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番外編⑤泡になって消える狂愛に口づけを
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聞けば、水族館に来たのは初めてで、海の生き物が動いているのを初めて見ると言う。
マキは、百目鬼が驚いたのが気に入ったのか、わざとらしくモジモジして可愛く上目遣いで甘えた声を出す。
マキ「ぼくぅ、夜の街に出掛けること以外あまりないんだ♪、こないだ、百目鬼さんの依頼で修二を尾行して海に着いて行ったでしょ?あの時、海を初めて見たんだぁ♪本当に潮の匂いがして感動しちゃった♪」
百目鬼「…海も?…」
マキ「うん」
百目鬼「まさか…映画も?」
マキ「うん。だから、僕、百目鬼さんに初めてを奪われちゃった♪♪。キャ♪。デートって初めて♪楽しいね♪」
マキは瞳をキラキラさせて、わざと百目鬼を刺激するようにかわい子ぶりっ子で頬を赤く染める。
初めて……?
…奪われ…………
………デ……………は?
百目鬼「デート!?」
百目鬼は、マキはの魂胆が分かっていたが、その言葉に驚きを隠すことが出来なかった。
マキ「えへ♪2人っきりで出掛けたらデートでしょ?」
百目鬼「勘違いすんな淫売!俺は…」
慌てて否定しようとしたら、からかうみたいに可愛く喋っていたマキの声が百目鬼の心の声を代弁する。
マキ「連れてこいって言うから連れてきた…。でしょ?ふふ」
マキは不敵に笑い、かと思うと、またパッと子供みたいに笑い百目鬼の腕を引く。
マキ「ねぇ、修二は何処が1番お気に入りだったの?教えてよ♪」
マキは、修二と百目鬼の思い出をなぞるように水族館の中の順路を回る。
修二の思い出を聞きたがり、百目鬼が渋ると、修二に電話をかけようとする。そして騒ぐ。その繰り返し、完全にマキのペース。
マキ「見て見て百目鬼さん!!クラゲ!クラゲが青い!あっ!あっちにはスモモ色!!」
マキ「あ!あのオレンジの縞模様映画で見た!たしか…二…?あー…、イソギンチャクに隠れちゃったぁ…」
マキ「ねぇねぇ百目鬼さん、エイって、なんで笑ってるのぉ?ほらほら、口がにィ〜ってなってるぅ」
マキのはしゃぎぶりに、呆れながら、ずっと見てると、なんだか百目鬼はマキの反応がおかしくなってきた。
エイの口の端が両方上がっているから笑ってるように見える…。そんなふうに考えたことはなかった。
得体の知れない子供の無邪気な顔に、無意識にフッと口角が上がる。
修二は…昔少しは楽しかったのか…、1度もあんな風に笑わせてはやれなかった。
ーブブブ
百目鬼の携帯が振動した。仕事の電話だったため、百目鬼は、少し離れた場所でマキを目の端に、電話に出た。
昨日のチンピラ逮捕の報告、警察への引き継ぎを報告され、『今日そのまま大人しくしていて下さい』と言われた。
修二を救出したのが百目鬼だとバレると今後何かあった時、また修二達が狙われる可能性があるため、後処理には一切かかわらず、手柄も警察へ献上し、今回の件は終了したとの報告の電話だった。
電話が終わりマキを見ると、マキは一つの大きな水槽の前での静かに佇んでいた。
青い水槽からの光に揺れる光が、マキを包んで、海の中にいるように見える。はしゃいでたはずの瞳が、なんだか悲しそうに見えた。
マキ「仕事の電話?」
百目鬼「ああ…」
マキがこちらに気がついて振り返った時には、子供の顔でニコッとしていた。
マキ「百目鬼さんは何の仕事してるの?ヤクザさん見たいにイカツイけど」
この風貌と頬の傷じゃそう思われることしかない。しかしもう会うこともないマキに説明する必要も無いと思った。
百目鬼「…そうだぞ、恐いんだぞ、俺と一緒にいるとどっかから狙撃されるかもな」
それを聞いてマキは、鼻でクスッと笑う。
マキ「な〜んだ違うのかぁ〜」
マキは、にこぉーっと笑って、百目鬼の腕に巻きついた。
百目鬼「おい!俺の話を聞いてたか」
マキ「で?本当は何の仕事してるの?」
全然聞いてねぇーし。
百目鬼「…探偵だよ」
マキ「へー。迷い猫とか探すの?」
百目鬼「探さねぇーよ。もっと危ない仕事請け負ってんだよ、だから俺と一緒にいたら修二みたいに危ない目に合うぞ…」
マキは不敵に笑い、静かな表情で水槽の方に視線を移す。うるさかったマキが急に静かになった。マキが見ている水槽に目を向けると、そこは、ジュゴンがいた。
マキ「その修二を助けたのは百目鬼さんだ」
静かな口調のマキは、水槽を見ながら言った。
しかし、修二が拉致られる原因は、矢田が修二に接触したからだ。矢田に見張りの指示を出したのは自分だから、結局原因は自分にある。
百目鬼「何も知らないくせに口を出すな」
マキ「何も知らないのは百目鬼さんだよ」
百目鬼「なんだと」
マキ「貴方がこの街に来る前に、すでに華南とむつが、チンピラに関わって目を付けられてた。チンピラに絡まれた、〝俺〟を助けるために、下っ端をボコった」
百目鬼「な…」
マキ「俺が、あそこのボスに狙われてたの百目鬼さん知ってるでしょ?助けてくれた」
百目鬼「…」
マキとの出会いは、あのチンピラを見張っていたら追い回されてる少年がいたから、角を曲がってきたところを捕まえてかくまったのがきっかけだ。そのあと家に送ると言ったら、先生様の家だった。先生様とは、古い知り合いで、マキはお礼にいつでも指名して、と名刺を渡してきた。だから、3度ほど、修二の様子を見るのに協力してもらった。
マキ「貴方がいなかったら、華南かむつか修二の誰か、もしくは3人ともが捕まった」
知らなかった…。
華南がチンピラにつけられてるから、くだらないイザコザがあったのかと思ったが…
マキ「百目鬼さんは、人魚みたいだね…」
は?人魚?何言ってるんだこいつ…。
…人魚のモデルって言われるジュゴンを見て連想したのか?
