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番外編62ひと夜咲く純白の花の願い
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………………………………。
マキが先生の家に着いて3時間が経った頃。
辺りは陽が沈み出し、冬の早い夜が訪れ始めていた。
マキは、まだ玄関に座り込んだままでいた。
玄関に入ってきたままの手荷物を持った状態でペタリと座り込み、ただボーっと床を眺めていた。
涙も乾いて…
枯れた涙の跡。
もう、何も出てこない。
ーボーンボーンボーンボーン
ふと、気がつくと。
振り子時計が4時の音を知らせる。
何も写していなかった瞳が、時計に視線を向けると、ガラスの反射で自分の姿が写っていることに気がついた。
情けない姿。
そんな自分を眺めながら、心の中で鼻で笑う。これは予想できた問題だ。分かってた上で〝側にいたい〟という自分の感情を優先させた結果だ。
こうなって当然。
振られて当然なんだ。
そんなことを考えていたら、自分の手に握っているものに目が止まった。
修二たちから借りた傘だ。
ああ…返さなきゃ…
思い立ち、ふらりと立ち上がる。
修二たちの家に向かうために再び外に出かけて行った。
陽の落ち始めた空気は冷え始め、冬の空はあっという間に闇夜を迎える。
??????????????????????????????????????????????
『おかけになった番号は電波が届かないか、電源が入っていないためかかりません』
電子的音声が繰り返す。
仕事がひと段落ついた百目鬼は、マキに電話したが、マキの携帯は繋がらず同じアナウンスを繰り返す。
昼間は修二の名前を出されて馬鹿みたいに反応してしまったと反省したが、マキの電話は繋がらなかった。
百目鬼「矢田」
矢田「はい!」
百目鬼「マキはなんか言ってたか?あいつ様子がおかしかったろ」
矢田「ッ…な、なんかってなんすか?何もないっすよ」
百目鬼「…。お前、なんでそんな挙動不審なんだ?なんかあったんだろ」
矢田「え!?ぃ…いえ!…なんかあったって程では…」
百目鬼「あったんだな」
ギロリと睨むと、矢田はブルッと震えた。
矢田「ぅ…」
百目鬼「言え」
矢田「うぅ…」
??????????????????????????????????????????????
時計が5時を過ぎた頃。
修二は、3人で同居しているマンションで晩御飯の準備をしていた。
同居を始めて半年、家事と大学の両立にも慣れてきて、少しづつ料理のレシピも増え、心の余裕も出てきていた。
ーピンポーン♪
インターホンが鳴り液晶を覗くと、玄関ホールが映し出され、インターホンを押した人物が映し出される。
修二「はーい、おかえり華南」
華南『悪りぃ、鍵会社に忘れた』
修二「ふふ、お疲れ様」
玄関ホールの鍵を解除すると、ドアが開いて華南がマンションの中に入る。あまりの冷え込みにマフラーで顔を埋め、白い息を吐きながらブルブル震える。
修二達の部屋は2階なので、玄関のホールを潜ってすくだ。
すぐに部屋の玄関の開く音がして、華南が帰ってきた。
華南「ただいまー!」
修二「おかえりー」
台所から修二の声が聞こえて、華南はカバンをリビングに放るとすぐに台所の中の修二に抱きついた。
修二「ちょっ!火使ってるんだよ」
華南「だってお迎えねぇーし」
修二「はいはい、シャワーしといで、手が冷たいよ」
引き剥がされて、華南は不満で口を尖らせながらリビングに戻る。
華南「むつの時は玄関で迎える癖に…」
修二「なんか言った?」
華南「あー!今晩はどんなプレイしようかなぁあー!」
修二「ッ!馬鹿だろ」
華南はケラケラ笑って風呂場に向かう。
修二は顔を真っ赤にしてその後ろ姿を睨んだ。
華南は残業がなければ5時に仕事が終わる、大学生の修二と時間帯はそう変わらない。
しかしむつは、全く逆の生活を送っている。
夕方5時出勤、朝の5時終わり、帰宅してからむつは晩御飯、修二と華南は朝ごはんを3人で囲み、7時には寝るという生活。
そして、今は昼間の仕事に転職しようとリンパマッサージの勉強を頑張っている。
修二は、むつからも華南と同じようにされている。帰ってきたらむつは修二に抱きつきキスを迫る。むつは生活スタイがズレているから休みの日しかイチャイチャ出来ない、華南と修二は毎日イチャイチャしてズルイと板挟みに合っていた。
修二はため息ついて、料理の火を止め次の支度に取り掛かろうとした。
ーカタン
どこかで小さな物音がした気がした。
音の方角は玄関。
だけどインターホンが鳴らない。
不審に思ってインターホンの画面で玄関前の様子を見て見たが、誰もいない。
ただ、廊下を誰かが歩いてるような音が聞こえた。
気になって玄関を開けてみる、が、やはり誰もいないし、廊下に人影もない。
ーコン
ドアを叩くような音に、ドアの後ろに目をやる。すると、外側のドアノブに傘が1本かかっていた。
その傘を見た瞬間、ハッとして辺りを見渡した。
修二「…マキ?」
数日前マキに貸した傘だ。
嫌な予感がして、足早に玄関のホールに向かったが誰もいない。
修二は上着も無く、冷え込みにブルッと身震いして嫌な予感ら強くなる。辺りには誰も居なくて、1度部屋に戻った。
家の中に入り携帯を掴んでマキに電話した。
『おかけになった番号は…』
電子的な声に何度かかけ直したが、携帯が繋がることは無い。
修二の嫌な予感は更に強くなるばかり。
携帯を握りしめたまま上着を引っ掴み外に飛び出した。
駅までの道をくまなく探す。だけどマキの姿はなくて携帯も繋がらない。
風呂上がりの華南から「どこいんの?」と心配の電話がかかってきて。マキと傘の事を話すと、泉さんに連絡してみようと言われ、すぐに泉さんに電話した。
泉『修二さん大丈夫ですよ。さっき本人から連絡がありましたから、携帯が壊れたそうです。後であなたが心配していたと連絡しておきますから』
泉さんにそう言われたけど、嫌な予感は消えない。
だって、今さっき玄関に居たはずなんだ。
なのに傘だけ置いていった。
何かあったんだ…
例の片思いの相手?
それとも別のこと?
玄関まで来てたのに…
どうして僕に会わずに帰ったの?
どうして携帯が繋がらない?
意図的なものを感じてならない。
マキは…
もしかしたら僕らを切ったんじゃないのか…
もしそうだとしたら…
マキは連絡してこないだろう…
なぁマキ!
何処にいる?
マキ!!
結局
マキが連絡してくることは無かった。
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