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起‐3
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「……てコトがあってさ」
帰宅して夕食を摂りながら、及川は赤葦の一件を話題にする。
テーブルの向かいには一緒に棲んでいる『恋人』が
激辛の麻婆豆腐を美味そうに口に運んでいる。
「ふーん………。ん、旨い、この麻婆!うま!」
「……いかにも辛そうなんだけど、ソレ。見てるだけでお尻がヒリヒリしてくるよ」
「お前の分はちゃんと甘口にしてやったじゃん。
第一、お前にオレの尻の心配されたくねーよ」
「……デスヨネ」
及川と同郷で同じ年の『恋人』菅原孝史は、尚も麻婆豆腐を頬張りながら、
「それにしても、デカデカと載ったもんだな」
と、感心したように言い、及川が買ってきた週刊誌に視線を落とす。
「いまいち、ピンと来ないんだけどね」
及川も釣られてグラビアページを覗き込む。
「最近、活躍が著しいからなー。狙われてたのかもな」
「だけど、よくケイジーの目を盗んで」
食事を終えた及川が、湯呑みに茶を注ぐ。
「あ、オレにもお茶くれ……サンキュ。
だから、赤葦はショックなんだろ?」
菅原が茶をすすりながら及川に尋ねる。
「本人に自覚はないようだったけど、かなり取り乱してる感じ」
「うーん。でも案外、明日になったらケロッとして、また木兎の世話を焼くんじゃね?」
いつも、そうだべ?と湯呑み越しに及川に目で伝える。
「だと良いんだけど……今日オレがぼっくんをけなした時に、ちょっといつもと違う感じがしたんだよね」
及川が赤葦との会話を思い返して言う。
「違う感じ、とは?」
菅原が微かに眉を寄せて聞く。
「うん。オレがぼっくんのコトをさ、………」
及川が赤葦に向かって木兎のことを悪し様に言った時、赤葦は「そうですね」と静かに言ったきりだった。
それを聞いた菅原は、眉間の皺を深める。
「いつもと違うよな?」
「うん。いつもならさ、」
普段の赤葦なら、血相を変えて反論してくる。
曰く、「そんなコトありません!木兎さんは、がさつなんじゃなくてワイルドなんです。デリカシーがない?細かいコトを気にしないんですよ!
でも繊細なトコロもあって、そのギャップがまた良いんです。声が大きくて疲れる?まさか。逆に元気を貰ってます。付け上がる?あのね、及川さん。オレは木兎さんに余計なコトで思い煩って欲しくないんです。オレが好きでやってるんですから。もっと付け上がって欲しいくらいですよ?
でもね、あのヒトはいつもオレを労ってくれるんです。本当に優しい人なんですよ!
何たってオレが惚れ込んだエースですもん、
ずっとずっと跳んでいて欲しいんです!」
等々、自分が木兎に対して怒っていたことなど、すっかり忘れたかのように、いかに木兎が素晴らしいか、を、嬉しそうに照れながら話し続けるのだが。
「……大丈夫かな」
菅原が心配そうに言う。
「分かんない」
及川が小さく息を吐き、
「赤葦くんも厄介なヤツに惚れたもんだよ」
と続ける。
「だな」
菅原が及川の顔を見て表情を和らげ、
「オレはお前に口説いてもらって良かった」
と笑う。
「スガちゃん!」
テーブルに乗り出し、顔を近づける及川に、
「おい、ちょっ、サカるな!……こら!さっさと風呂に入ってこい!」
と、菅原が制す。
「もー、スガちゃん!後で続きスルからね!」
ぷ、と頬を膨らませる及川を愛おしげに見て、
「はいはい」
と菅原は微笑む。
気をよくして浴室に向かった及川を見送り、夕食の片付けをしようと席を立つ菅原は、今一度、雑誌に目を落とし、おや、という顔をする。
そして、それにしても、と口の中で呟き、赤葦も一途だよな、と長きに渡る赤葦の片想いを案じて眉を下げる。
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