アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
起‐6
-
「これは、どういう事ですか」
赤葦は部屋に入るなり、手にしていた週刊誌を机の上に叩きつけた。
「あかあし……?」
普段あまり見ることのない赤葦の様子に、木兎は呆気に取られた。
「どうした?何かあったのか?」
怪訝に思い、赤葦を見つめる。いつもと違う理由を、その瞳に問い質すように、強く視線を送る。
「どうしたも、こうしたも……!この写真は、どういう事なのか教えて下さい」
「写真?」
木兎は、ページが開いたまま叩きつけられた週刊誌を覗き込む。
「ああ、コレのことか!何か載せますよ、とか
聞かれたけど何のことか分からなかったんだよなー。……ふーん。よく撮れてんなー」
木兎がまじまじと写真を眺める。
「……っ、ほ、本当のこと、なんですね……?」
「? 何が」
「こ、ここに書いてあること……っ」
「えー?書いてあるコト?……ふーん」
木兎が記事に目を通して思案顔になる。
「どうなんですかっ?」
赤葦が切羽詰まった様子で尋ねる。
「……何で、おまえ、そんなに必死になってんの?
食事したトコを撮られただけじゃん?しかもコレって、」
「食事!したんですね?!オレの目を盗んで!」
木兎の言葉を遮って、赤葦が感情的に声を荒げる。
「第一その日は、記事になってるその日は、練習は半日で午後は筋トレしてマッサージ受けて寝る、っつって、オレを半日オフにした日ですよね?!……オレを追っ払って……こんなヒトと!っ、デートだった訳ですか!」
「覚えてないしー。あかーしの記憶、怖いわ。お前がそう言うなら、そうなんだろうけども!だけど、こんなヒト、って言い方は、」
「木兎さんに関することは粗方アタマに入ってますし、記録もしてあります。そうじゃなきゃアンタ滅茶苦茶やるでしょ?!体調もスケジュールもオレがちゃんと管理してるから、アンタだって、」
「管理?」
赤葦の言葉尻を捕らえて、木兎が眉を寄せる。
「管理してますよ!でなきゃ、朝だって起きられないでしょ!毎日の予定だってオレ任せだし、木兎さんはオレが居なきゃ何にも出来ないでしょ?
そんな必要不可欠とも言うべき存在のオレを欺いて……オレの知らないトコロで、……っ」
赤葦は、込み上げてきた感情……信頼、尊敬、思慕、といった木兎に対する全ての想いが一気に押し寄せ言葉に詰まる。それは所謂、愛だ、と思い知らされ、泣きそうな眼で木兎を見つめた。
木兎は眉を寄せたまま、赤葦の視線を受け止め、しかし、そこに潜む赤葦の感情の全てには気付けず、ふ、と息を吐いた。
「そっか。悪かったな。あかーしとは長い付き合いだから、つい甘えてたな。そんなにお前に負担を掛けてたとは、な」
「……木兎さん……?」
赤葦の声が不安で揺れる。
まるで、木兎の口から恐ろしい宣言がなされてしまうのではないか、という不安。
「自分のコトは自分でやるからさ!よく考えたら、あかーしはチームの大事なスタッフで、オレ専任のマネージャーって訳じゃないもんな!や、実質、そーだった訳だけど、オレに振り回されりゃ迷惑だよな!」
「木兎さん……オレはそんなことを言ってるんじゃ……」
赤葦が弱々しく頭を振る。
「ま、何とかなるだろ!明日っからオレのことは放っといてイイからな!」
木兎があっけらかんと言い放つと、
「木兎さん!」
と、すがるように赤葦が叫ぶ。
「いいか、赤葦」
木兎の声色が変わる。
「オレは確かにお前が居なきゃメチャクチャやるのかも知れない。でもな、オレの全てを誰かに管理されるなんて、オレは嫌なんだよ」
「オレは、アンタのスケジュールの管理をっ、」
赤葦の声が悲愴に響く。
「プライベートも、スケジュールの一部だ。そこまで踏み込んで欲しくない」
「だって、……オレは……っ」
「お前が何でこんなに過剰に反応すんのか分かんねぇ。ゴシップだって初めてじゃねーじゃん?」
「オレが知らないなんて初めてですよ!」
「だから!お前に全てを知らせなきゃならない理由が分からねぇ」
「それは、……オレが、アンタを……っ」
好きだからです誰にも渡したくないからです、と喉元まで出た言葉を、赤葦は辛うじて呑み込む。
誰にも知られたくない想い……特に木兎には決して知られてはいけない。
恋愛は女のヒトとするもの、と天から疑わずに信じている木兎にとって、赤葦が木兎に対して抱く感情は理解の範囲を越えているだろうし、嫌悪感すら生じさせるかも知れない。
(好かれなくてもいい……ただ、嫌われるのだけは嫌だ)
だから、 “管理” してきたんだ。
木兎の好きなもの嫌いなもの全て、把握出来るように。そして赤葦自身が ”好きなもの“ の中に入り込めるように。
(それなのに……)
「赤葦がオレを、……何だよ?掌握してなきゃ不満、てか?」
木兎が、気分を害されたのを隠さずに言う。
「……掌握、て、……アンタ、そんな言葉、知ってたんですね……」
赤葦が意外そうにポツリと言う。
「ひでーな!」
木兎が憤慨したように声を上げる。
「論点がズレてきてます。木兎さん、結局のところ、この記事の内容は真実なんですか?」
赤葦の言葉に、木兎は、む、と口をつぐみ今一度グラビアに目を遣る。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 35