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なまずのこころ(2)
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まことは変なヤツだった。一人暮らしで話し相手がいないわけでもないのに、毎日ペットのなまずに話しかけるのだ。
「ただいま〜。元気にしてた?見て!今日はおいしそうな唐揚げ売ってたから買ってきちゃった〜」
「そろそろ水槽掃除しなきゃね!俺、水槽の壁の汚れ磨くの好きなんだ〜」
まことはいつも楽しそうで、見ているとなんだか俺までふわふわした気持ちになってくる。
そしてまことは、同居人のつしまと話している時、よりいっそう楽しそうな顔をしている。
どういう関係なのかはわからんが、まことはつしまのことが好きなんだろうな、となんとなく思っていた。
しかしそんなある日、まことが初めて暗い顔をして帰ってきた。
「ただいまー…」
まことは床に座り、俺をぼんやりと眺めている。
一体何があったんだろう?早くいつもみたいに話してほしい。
まことはやがて、かばんから一枚の写真を取り出した。着物を着た女の人が写っている。
「…いつか、こういう日が来るってわかってたんだけど」
まことは目をぎゅっとつむり、写真の角を握りしめている。
「どうして男に生まれたんだろう」
まことがぽつりとつぶやいた。
どうして男に生まれたのか。
それは昨日のテレビで見た気がする。
生物は遺伝子というものを持っていて、Y染色体が…
「俺さ、体は男だけど、心はそうじゃないんだ」
…ん?
「だからこんな…政略結婚なんてしたくない。本当は、つしまのお嫁さんになりたいんだ」
知らなかった。まことは今まで自分の気持ちを、物言わぬペットにも隠し続けてきたのか?
「ねえ、つしまに話したら、受け入れてくれるかな?俺のことたすけてくれるかな?」
まことは涙に濡れた目で俺を見つめている。
まこととつしまが、楽しく暮らしているのを見るのが好きだった。家族でも恋人でもないけど、お互い助け合って、毎日を幸せに過ごしているのが伝わってきていたから。
だけど今の俺は、何もできない。ただのなまずだから。まことを助けることも、なぐさめることすらできない。
まことは次の日、家を出て行った。
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