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起‐5~side赤葦
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昔、というほど昔じゃないよな、と赤葦は週刊誌を睨みながら思う。
確か4~5年前、及川さんが代表に選ばれて、試合にも出るようになった頃。まずルックスで注目されたっけ。
人によって好みはあるだろうが、一般的には所謂イケメンで、勿論 背は高く、インタビューでの受け答えも爽やかで、マスコミですぐに話題になった。
……確か、既に菅原さんと付き合っていた筈。
恋愛もバレーも充実しているようで、あの頃の及川さんは本当に眩しい存在だった。オーラが違う、というか、スターの資質というか。
バレーボールの全日本を背負って立つ新世代の旗手現る、と期待を煽る扱いだった。
そんな時に。スクープされた。
連ドラの主役をいくつもこなし、TVCMでもお馴染みの女優と。
深夜の密会、とかいって。
隠れ家的なバーで2人きり。
お互い熱く見つめ合って。手を握りあって3時間余り。
美男美女のビッグカップル誕生か、と好意的には報じられた。
結構、騒がれたよな、と赤葦は思い返す。
及川さんが行く所、誰かしら付いて来て隙あらばコメントを取ろうとして。
相手の女優は、少し年上だったせいか、余裕があるようで、どこか面白がっていたようにも見えた。
思わせ振りなコメントを発表して、2人は付き合っていて結婚も考えてる、と世間に信じさせたいように消極的にアピールしたから、きっと多くの人は鵜呑みにしただろう。
……オレ達を除いて。
オレ達……菅原さんの存在を知っていた奴らは皆、でっち上げのスキャンダルだと天から疑わなかった。
……だって、空気が違うんだ。
全日本然、としている及川さんと、菅原さんと一緒に居る時の及川さんと、では。
スガちゃん、と呼ぶ声の甘さ。
菅原さんを見る時の瞳の柔らかさ。
寄り添う時の温かさ。
コート上でギラギラと、しかし冷静に相手を威嚇する時とも違うし、マスコミやファンの前でニコニコと、一見爽やかそうに振る舞う芝居掛かった感じとも違って。
菅原さんの前で、素を晒け出している及川さんは、微笑ましくて。
スクープされた写真の、如何にも及川徹という澄ました顔は、『営業用』であることに気づいたのは
オレだけじゃないだろう。
その女優が。
今日、木兎さんと一緒に、グラビアを飾っている。
2人で寄り添って歩いている写真。
木兎さんは前を向いて笑っている。
その横に、その女優が。
あろうことか、木兎さんの腕に自分の腕を滑り込ませて。
木兎さんを見上げて微笑んでいる。
その2人の、……木兎さんの笑顔が眩しくて……女優の微笑みが優しくて、……お似合いの2人だ、と思ってしまいそうな、……。
そんな自分が嫌で、思わず語気が荒くなった。
昼間、木兎さんに真偽を尋ねた時。
チームの練習が終わった後、ミーティングルームに1人で居た木兎さんを見つけて。
聞かずにいられなかった。
「木兎さん!」
呼び掛けた時の木兎さんの瞳の色に、吸い込まれそうだと思った。
自分を捕らえて真っ直ぐに見つめてくる、邪気のない瞳。
ああ、好きだ、と場違いな感情に支配され、自分の愚かさに呆れて唇を噛んだ。
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