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黙ったままの俺を本当に心配そうに見つめる金井
怖い、か
そうか、俺は金井が怖かったのか
嫌ではなく怖い
自分とは違うこいつが
少しバカでアホだけど俺よりも普通であるこいつが
怖いのか。
嫌ではなかったのか。
ストンっと胸に落ちた怖いという言葉に
どこか納得する自分がいた。
「……楽しかった。ともだち、と飯食うなんて久し振りだったから」
「!!!」
形にすることが慣れない友達という言葉に少し恥ずかしさを感じる。
でもちゃんと言葉にしたいと思ったから
恥ずかしくてもスラスラ言えなくても
それでも伝えたいと思った。
俺の言葉を聞いた金井はわかりやすく嬉しそうな顔をする。
ぱあと周りに花が咲くようにふわふわと笑う
「またいつでも食べに行こ!俺でよかったらいつでも行くから!!」
それも悪くないな
怖いのにそれと同じくらい知りたいという気持ち
こいつならもしかして
なんて期待持つだけ無駄なことを知っている。
それでも、期待してしまう
俺はもう一度ちゃんとやり直せるんじゃないかって
引かれたレールの上を仕方なく歩くのではなく
自分で考えて歩んでみてもいいのかなって
金井について、少しの間だが一緒にいて分かったことはある。
こいつは良い奴だ。
素直で純粋。
あほだけど。
だからこいつの周りにも必然的に人は集まってくる。
そんなやつの隣にいられたら俺も
普通に過ごせるんじゃないかなって
そんなはず、ないのにな
「伊澄?」
別に今じゃなくてもよかったはずなのに
どうしてこのタイミングなのだろう
「……っ」
「?」
何度も忘れようとして忘れられなかった。
甘すぎない落ち着いた俺を呼ぶ声
地元からさほど離れていないこの場所なら会う可能性はある。
それでも、いまじゃなくていいじゃないか
今までなかったならもう出会わなくてよかっただろ
「せん、せい」
「…久しぶり」
何度も呼んだ名前は呼べなかった。
後ろめたい時とか緊張している時
視線を下げて目元を掻く癖は変わってないんだな
気づきたくないのに
思い出は今でもこの胸に残っていた。
暗がりで色まではハッキリわからないけれど
昔と変わらないスーツ姿に目頭が熱くなる。
四年が経っていた。
俺にとってしんどくてしんどくて
ずっと前にも進めず目を逸らしてきた四年間
やっと前を向けそうだったんだ。
進もうと思えてきたんだ。
思考が纏まらない
忘れたわけじゃない
この人に言われたこともされたことも
でも、それでも俺は……
お互い無言の中、熱を持った骨張った男の手が俺のに重なる。
「あー、伊澄さん体調悪いみたいなんでちょっと連れてきますね」
「え?あ、そうだったの?」
「はい!そういうことなんで!!!」
驚き上擦った声を漏らす"先生"を他所に
金井は言い終わるや否やグイッと俺の腕を引き店の中へ
ではなくそのまま大通りの方へ早足気味に連れていかれる。
俺は俯いて何も言えず引っ張られるまま
何処に行くのかもわからず金井に着いて行くことしかできなかった。
少し視線をあげるとふわりと揺れるミルクティー色の髪が見えた。
暗くてもここにいると主張するように揺れる髪を見て
俺は何故か無性に泣きたくなった。
現実を突きつけられるくらいなら
初めから期待なんて持ちたくなかった。
お前と出会ってから俺はおかしくなったんだ。
もう夢なんて見たくもない
期待なんてしたくもない
責任転嫁も甚だしいと言われるかもしれない
それでも、誰かのせいにしていないとだめなんだ。
あの日、お前の曇りのない澄んだ瞳を目にした時から
『一目惚れしました、俺と付き合ってください!』
光が目の前をちらついて離れない。
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