アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-
ガラガラガラ___
音を立て引き戸開け暖簾をくぐり店の外へ出る。
六月には似つかないカラッとした空気が漂い
持っていた煙草に火をつけ空を仰いだ。
もう肌寒いという季節は過ぎ夏の準備に入っているこの時期と
酒を飲んだ後の今は七分丈でも少し暑く感じる。
フーと腹の中に収まっていた紫煙を吐き出した。
まだ中では小森のマリちゃん自慢が続いている。
小森の話によると短大を卒業して既に会社勤めしているらしい
気を使えて可愛くて自慢の彼女だと何ともだらしのない顔で言われた。
羨ましい、とは思はない
けれどきっとこういうのが一般的な普通の恋愛っていうやつなのだろう
酒を飲んでいるせいか、聞こえる賑やかな声を一人で聞いているせいか
どうしても考えたくないことを考えてしまう
もしも、俺が普通だったならこんなこと考えることも無いのか
もしもなんて考えたって仕方の無いことだってわかっている。
それでも考えしまうのだから救えない
スー、とまた煙を吸い込むと肺いっぱい煙草独特の香りと甘みが染み渡る感覚
これもいつからだっけ
初めはあの人の香りを求めて
慣れない煙に噎せ込んだりもした。
いつからなくてはならなくなったんだっけ
眠れないとき当然のように縋るようになったんだっけ
問いばかりが頭に浮かんで答えは返ってこない
短くなった煙草の灰が風に吹かれて空に消えていく
俺の考えも感情も何もかもこの灰みたいに吹かれてしまえばいいのにと何度思ったことか。
そう物思いに耽っていると背中の方でガラガラと戸の開く音がした。
「伊澄さん大丈夫?一服とは言ってたけどちょっと遅いから見に来ちゃった」
暖簾を手で掻き分けその間からひょこっと顔を出す
俺よりも幾分か身長の高い男
聞かれたことに答えず
ただ無言でその瞳を見つめているとわたわたと焦り始める金井
「え、もしかしてほんとに気分悪い?大丈夫??」
心配を顔に出す金井問いには答えずに逆に質問で返す。
「佐伯と小森は?」
「ん?二人とももう落ち着いてきたらそろそろお開きにするかーって」
すぐに返ってくる返事に
安心とも違う暖かい色が心に広がるのを感じる。
「わかった」
そう答えて短くなった煙草を最後に一口吸い灰皿スタンドに落とした。
金井のいる方とは逆方向に吐き出した紫煙は
夜の黒に紛れて消えていった。
と、
「今日、楽しくなかった?」
唐突に不安気な表情をして聞いてくる金井
普段は不安とかそういうのは見せない奴だから酔っているのかと思ったけれど、顔色を伺う限り全く酔っているようには見えない。
「なんで」
「特に体調悪いわけじゃないみたいだから単純につまんなかったのかなあ、って」
本当にこいつの表情はコロコロと変わる。
笑っていたかと思えば急に真剣な顔になったり
焦っていたかと思えば不安でいっぱいという顔をする。
そういう素直に自分を出されるとどうしたらいいかわからなくなる。
俺は素直とは程遠い性格をしてるのは自負してる。
それが自衛のためだってことも
だから、素直で良い奴って言うのが単純に怖い
初めて会った時もそうだった。
真っ直ぐなキラキラした瞳で俺を見つめて馬鹿みたいなことを言う。
罰ゲームか嫌がらせだと思っていたが
本当はただ真っ直ぐで自分に正直なこいつが怖かっただけだ。
怖いから遠ざけたい
俺は自分にないものを持ってる者を
羨ましいと思うだけではなく怖いと思う。
得体がしれないのは怖い
だから他の奴と同じを目指すし普通になりたいとも思う。
みんな違ってみんないいなんて呪いの言葉だ。
みんなは違いを嫌う、違うやつに居場所なんてない
だから普通がいい。
教えられたからだけじゃない
そうすれば、もう、怖くないからだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 302