アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
水のかえかた(1)
-
誠と知り合ったのは大学生の時だ。
友達に連れられて行った新歓コンパで出会い意気投合し、いつのまにかルームシェアすることになっていた。就職先も近かったためそのまま一緒に住んでいた。
本当は就職のタイミングで解消していてもよかった。それが遅くなっただけ。それだけのことだ。
「津島くん、元気ないね。大丈夫?」
「えっ…?」
実験の合間の休み時間、ぼーっとしていたら同じチームの加藤さんに心配されてしまった。
「すみません、大丈夫です。実は最近同居人が家を出て行って…ちょっと、気になってただけです」
「そっかぁ。けんかでもしちゃったの?」
「けんかっていうか、まあ…色々と」
「そうかそうかぁ。それは飲んで忘れるしかないね」
「行きませんよ」
「…えっ?!まだ誘ってないんだけど」
「誘うんでしょ?行きません」
「えー!飲もうよ!飲み会しようよ!するよ!はい参加決定ね!」
「ええ…」
加藤さんは何かにつけて飲み会をしたがる。しかもザルだから、気をつけていないと潰される。そしてお持ち帰りされてしまう。
影でこっそりハイエナと呼ばれている。
「じ、じゃあ、沢口も呼びましょう」
「ん?いいよいいよ!みんなでパーっと飲もう!」
沢口がいれば、たとえ潰されてもアパートまで送ってくれる…はずだ。
巻き込んで悪いけど、一緒に乗り切ろうじゃないか!
心の中でそう呼びかけると、心の中の沢口は大いにうなずいてくれた。さすが沢口。頼りになる男。
「その調子!元気出して、頑張ろうね!」
勝手に何やら勘違いをして、加藤さんは笑顔で僕の背中をたたいた。
加藤さん…悪い人ではないんだけども。
結局仕事後に3人で飲むことになった。巻き込んでしまってごめん!と目線で謝ると、沢口はにやっと笑ってくれた。いいやつだ。
「津島くん、同居人の子はどうして出て行っちゃったの?」
話題は早速、誠のことになった。うーん…どう言ったものか。
「えーと…よくわからないんですよ。誠とはっきりケンカしたわけではないんですけど」
「誠くんっていうんだ?」
「あ、そうです。沢口とも、知り合いで」
「俺ら同じアパートなんですよー。しかも隣の部屋。別に怒鳴り声とかは聞こえなかったな」
「だから、ケンカしたんじゃないからな」
誠とケンカしたことなんて、一度もないかもしれない。あいつは怒らないから。我慢してるというわけでもなく、ただ本当に腹が立たないらしい。
「大学の頃からルームシェアしてるんだっけ?」
「ああ」
「へー!そうなんだ!仲良しだね!」
「まあ…そうですね。友達です」
加藤さんは首を傾げた。
「原因がわからないなら…事件に巻き込まれたりとかはしてないのかな?警察とか実家とか、連絡してみた?」
「いや、さすがに警察は…。一応書き置きもあったので。実家は連絡先知らないんですよ。誠、実家のことあまり話してくれなかったので」
「そっかー心配だね。ほら飲んで!」
「どうしてそうなるんですか」
「飲んで!飲んじゃって!」
加藤さんがジョッキに並々と注がれたビールを差し出してきた。
「あー……もらいます…」
「津島、大丈夫?酒弱いのに」
「大丈夫だよ」
ジョッキを持ち上げ、一気に飲み干した。
体がかーっと熱くなり、脳を直接揺さぶられているような感覚がする。
「おい、本当に大丈夫か?」
沢口の心配そうな顔がぼんやりと見える。
「へーきへーき。お前もいるし…」
酔って、倒れて、目が覚めたら誠と出会う前に戻ってないかな。
そしたら、俺は…
「かとーさん、もう一杯ください」
「はい!どうぞ!」
「津島!」
2杯目のビールも一気に飲むと、望みどおり、俺は意識を失った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 25