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〔裏番外〕狂愛♎︎純愛30
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杏子「ねぇ、檸檬、百目鬼さんなんかあったの?」
檸檬「俺に聞かれても分かんないよ」
事務所で仕事をしながら、檸檬が答えると、杏子は檸檬をじとっと見た。
杏子「だって、百目鬼さんと時々飲みに行くじゃない。2人でコソコソなに話してるの?」
杏子は百目鬼と2人で飲みに行ったことがない。それを知ってる檸檬は、得意げになった。
檸檬「大人の男の話だよ、女には関係ない話さ」
杏子「マキちゃんのことでしょ」
檸檬「へ?!」
サラッと当てられて声が裏返る。探偵見習いにしても正直すぎる反応に、杏子はため息を漏らしながら、改めて今日の百目鬼を見た。
杏子「にしても、今回は尋常じゃないんじゃない?」
檸檬「まぁ、なんていうか、100人くらい人を殺した殺人鬼みたいな顔してるね」
百目鬼「ゥオイ!!そこの2人!!聞こえるように噂話すんじゃねぇーよ!!」
噂話にしては、普通の音量で話すもんだから、狭い事務所内では完全に筒抜け。
というか、ワザとやってるこの兄弟に百目鬼は怒りの眼差しを向けて吠えた。
檸檬「百目鬼さん今日飲みに行きましょうよ」
百目鬼「いかねぇーよ!」
檸檬「またマキちゃんと喧嘩ですか?」
百目鬼「うっさい!関係ねぇーだろ!」
ビリビリとした声の振動、噴火寸前の火山のような百目鬼の脅威だが、こんな百目鬼の見た目に慣れきった2人は。まるで子供みたいな反応の百目鬼に、〝ご機嫌斜めだなぁ〟くらいにしかとらない杏子と檸檬。
そして矢田は、部屋の隅に縮こまり、百目鬼をこれ以上刺激しないように心がけている。気持ちだけは…
矢田「早く仲直りできるといいですね」
矢田の一言にギロッ睨みてけ、矢田は喉を引きつらせてデスクの下に隠れた。
ギリギリ歯ぎしりする百目鬼は、限界だったらしく、タバコを握りしめて事務所から出て行き、ドアが破壊されるんじゃないかくらいの勢いで閉められた。
杏子「もしかしてい…失恋?」
檸檬「え?」
杏子「見てれば分かるわよ」
檸檬「ですよね…、百目鬼さん随分分かりやすいもんな」
杏子「マキちゃん大丈夫かな…」
檸檬「え?百目鬼さんの心配じゃなくてマキちゃんの見方?でも、マキちゃんいつも涼しい顔してるじゃん。百目鬼さんはゾッコンって感じなのに」
杏子「…」
杏子が檸檬に冷ややかな視線を向け、その視線に檸檬がギョッとする。
杏子は呆れたように大きくため息ついた。
杏子「乙女心が分からないのね…」
檸檬「いやいや、マキちゃん男だし…」
杏子「あんたはそれじゃ一生立派な探偵になれないわよ」
檸檬「は?」
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イライラが収まらない。
マキと別れりゃマシになるかと思っていたのに、ちっとも良くならない。
気持ちを落ち着かせようと車に乗り込み走らせたが、ますます訳が分からなくなる。
結局、飲み込んだ気持ちの分だけ重くなる。
ぶちまけりゃ良かったと思いながら、でも、素直にぶまちまけるなど出来ない。必ず罵声が混ざってしまう。
どおしてこんなに汚い言葉しか吐けないんだと思っても、自分の生きてきた道のりが、普通とは違うからで…。
毎日喧嘩したあの頃、やりたい放題やってることになんの疑問も抱かなかった。性癖に対する憤りも、怒りも、全部拳に変えてきた。コンクリートの壁を素手で壊して歩くような日々だった。
だけど、マキは、全身ガラス細工みたいで、触れれば傷つけてしまいそうだった…。
俺はどおすれば良かった?
どおすれば上手くできた?
自問自答を繰り返したところで答えは出ない。
普通を知らない俺には、やはり普通になど出来ないのだろうか?
適当に走らせたが車は、いつの間にか土手の近くに来ていた。悩み事があると、フラッと立ち寄った土手。
そして、奏一との思い出の場所。奏一もまた、悩み事があると土手でジッと川を眺めていた。だからいつしかお互いの複雑な家庭について話したりした。
まだ、誰も襲うことのなかった俺が、唯一出来た優しい時間。
奏一とは、また仕事で会う。それまでにこのぐちゃぐちゃとした汚い気持ちをなんとかしなければならない。
別にどうこうはならないけど、奏一は鋭いやつだ。恋愛においては多少アレなところもあるが、今は店を守るオーナーだ。そうやって立派にやってる奏一の前に、こんな疲れた顔で行くわけにはいかない。
瀧本が、もう一度大々的に動けば、必ずとっ捕まえてやれる。
だが、瀧本もバカじゃない。そう簡単に動くとは思えない。
長期戦になれば、それだけリスクが増える。
いつまでマキや修二の耳に入らないようにできるかも分からない。
これは勝負をかけるべきだろうか?
実は、瀧本が利用したボディーガードの会社に、昔の知り合いがいた。
だが、顔見知りなだけで、俺の味方になってくれるとは限らない。
その人が動けば、かなり影響力のあるポジションにいた。
だが、ヤクザ上がりに恩を作れば悪用される可能性もある、奏一やマキの安全を守りたいなら借りを作り危険を残せば本末転倒だ。
思い出の川を眺めながら、決断を迫られた。
ふと気がつくと、助手席の足元にマダラトビエイが落ちていた。
今は2つになったマダラトビエイの片割れが、車の揺れで落ちてしまったようだ。
拾い上げると、腹側にある口がニィーっと笑ってるように見えた。
百目鬼「ヘラヘラしやがって、お前もマキと同じだな」
呆れたようにそう言っても、ぬいぐるみの口元は変わらない。吸ってるタバコの煙をワザと吹き付ける意地悪をしても、むせることもなく口角を上げてニッコリ微笑むその口に、百目鬼は呆れた。
百目鬼「ヘラヘラじゃなくて、もっと自然な笑顔が見たかったのによ…。お前のご主人はお前みたいに作り笑顔貼り付けて笑ってるんだぜ。この縫った口元みたいによ」
グニっとぬいぐるみの口元を思いっきりつまんで仕返ししても、ぬいぐるみが痛がるわけもない。
百目鬼「チキショウ…」
そう言いながら、マダラトビエイを仲間のところに戻して並べてやった。
ニコニコと仲睦まじい姿に目を細め、タバコを吸う。
百目鬼「お前らは良いよな…」
ずっと笑顔で…
ずっと一緒に居られるなんてよ…
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