アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
転‐4(菅原の長い回想その2)
-
「いたっ」
及川が慌てて唇を離す。
「何すんのさ?!」
戸惑いと怒りを顕にして菅原を睨む。
と、及川以上の怒りで形相が変わった菅原が、強く睨み返してくる。
「……っ」
気圧されした及川が息を呑む。
「帰れ」
菅原が押し殺した声を出す。
「スガちゃん……」
「うるせえ。帰れ!」
及川の呼び掛けに聞く耳を持たず、菅原が声を荒げる。
「ごめ」
「もういい!謝るだけならもういらねえ!きちんと説明出来るまで、オレの前に現れるな!」
菅原が、ありったけの怒りを眼に込めて及川を見る。歯をギリリと噛み締め、見つめ過ぎる瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。
「説明……」
及川がオウム返しに呟く。
「そうだべ?!スクープされた経緯とか、一緒に写ってるヒトとどんな仲なのか、とか!どれだけオレを……裏切ってたのか、とか、説明することは沢山あるべ?!」
「……ごめん。写真が出ちゃって、オレも混乱してて……言えることと、まだ言えないことと整理出来てなくて……ただ、あの写真を撮られた時は、彼女と2人きりじゃなくて、他の人も一緒にご飯食べてたし、オレはスガちゃんを裏切ったりしてない、ってことだけは断言出来る」
及川が苦しそうに弁解する。
「言えないこと、って何だよ?オレに言えないこと、てのは、つまり」
菅原の声が震える。
「そうじゃないよ、スガちゃん。……スガちゃんだって仕事のことをいちいちオレに言わないでしょ?
言えないこともあるでしょ?そういうことだよ」
及川が苦しそうに言う。
「……しごと?」
「ごめん、今はアタマ働かなくて……これ以上は、ちょっと……」
「……お前、何しに来たんだよ?」
菅原の声はまだ怒っている。
「スガちゃんを傷つけたと思って……居ても立ってもいられなくて……」
及川が泣きそうな瞳を菅原に向ける。
自分の方が傷ついたような顔しやがって……!
菅原が唇を歪める。
同時に、自分こそが及川を傷つけているのかも知れない、という思いに囚われた。
怒っていいのはオレの筈なのに……何故、罪悪感が生じる?
言葉を探して黙る菅原を、及川が抱き締める。
「……ごめん。……君が感じる不快な感情は、全部オレのせいだね……オレに対する不満も全部、引き受けるから……少しだけ、時間をちょうだい」
及川がすがるような声を出す。
「……ずるい」
菅原がポツリと言う。
「分かってる………ごめん」
及川が、抱く腕に力を込める。
少し震えている腕に気づいた菅原は、理由も根拠もなく、『負けた』と思った。
何に対する敗北なのかすら定かではないのに、敗北感が胸に広がり、諦めが取って換わる。
そして、怒っていた感情だけが宙に浮き、それは、いつしか小さなしこりに変わっていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 35