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二葉さんを避け始めてからしばらく経っていた。
梅雨入りした空はどんよりと重たい雲を乗せて
心まで憂鬱に染め上げていきそうだった。
自分の行動を後悔したのはこれで二回目だ。
興味半分に彼に近づき本気になって逃げたのが一回目
二回目は、授業が終わって帰ろうとしていた時に鳴った着信を知らせる機械的な音
『翔太?悪いけど今すぐ西棟渡り廊下前の教室に来て。説明してる暇無いからとにかく早く』
いつもの落ち着いた雰囲気をまったく持っていない
切羽詰まったような小森の声
その声に驚きつつも何かあったことは明白で
俺は急いで指定された廊下に向かった。
そしてそこに居たのは小森と
ぐったりと身体は項垂れて意識がない二葉さんだった。
、
「睡眠不足ね、そんなに心配しなくても寝てれば大丈夫よ」
あの後すぐに小森と二人で保健室に二葉さんを運んだ。
ぐったりとしたその身体は
体重を全部預けられてるにしてはとても軽かった。
あとは任せて、と二人して保健室を追い出される。
なんとなく帰る気にもなれず
少し離れた椅子で二葉さんが起きるのを待とうと考えている。
と、
「お前、どういうつもりなの」
「ん?」
至極真面目な面持ちで小森が俺を見る。
小森が俺を翔太、と名前で呼ばれずお前呼ばわりする時は
だいたい本気の説教だ。
「どうって」
「どうせ、興味本位で近づいてみたら本気になってどうしたらいいかわからず逃げ出したってのがいいオチだろうけどさ。振り回されてる奴の身にもなってみろよ」
痛いところをつかれる。
何もかもお見通しだとでもいうような冷ややかな視線に何も言えず
ただ続く言葉を待った。
「理由くらい話すのが筋ってもんじゃないの?何もわからず避けられるだけじゃ不安にもなるでしょ。お前は良くも悪くも人を惹きつける奴だけどさ、さすがに二葉見てると可哀想になってくるよ」
「珍しく人の肩を持つね」
「ま、お前がもうどうでもいいって言うなら俺が貰うし」
「は!?」
真面目な顔してたと思ったらニヤッと口元を歪め
突拍子も無いことを言ってみせる友人に驚きを隠せない
急に何言ってんの!?
「いやいやいやいや、お前には大好きで仕方ないなマリちゃんがいるだろ!?」
「別にそういう意味じゃないけど。マリはきっと俺と二葉が絡んでたら喜ぶと思うし」
「あ」
「知ってるだろ?なんか男同士で話してるの見てるだけで創作意欲?ってのが沸くらしい」
「え、あぁ、そう、だったね?」
あの美人で物腰柔らかそうなお姉さん
基、小森の年上彼女マリちゃんの豹変っぷりを思い出した。
女の子ってほんとすごい
女の子ってよりマリちゃんの切り替えがすごいだけかもしれないけど
「とにかく、俺も二葉のこと気に入ってるしこのままお前のせいで俺らの仲まで悪くしたらマジで容赦しないからな」
「お前はいつも痛いところを突いてくるね」
「周りがお前に甘いから俺くらいはビシッと言ってやらないとな」
伊達に中学の頃から腐れ縁やってないからな
と最後にはいつもの胡散臭い爽やかな笑顔に戻っていた。
みんな小森と言う奴の評価を爽やか好青年と捉えがちだが
そんなもの嘘だ。
実際は俺にだけ厳しく俺にだけ辛辣な外面好青年だ。
けれどどこか吹っ切れたのも事実だった。
いつも俺がうじうじしたりするとこうやって背中をめちゃくちゃな力で叩いてくれる小森に少なからず感謝はしてる。
「ごめん、ありがとう」
「じゃ、俺はこれからデートだから」
俺の嫌々出した声を聞くとフッと笑みを零し去っていく。
一人になった廊下で想うのはもちろん二葉さんのこと
素直なのが取り柄なのにこんなことで臆病になってられないか
小さな後悔はあとに回せば回すほど大きくなることを俺は知ってる。
ちゃんと向き合わなきゃな。
静かな廊下で俺は一人
想い人を待った。
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