アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
蝉しぐれ
-
禅は、183㎝の大きな体で泉に迫り、眉を顰めて見下ろした。
禅「まだ?。ってことは、婚約するんだな」
泉「はい、美琴さんの意思を確認して、18になりましたら、そうなります」
静かに答えると、禅は拳を握りこみ吠える。
禅「お前!自分の意思ってもんは無いのか!」
その言葉に、泉は目を細めて冷ややかに言い放つ。
泉「私は、意志なく動いたことも無ければ、自分のすべきことを投げ出して逃げたこともありません」
禅「…、相変わらず説教くさいね、だが、いつからそんなになった、親の言いなりで後継いで、結婚まで…そんなのよくねぇーよ」
泉「お言葉は立派ですが、逆らって道を切り開くとおっしゃっておきながら、行き詰まってフラフラされてるのはどなたですか?」
禅「…俺は、俺の道を生きてるだけだ」
20歳になっても就職するわけでも無い彼に、泉は飽きれた眼差しを向ける。禅はその視線ともう一つの目線にイラついた。
禅「ところで?そいつはなんでいんの?」
気に食わないといった表情で、マキを睨んだ禅。
マキは、泉と禅のやり取りを、勉強机の椅子に体育座りしながら興味津々で眺めていた。
マキは、禅にギロリと睨まれてヘラっと笑う。
禅「相変わらずヘラヘラしやがって、お前は良いなぁ、悩みなんて無さそうでお気楽でさ」
禅の言葉に、マキは反応しなかったが、泉は僅かに視線を上げた。
マキは、外側から見たらヘラヘラしているだけに見えるが、その中身は非常に繊細だ。高2の夏に百目鬼さんに振られてからは、落ち込んでいて自暴自棄になってる。まぁ、それを知らない人間にしたら、気づきようがないくらい、マキは徹底して誤魔化している。
マキ「んふ♪禅さんは相変わらずサボテンみたいだね♪。悩みは尽きない?」
禅「お前と違って色々考えてるからな」
2人は以前から面識があり、普段はそこまで仲悪くないが、今は禅の機嫌がすこぶる悪い。
マキにはその理由も分かっていたから、禅に売られた喧嘩をヘラヘラスルーした。
いい加減泉が止めようとしたら、そこに、かすれ気味の幼い声がピシャリと響く。
「その辺にしたらどうですか?」
全員が、部屋の入り口を振り返ると、紺のブレザーの制服を着た男の子が立っていた。
線の細い男の子は禅とは正反対の印象で、内気そうで病弱そうな印象を受ける中学生。真っ黒な長めの前髪は顔を隠すように伸びていて、どちらかというと女の子っぽい顔をしていた。
泉「浄(きよい)さん」
神明浄(しんめいきよい)。神明家第三子次男、中学3年生。165㎝と低身長。幼さの残る彼は、線が細いが、中身はシッカリとしていて、兄である禅とは仲が悪い。
浄「久々に帰ったかと思ったら、泉の友達に八つ当たり?恥ずかしいですよ」
禅「チッ…」
禅は舌打ちして、泉の部屋から出た。去り際に、「婚約なんて認めねぇー」と吐き捨てて…。
空気の悪くなった部屋に、マキの明るい声が響いた。
マキ「浄ちゃん♪お久しぶり♪声変わり中なんだね♪おめでとう♪」
マキがヘラっと挨拶すると、浄はにこやかに
浄「ありがとうございます。…でもマキさん。ちゃん付けはやめてください、僕は男です」
浄は、漢らしくない自分の容姿を酷く嫌がっていて、〝小さい、可愛い、綺麗〟などの言葉は禁句。思春期真っ只中だ。
マキ「ふふ、大丈夫。浄は漢らしくなってきてるよ、前会った時より美味しそうだもん♪」
浄「ありがとうございます」
…おい、マキ…。
泉「お帰りなさい浄さん、僕に用事ですか?」
浄「…」
隣の本家から、わざわざ訪ねてきたのだから聞いたが、浄の話しも禅と同じだと察しはついていた。
浄は俯き、声変わりで掠れた声で言った。
浄「結婚…するの?」
泉「いずれは…。今年は婚約するだけですよ」
浄「…」
この婚約にはちょっとした狙いがある。
子供の頃から仲良しだった禅さんは、生まれた時から決まっている神託へのレールを嫌い、反抗していた。僕にも、再三親のいいなりになるなと言っていた。神明家は、奔放に生きる禅を刺激して、跡を継ぐようにする。という目的と、弟の浄への刺激を狙っていた。
許婚は風習で存在していた程度で、強制ではない。でも、僕は許婚として幼い頃から会っている彼女を将来の花嫁として見てきたし、彼女は聡明で凛としていて、申し分ない。そう思っていたので、今回、神明家のお願いを聞くことに決めていた。
神託こ巫がいなければ、僕の仕事は無くなる。
僕は、神明家の為の導火線になる。
だけど僕は、この事が別の導火線に火をつけることになるとは思いもしなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
569 / 1004