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結‐5
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「あー。ホントに行っちゃったんだなー」
「スガちゃん、それ言うの、何度め?てか、もう、ひと月にもなるじゃん」
「だってさー。こんなニュース見ちゃうとさー」
菅原がリモコンを振り回して及川に言う。
TV画面には、イタリアのチームで試合出場を果たした木兎の姿が、映っている。
「体格、負けてないなー。すげー跳んでるなー」
菅原が感心したように言う。
「チームにも溶け込んでるみたいだね」
チームメイトとハイタッチを交わす木兎を見て、及川が言う。
「日常会話レベルの語学力があったのは、意外だった」
「……ああ見えて結構、努力家なんだよね、ぼっくんは」
「才能だけじゃない、ってことか」
切り替わった画面から目を離し、菅原が言う。
「才能、センス、努力、それに、運。そういうモノがないと、世界じゃ戦えないのかもね」
及川の言葉がどことなく自虐的に聞こえ、菅原は、まじまじとその顔を見る。
「お前に足りなかったのは、…………何だろうな?」
と、問い掛ける。
「………また蒸し返すの?」
ムッとしたように、及川が言う。
「いやー。……世界レベルのイケメンなのか知りたかったなー、なんて」
とぼけたように菅原が笑う。
それを見た及川が、毒気を抜かれたように
「まったく、キミって……」
と苦笑する。
「何だかんだ言って、赤葦も付いて行ったし」
菅原がソファーに近づき、及川の横に腰を下ろす。
「出発する時……嬉しそうだったよね。無表情だったけど」
菅原が座り易いように、腰をずらして及川が言う。
「そうそう。無表情なんだけど分かりやすいんだよなぁ、あいつ」
菅原が笑いながら、
「木兎にバレバレだったんだって?」
と続ける。
「らしいね。まあ、選手としてのぼっくんに惚れ込んでる、って認識らしいけど」
「……赤葦の希望的観測?」
「かもね。でも、どうだろ?ぼっくんに男同士のレンアイって概念、あるのかな?」
「そこからだとすると……大変だなー。……だけど、あれだけ必要とされてるってなりゃ、冥利に尽きるべ」
「……まるで、ご自分が必要とされてないような、おっしゃり方で」
及川が菅原の顔を覗き込んで言う。
「………必要とされてますでしょうか?」
菅原が及川の瞳を捕らえて、問い直す。
「勿論ですとも!」
及川が微笑んで菅原の肩を抱く。
「オレのせいで、……諦めたりしてることは、」
「ありません」
及川が言下に否定する。
「全く、この間から。何の負い目を感じてるのか知らないけれど。キミのせいで出来ないことなんて無いし、もしあったとしても、キミを巻き込んで実現させるつもりなんだから。……そのつもりで居てよね!」
「及川……」
菅原が及川の肩に頭を乗せ、
「そう言われると足を引っ張ってやりたくなるのは、何でだろな?」
と、憎まれ口を叩いてから、
「ありがとな」
と、はにかむ。
「こちらこそ」
及川は答えて、菅原の髪に触れる。
自分の手からすり抜けて行った未来を叶えた木兎に、羨望の気持ちがない訳ではない。
そんな微かな苛立ちが知らずと面に出て、菅原に気づかれているのか。
オレも、まだまだだね
及川は、ふ、と口元を緩め、肩に感じる菅原の重さを愛おしむ。
そして、自分の全存在を懸けても手放したくない恋人が居る幸せを噛みしめる。
これだけは、ぼっくんが逆立ちしたって敵わないんだからねー、今のところ
と、内心、舌を出し、異国で活躍する仲間を鼓舞するように、微笑みを広げていった。
おしまい
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