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転‐2
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「あの、菅原さん……!」
木兎のことを思い出した反動で、赤葦が声を出す。
「んー?ケーキ、お代わりする?」
菅原がのんびりと答える。
「え……?や、そうじゃなくて、……あの、菅原さん!」
「何だよ?」
「あの、……及川さんがスクープされた時……その、……」
「あー。同じヒトだよな、木兎と!」
菅原が面白そうに言う。
「、そうなんですけど、…その時、菅原さんは怒りましたか……?」
言ってから赤葦は、あっ、と口を手で押さえる。
「あ、いや、スミマセン、変なコト聞いて……忘れて下さい……!」
柄にもなく、赤葦が慌てたように手を動かす。
そんな様子を見た菅原は、瞳を和らげて、
「めちゃくちゃ腹立った」
と、低い声で唸る。
「?!」
あまりの声の迫力に、赤葦が一瞬怯む。
「だってさ!あいつから口説いてきたクセにさ!
実業団やら全日本やらで放ったらかしにされた~と思ってたら、あんなキレイなヒトとスクープされやがって……!」
菅原が捲し立てる。
「そんなにキレイですかね、あのヒト?」
赤葦が刺のある声で言う。
「だって、テレビに出まくってるじゃん。ウソ臭い笑顔で」
菅原が鼻を鳴らす。
「最近、シワが目立ちますよね」
赤葦が負けじと粗を探す。
「そろそろミニスカは、キツイよなー」
「オレ、あのヒトの脚じゃ萌えません。細過ぎて……胸だってツクリモノ臭いし」
赤葦の辛辣さに、菅原はニヤリと唇を歪める。
「お前、言うねー!」
「菅原さんこそ」
2人は、共犯者のように顔を合わせてクスクスと笑う。
「まあ、それで……とにかくハラワタが煮えくり返って逆に何も言えなかったよ。……言えば自分が惨めになりそうで。いつの間にか、オレの方が入れ込んでたんかな、とか。及川のコト、知ろうとしなかったのかな、とか。……アイツの顔を見つめる事しか出来なかった」
菅原が、アイスコーヒーの氷をストローで揺らしながら言う。
「菅原さん……」
赤葦が菅原の横顔を見つめる。
「それなのに、アイツときたら!やたら口数は多いのに、キモになることは言いやしないで。段々、馬鹿にされてんじゃねーか、と思えてさ、つい、ケンカに……」
「ケンカになったんですか?」
赤葦が意外そうに聞く。
「ケンカ、っていうか……ちょっと手が出ただけだよ」
菅原はバツが悪そうに舌を出して首を竦める。
「まさか、及川さんを殴ったんですか?菅原さん、勇気ありますね!」
赤葦が目を丸くして尋ねる。
全日本の代表選手に手を上げるとは大胆な、と心の内で舌を巻く。
「うはは。すかさず押し倒されたけどなー」
菅原が照れ隠しに笑う。
ああ、そうか。
及川さんと菅原さんは、そういうコトが許される関係なんだ。
問題の本質が解決しない前でも、仲を繕うことは出来る。情に訴えて、なし崩し的に無かったことにすることも出来る。
……オレと木兎さんとの関係とは決定的に違う。
赤葦は密かに絶望し、唇を噛み締める。
恨み言を言わないように。これ以上、愚痴をこぼし過ぎないように。
「……お前、今、スケベなコト考えたべ?」
菅原が見透かしたように言う。
「え……?いえ、そんなコトは……」
赤葦が消極的に否定する。
「ま、仕方ねーな。間違ってる訳じゃないしな」
「あ、間違ってナイんですね」
「るせ。でもな、そういうやり方は間違ってる、とオレは思う。
話をするべき時は、ちゃんと話さなきゃいけないんだ。
アイツの言葉が足りなかったのか、オレが頑なだったのか。……色々と言い連ねていたけど、もっとコトバが必要だったのかも知れないし、逆に、オレの気持ちが硬くなり過ぎて、アタマから否定して、ヤツを受け付けようとしなかったからかも知れないけど……その後、本当の真実が分かって納得はしたものの……オレの、あの時の感情は置いてきぼりにされて、……普段は何処かに隠れてるんだけど、随分 薄くはなってるんだけど……何かの拍子に、ふい、と顔を出すんだよな」
菅原が、アイスコーヒーの氷を更にストローで突つきながら淡々と告げて赤葦の顔を見る。
「もしかして……今回の木兎さんの件が……?」
赤葦が思い付いて言葉を漏らす。
「裏切られた感、て消せねーよな」
菅原が儚く笑い、木兎の件を及川から知らされた日のことを、頭の片隅で思い出す。
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