アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ひねくれ者の、日常
-
「伊澄、それ違うぞ」
「あ、」
静かな喫茶店のキッチンで
店長に盛りつけのミスを指摘される。
今までしたこともないミスだった。
「……すいません」
「お前大丈夫か?なんか心ここに在らずって感じだぜー?」
「あー、すみません」
謝れって意味じゃねーんだけどなあ、と苦笑いされる。
間延びした喋り方をする店長の所為か
いつの間にか強ばっていた肩の力が抜ける。
「悩みか?おじさんが相談に乗ってやろうか〜?」
店長はなんというかいい意味で変わっている人だ。
独特な雰囲気を持ち、めんどくさいと言いつつ
何かと世話を焼いてくれる。
本人に言ったら調子に乗りそうだから
あまり言いたくはないが
昔からこの人にはお世話になっている。
ここで働き始めてから何年も経っているためか、
それとも店長の人柄故か、
この居心地の良さにはつい甘えてしまう。
「ゆ、うじんの話なんですけど、」
「友人、ねえ?」
引っかかる反芻は無視して
そのまま話を続ける。
「大学の食堂、しかも昼時の人が多い時間帯に大きな声で告白してくる馬鹿ってなんですかね」
「ほ〜う?告白されたんか!」
「だから友人の話ですって」
「はいはい、んで?その友人はどうしたんだよ」
「いや、どうしたって……それは、」
昼間のキラキラした瞳を思い出した。
眩しい綺麗な瞳
そんな目で
俺を見ないでくれ
、
「一目惚れしました、俺と付き合ってください!」
「……は?」
名前も知らない初めて見る男
自分の頭じゃ理解できないこの状況に
俺は現実逃避することが正しいと決めた。
いやいや、なんだこれ
逃げるが勝ちって言うしな
めんどくさい
はあ、と溜息を吐きイヤホンを耳に戻す。
「だから、一目惚れしました!って、聞いてくださいよ!」
「おいおいおいおい、翔太お前何してんの!?」
もう一人のアホそうな奴が日替わり定食の乗ったお盆を
ガチャガチャと音を立てて駆け寄ってくる。
あ、味噌汁零れた。
視界の端に映ったどうでもいい事を考えて現実逃避
つーか二人とも声がでかい
「いや、何って告白」
「そっかー、告白か〜!ってそうじゃねーよ、バカ!」
「はは、佐伯にだけは言われたくない」
「うっわ、すっげー傷ついた……」
なんだコイツら
わざわざ俺の前でコントでもしに来たのか?
面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。
封を開けたおにぎりを急いで口の中に押し込み
もうひとつは食べずに鞄の中へ
テーブルが汚れていないかだけ確認し
直ぐに席を立った。
「あ!ちょっと待ってくださいよ!えっと…………美人な人!」
大声で呼び止められるがそんなもん無視だ。
なんだ美人な人ってアホか
男に美人もクソも無いだろ
迷惑極まりないミルクティー色の大声のせいで
なんだなんだとまた野次馬が集まりこちらを見る。
こんな公衆の面前で、どんな公開処刑だよ。
まだ何か言い合ってる声を
先程より大きくしたイヤホンの音で遮断し
俺は逃げるように足早でその場を後にした。
陽の光で反射したアイツの綺麗な瞳だけが忘れられない
イライラする。
、
「あー、無視して帰りました。」
「いや、鬼か!」
事細かに説明するのも面倒くさくなり
簡潔に一言でそう言えば
何故か鬼を見るような目で引いた顔をされる。
「え、なに?じゃあその告白してきた子ほっぽって帰ったのか!?」
「いや、まあ、そうですけど」
「この鬼!悪魔!鬼畜野郎!お前の血は本当に赤色か〜〜〜!!!」
「逆に公衆の面前で告白って頭おかしすぎでしょ」
「そこは作戦的なやつなんだろーよ」
「それなら尚更タチが悪い」
こんなに大声で話してて大丈夫なのだろうか
まあ店長の店だし本人が気にしないならいいけれど
ホールの方から村前さんの店長仕事して!という声が聞こえた。
「なんで俺だけ……」
注意されて口を尖らせるアラフォー
声に出ていたらしく
すかさず「三十八はまだアラフォーじゃないですぅ」と
店長はまた口を尖らせた。
まあ可愛くはない
しかし、いつも思うがどっからどう見ても
店長は二十代にしか見えない
上に見ても三十代
確かに反応とかは結構オヤジ臭いけれど
この人に幼少期とかあったのだろうか?
なんて他のことに意識を巡らせても
結局頭に思い起こされるのは昼間の出来事
「はあ……」
勝手に出た溜息に更に気分は落ちる。
ほんと、最悪だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 302