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どれくらい経ったのかわからない
太陽が傾き始めた頃
待人来たる、なんてね
声をかければ困惑した色を残して何も言わない二葉さん
いざ本人を目の前にすると考えていた言葉はなにも出てこなかった。
何も言わず前を通り過ぎようとする二葉さんの細い腕を掴む。
こんな時にって思うかもしれないけれど
その肌に触れられたことで心臓は騒ぎ出した。
離せ、嫌だの押し問答を繰り返した末
関係ないと言われてしまえば俺は何も言えなくなる。
逃げていたのも自分、避けていたのも自分
自分勝手が引き起こしたことだとしてもやっぱり関係ないって言葉は胸に刺さる。
迷惑だ、振り回すな、言葉が心の深い部分を抉っていく。
全部俺のせいだけど
それでも俺はもっと近づきたい、話したい
本当に自分勝手だと苦笑もでないけれどごめんね二葉さん
きっともう自覚しちゃったから離せない
一気に捲し立てた二葉さんの荒い息の音だけがする中
必死な姿も可愛いなと場違いなことを思ってしまいバレないよう顔を伏せる。
そのまま掴んでいた腕を思いっきり自分の方に引いて
同じ男にしては細い身体を両の腕の中に閉じ込めた。
すっぽりと覆われた身体はそうあるべきとでもいうように
ピッタリとはまって安心を覚えた。
二葉さんがじたばたと暴れる度に頬を掠めるさらりとした黒髪が擽ったい
布越しに感じる温かさに酷く心地良さを抱いたと同時に
自分の体温が急激に上がっていくのを感じる。
どくどくと叫ぶ心臓は嬉しさと恥ずかしさで破裂しそうだ。
下から覗き込まれるように交じ合う視線に顔が熱くなる。
俺、いま絶対顔真っ赤だ…
その証拠に
「お前……は?」
俺の頬の色が写ったかのように
二葉さんの頬がどんどん熱を持ち赤くなっていく。
あ、可愛い
タイミングがいいのか悪いのか
微妙な空気は機械的な音に遮られ俺たちの間に距離が生まれる。
離れていく温もりを名残惜しく思うも電話には適わないので仕方なく手を離す。
電話が終わって冷静さを取り戻した二葉さんの提案に甘え
もう一度ちゃんと話し合いたいと写真サークルの部室棟にまで連れていった。
少し緩んだ空気にほっとする。
けれど二葉さんは入ったばかりの部室から早々に退散しようとする。
気まづいのはわかるし
俺のわがままだから止める術は本当はない
でも、一言だけでいいんだ。
俺が言いたいことはもう決まっていたから
だから、努めて冷静に伝えようとする。
けれど心臓は激しさを増すばかりでなかなか言葉は出てこない。
うるさいぞ俺の心臓!
いつもはもっと静かだろ!
自分に言い聞かせフゥーっと息を吐き勢いよく顔を上げる。
今まで告白してくれた子達はこんな思いだったのかな
「俺、二葉さんのことが本気でっ、」
好きです。
伝えようとした言葉は細くて白い女の子みたいに柔らかい手
ではなく、痩せて骨ばった男の手で塞ぎこまれた。
どうしてという意味を込めて名前を呼ぼうとするが
だまれと言われれば俺は黙ってしまう
ふと、視界に映ったのは写真を破り捨てた時と同じ
いまにも泣き出してしまいそうな顔をした二葉さんだった。
なんで
聞かなかったのは二葉さんなのに
どうして二葉さんの方がそんなに泣きそうな顔してるの?
どうしたのと聞いても子供がするみたいに
いやいやと首を振るばかりで何も言ってくれない
泣きそうな顔が俺のせいなのかと思うと
心臓のもっと奥の方がズキンと痛み出した。
理由は分からないけれど
二葉さんの嫌がることはできない
散々強引にしてきたとことは、まあ愛嬌として許して欲しい!
パンっ
と手を打ち二葉さんを安心させるように笑顔で伝える。
「そんな顔してないでよ。別に困らせたくて言ってるわけじゃないからさ。仕方ない!今回はやめといてあげます!」
あからさまにホッとした顔をした二葉さんに
ちょっとだけ意地悪をしたくなる。
けれどそれも我慢
いや、ちょっとくらいいいかな?
俺の気持ちを聞けないことに少しでも後ろめたさがあるならつけ込んでもいいよね?
俺はね、そんな聖人君主みたいに良い奴じゃないから
やっぱり意地悪もしたくなっちゃうんだよ。
「自己紹介をしましょう!」
何度目かわからないごめんねを心の中で呟いて
二葉さんの逃げ道を塞ぐ。
その日、俺は二葉さんの秘密を垣間見たと同時に
綺麗なあなたに似合う澄んだ名前を知った。
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