百目鬼「醜いって言いたいのか?」
マキ「好きな人を助けて、人間の姿になって会いに行ったのに、好きな人は、他の人と結ばれる…」
百目鬼「人魚に失礼だろ、俺はそんなんじゃない、お前は知らないが、昔、修二には刺されても惜しくない酷い仕打ちをしている」
マキは水槽を、深く暗い瞳で見つめてる。
マキ「………どうして、普通に愛せないんだろうね…、どうして、世の中の普通は自分の普通と違うんだろうね」
百目鬼「?」
マキは、水槽を見ていたが、何もかも見透かすような瞳を百目鬼に向けた。
マキ「百目鬼さんはただ…好きな人に振り向いて欲しかっただけ。1度目は、人魚の姉妹に貰った短剣を修二に突き刺した。
2度目は、今度こそ間違えないと決心していた。だけど、修二が振り返ることはなく。ノンケに恋しても修二は傷つき脆く崩れる。何とかしてやろうと再び短剣を振りかざした」
百目鬼「…現実はもっと残酷で酷い仕打ちをやったぜ、俺のためにだ」
マキ「百目鬼さん、2度目は短剣を振り降ろさなかった。…時間はたっぷりあった…、でも、最後までシなかった。媚薬が仕込まれてるの分かってても自分のを突っ込まないで、先生に連絡した。今度こそは、彼を本当に大事にしたかったんでしょ?」
百目鬼「…お前、何が言いたい」
マキ「修二の涙を見た時。本当にダメなんだと気づいて、鎖を解放した。自分は泡になるつもりで…」
百目鬼「やめろ、ストーカーの心理を正当化するな、世の中じゃ、それを狂ってるって言うんだ」
百目鬼の睨みに、マキはまるでそれを受け止めるように見つめてくる。見透かされて、中を覗かれてるようだ。
マキ「百目鬼さん、僕が代わってあげる。泡になって消える役を修二への気持ちごと全部、だから百目鬼さんは王子様になって、お姫様と幸せになりなよ。メイちゃんは優しい人だよ」
百目鬼「…お前、頭おかしんじゃないのか?何言ってるかわからねぇよ」
マキは、静かに微笑んだ。
百目鬼は、動揺を隠そうとしたが、全て手遅れだと悟る。失恋のショックで、得体の知れない少年と関係した、自分の弱みを握りこまれ、今から少年の正体を探ろうにも、自分は、彼を知ろうとしてなかった。
マキ「ねぇ百目鬼さん♪お腹空いたね♪」
マキのことは全く分からない。
どの顔が本当なのかも…。
暗い水槽のトンネルの中、百目鬼はただただ、自分の手を握り前を歩いている〝マキ〟について考えた。
はじめは、危険な子供の匂いがプンプンするから、関わりたくなかった。
しかし、今はマキがどうゆう人物か知りたくなった。
何もかも見透かす瞳。
大人びた表情と観察力。
夜の妖しく妖艶な表情…
それと相反する無邪気さ。
百目鬼は、マキの背中を見つめた。
彼は、一体何を隠し持っているのか…。
自分の勘ざわりとした。
彼は何故、〝代わりにして〟と言ってくるのか。
そう言った時の瞳は酷く深い闇を写した。
どうして気づかなかった。
なんで、修二との思い出をなぞるのか。
なんで、あんなに煩く騒いだのか。
全て〝わざと〟な気がしてきた。
彼のことは、〝調教師マキ〟ということ以外は、俺は何も知らない…。
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