アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
新着メールの通知を開くと、それは珍しく父親からだった。ただ単に、とても短く簡潔な文章。
“来週の催しで、お前を城島の跡取りとして正式に発表する”
返信なんていらない。いつも一方的で、いつも強引だった。
後継になる事は、まだ躊躇いがあった。だが城島はもう大学を卒業する為、いつまでも逃げてばかりはいられない。
父親の敷いたレールの上を、結局自分は歩いてゆくのだと悔しかった。何をやっても駄目だったのだから、それなら頼りなくても、従者達に支えられながらも家を継ぐのが無難だと、誰しもが言う。
それでいいのか、と思う自分も、城島の中にはいた。
「太史、最近やけに大人しいよな」
「何が?」
城島は今、大学の図書館で卒論に励んでいる。
仕上げた直後の友人が、全く進んでいない目の前の城島に向かって言う。ノートパソコンと向かい合い表情が重たい城島は、キーボードを打つ手が止まっていた。
今の彼が考えることといえば、家で自分の帰りを待っているであろう嫁のことだ。今何をしているのか、何を考えているのか。
気になってたまらないのは、恐らく、番になる運命の相手だから——・・・
だと、思いたいけれど。
「嫁をもらってまあるくなった、よな」
「はあ?なんだそれ。半強制的にだよ、てか笑うな」
図書館、と言っても学生の出入りが多くとても賑わっている。そんな中でのじゃれ合いなんて、どこでも目に入るような当たり前の光景だった。
城島は思考を止めたまま、パソコンのディスプレイに映る白紙の論文を見つめる。
——何だか、今日は妙にやる気が出ない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 31