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変な言い訳を付けて写真のモデルまでしてもらえて
嬉しいことこの上ない状況を作れた。
そりゃもちろん、自分の気持ちを伝えられないことに
胃はムカムカするみたいな感じがする。
けど俺にとってはまた話せて、しかも一緒にいられるっていうご褒美付きだから気にしないことにした。
ふと、視界が陰る。
「あ、わり。目にかかってたから邪魔かと思って」
こんな風に無防備に触れられたりしなければ!
ぜんっぜん問題ないんだけどね!?
伊澄さんと一緒にいてわかったこと。
初めは近づくなオーラをビンビンに立たせてるけれど
ある程度の関係を築ければそのパーソナルスペースはぐんっと狭くなる。
俺の行動にビクビクしてたのなんて嘘のように自分からこうやって見えない壁を超えてくる。
その度に今度は俺がビクビクしてる。
自分から触れれば抑えが効かなくなりそうで
でもまた前みたいに逃げるのは伊澄さんを傷つけることってわかったからしないし出来ない
ポロッと好きって言葉が溢れ出ちゃいそうになるのを必死に耐えること
それか、
「俺、そんなに我慢得意じゃないから早く俺の話聞いてね」
なんて言って相手の反応を伺うことしか出来ない
伊澄さんは優しいからきっといつかは俺の話を聞いてくれると思う。
現に今の状況はやっぱりちょっと後ろめたさがあるみたいで
その話を出すとあまり強い言葉を返してくることはない。
それを利用して伊澄さんに近づこうとする俺は
たぶんずるい奴、なんだろうな
それでも、今はこのままでいい
伊澄さんが聞きたくないって言うなら俺は待つし
伊澄さんが聞いてくれるなら直ぐにでも伝える。
伊澄さんが抱えてるものはわからないけれどきっと俺じゃダメなんだと思う。
そう思ったのは居酒屋に行った時のこと
伊澄さんが年上ってのにも驚いたけどもっと驚いたのはその後
一服すると言って少し遅いから見に行った先に見つけたのは
いつもよりも大人っぽく見える伊澄さん
綺麗な口元に咥えた煙草が妖艶さを際立たせていた。
ずっと見ていたいと思ったその姿
本当に綺麗だった。
ただひとつの仕草
何気ない嗜み
誰でも行いそうで誰でもじゃなくて
あなたじゃなきゃダメだと思う瞬間
そういう自分の中の特別を垣間見た瞬間だった。
それに楽しかったなんて言われたら堪らなくなる。
触れようと手を伸ばすと
「伊澄?」
見かけたことの無い30代くらいの男の人
うわ、いけめん。
それに……
「せん、せい」
まただ。
またあの顔
泣きそうな顔
そして、震える言葉に含んだ甘さ
そんな声
俺は知らない
気づいたらよくわからない理由で伊澄さんの手を引っ張って歩き出していた。
握った手が妙に熱くて
さっきの伊澄さんの顔が頭から離れない
嬉しい気持ちを、泣きそうな気持ちを耐える。
そんな表情
とにかくどこか近場で静かな場所と思って
真っ先に通い慣れた学校に向かう。
部室棟に着いても心ここに在らずな伊澄さん
不安そうに揺れる瞳は俺を写すことは無かった。
それが悔しくて
「伊澄さん…」
何度も呼びかけた。
明らかに大丈夫じゃないのに
そうとしか聞けない自分に腹が立つ
堰を切ったように溢れ出た綺麗な雫
泣き方を知らないみたいにただただ溢れたそれに困惑してるみたいだった。
そっと頭に触れて自分の方へ引き寄せる。
何も聞くことが出来ない俺は代わりに大丈夫の意味を込めて
子供をあやすみたいにポンポンっと頭を撫でることしか出来なかった。
「……っ」
嗚咽を漏らしながら必死に声は出すまいと俺の服を握る伊澄さん
こんな時にと怒られるかもしれないが可愛いと思ってしまう俺は酷いやつだ。
強かで綺麗な伊澄さん
ねえ、なんで泣いてるの
さっきの人は誰
あんな声で呼んでずるい
先生ってなに
聞きたいことは山ほどあるけど形にはしない、できない
ふと、居酒屋に置き去りにしてきた佐伯と小森のことを思い出しながら腕の中にいるいつもよりも小さく感じる温もりを
ぎゅっと抱きしめた。
ねえ、泣かないでよ
顔をあげない愛しいあなたへ心の中で呟いた。
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