アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
起‐7
-
「全部が嘘、という訳ではない」
しばらくの沈黙の後、木兎が告げる。
「……っ!!」
否定の言葉が返ってくるものと思っていた赤葦の顔色が変わる。
「……分かりました」
押し殺した声を出し、赤葦が俯く。
「や、ちょっと待て、あかーし!まだ色々言えねーんだって!」
赤葦の反応に、木兎は声を上げる。
「……言えない、って、それは、真実だと認めることと、何が違うんですか?大体、オレにも言えない。って、どういう事ですか?!」
「敵を欺くにはまず味方から、って言うだろ?」
木兎が、良い例えを見つけた、というように胸を張る。
「敵とか味方とか、何が言いたいのか全く分かりませんが、オレを信頼してないことだけはハッキリ分かりました。……もう、無理です。あなたの為に動ける気がしません……今まで窮屈な思いをさせてしまってスミマセンでした。……明日から1人で頑張って下さい……!」
赤葦は、混乱する自分を何とか律しようと、抑揚もつけず早口で一気にそう告げて、逃げるように部屋を出た。
「おい、赤葦!」
言い方を間違えたか、と少し慌てた木兎は声を掛けるが、拒絶するような背中と、八つ当たりのように閉められたドアの音の大きさに閉口して、
「何だよ、あの態度……!」
と、頬を膨らます。
そして、雑誌を丸めてバッグに突っ込み、部屋を後にする。
夕暮れの風に吹かれ、木兎は大股でスタスタと歩く。歩く内に頭の中が整理されていく。今までと、これからと。
明日の朝は、赤葦からモーニングコールが来ることはないだろう、と木兎は諦める。
ま、ちゃんとアラームで起きてはいるんだけどね。
朝から赤葦の真面目な声を聞くと、何となくシャン!とする、というか。スイッチが入る、というか。あいつが掛けてくるから、オレも受けてた。
朝飯を用意しに来ることもあるし。
オレ、愛されてるよな。
色んな人に色んな愛を貰ってる。
それで、今の自分がある。
全日本のエース、と認めてもらっている。
でもまだ足りないんだ。
木兎は、ふと足を止めて空を仰ぐ。
明日の朝飯に何かあったかな、と冷蔵庫の中身を頭に思い浮かべる。
タマゴ、チーズ、確かハムもあったよなー?あ、ベーコンだっけか……?どっちでも良いや。ミニトマトもあった筈。よゆーの朝メシじゃん。問題なし。
あかーしが居なくても、ダイジョブ!
そう。赤葦が居なくても、大きな問題は生じない。
だが、木兎は信じて疑わない。赤葦が自分を見限ることは無い、と。
少しヘソが曲がっただけだろ。
その内、色々片付くさ。
鼻歌混じりに空の雲を目で追う。
そして、空が続いている先に思いを馳せる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 35