がありますが。今回の依頼の場合、戦中行方が分からなくなった方の捜索なので、当時の地図など専門的な知識も必要です。なので、私個人の事務所では限界がありますので、それが出来る優秀な探偵を御紹介させて下さい。私が責任を持ってパイプ役をしますので」
みみ「はい、百目鬼さんにお任せします。宜しくお願いします」
神さんの説明と優しい笑顔に、みみちゃんは安心して深々頭を下げ、その隣の弟君も遅れて深々頭をさげる。
そうか、神さんじゃ無理なのか…
少しだけガッカリして肩を落としていたら、神さんが僕に向かって言った。
百目鬼「マキ、上に行ってろ」
マキ「えっ…」
百目鬼「ここからは依頼人と話を詰めるから、お前は終わるまで待ってろ」
マキ「…、うん♪」
確かに、今の僕は百目鬼事務所の人間じゃない。
前はアルバイトさせてもらったけど、〝ヨリが戻ってから〟も、バイトの話は出てない…。
だから今の僕は部外者だ。
仕事なのだから当たり前なんだけど、ヘラヘラ笑ってて返事はしてみたものの、内心はシュンとしてしまう。
僕がソファーから立ち上がると、神さんが呼び止めた。
百目鬼「……マキ。…ッ…、冷蔵庫におやつ入ってるから食っとけ、終わったら声かけるから」
神さんは眉間にいっぱいシワを作ってそう言った。
みみ「……」
翼「……」
神さんの普段の表情がチラッと見え、さっきまでの仕事の顔じゃない神さんの顔をみみちゃんと弟君が目をパクチリしながらみつめてる。
みみちゃんはきっと、頭の中でキャーキャー言ってるんだろうなぁ。
仕事の顔してる神さんは本当にカッコいい。
なのに、普段は不器用だけど優しくて、困った顔しながら僕を甘やかしてくれる人。本当に可愛い人だから、もう堪らなくムラムラしちゃう♪。
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