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ひねくれ者の、再会
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耳を澄ませば聞こえるトクトクという心地よいリズムに
だんだんと心も落ち着いてくる。
鼻をすすればズッという間抜けな音だけが返事をする。
包み込むように回された腕は温かく
そして我に変えると何をしているんだろうと羞恥心で死にたくなった。
いや、本当に何をしてるんだ
一度冷静になってしまえばこれ以上にないほどの熱で頭がやられそうになる。
動揺してされるがままに抱きしめられ、しかも、人前で泣く
失態も失態だ、よりにもよってこいつの前で……!!
だんだんと今の状況がハッキリしていくにつれてどうやって逃げようか
考えるが頭は既にショート寸前でまるで役に立ちそうにない。
そんな俺の心境を知ってか知らずか名残惜しいというように
先ほどより少し強めに抱きしめられ、温かい拘束は解かれた。
視線を少しあげれば決してのぞき込むまいと眉間にシワを寄せ耐えるように不細工な面をした金井が明後日の方向を向いている。
その顔に不覚にも笑みが零れた。
それに気づいた金井が遠慮がちに視線を合わせ困ったように笑う
さっきまでの不安や戸惑いが嘘のように消えてることに気づき
見て見ぬふりして何か言われるのを待つ。
こいつのことだからどうしたとか泣かないでとか言うのかと思ったら俺の予想は外れた。
「佐伯と小森置いてきちゃったね、怒られるな〜!明日もし怒られたら伊澄さんも一緒に怒られてね」
笑顔でそんなことを言われたら拍子抜けだ。
予想と違いすぎて、俺も自分からこんなことを言ってしまう
「何も聞かないのか」
言ったあとにこれではまるで聞いて欲しくて言ってるみたいじゃないかと後悔する。
やっぱりまだ酔ってるんだ。
視線を逸らし鼻を啜りながら自分に言い聞かせた。
「俺じゃダメだから」
頭上で小さくこぼれる声は聞き取れず
視線をあげれば俺のがうつったかのような泣きそうな顔
すぐにいつもの金井に戻るが見間違いでは無いはずだ。
どうしたと形にしようとするが声で遮られる。
「伊澄さんが聞いて欲しいなら聞くよ〜?こーんなに目も腫らしちゃって……可愛い!」
揶揄うような笑みを浮かべた金井を見て
俺はその優しい嘘に甘えた。
本当は、ここで甘えるべきじゃないんだろう
前に進みたいと思うのなら話してみるのも一つの手だ。
でも話して、偽物じゃないものを見せたとして
また拒絶されたら俺はきっとそれこそ耐えられない
だから、俺はいつものように悪態をつくしかない
「……あほか」
「へへ、にしても勢い余ってここまで来ちゃったけどあいつら金あるのかな〜」
「割引券とかあるみたいだし大丈夫じゃないのか?」
「あー、伊澄さん他人事だと思ってんでしょ!ちゃんと明日一緒に怒られてよね!?」
「わかったから大声出すな」
「ごめんごめん」
「....」
「……」
人工的な蛍光灯の明かりとぎこちない空気に息が詰まる。
今までこいつと何話してたっけ
慣れない空気に精一杯頭を働かせるがなかなか出てこない話題に舌打ちがしたくなった。
そんな俺の様子を見てふはっと金井が声を出して笑った。
また頬に熱が集まる。
人の気も知らねえで……!
「ごめんごめん、そんな睨まないで」
肩を震わせてごめんなんて言われても説得力がない
「あんまり不安そうな顔してるから面白くて、つい」
ふふっとまだ笑っている金井に抗議の視線を送るがまったくもって意味をなさなかった
代わりにごめんね、ともう一度呟かれ頭を撫でられる。
ふつふつと湧き上がる怒りに気まづさとか少しの申し訳なさとか全部忘れて
「やめろ馬鹿犬!」
俺の怒りとあははっと声を上げて笑う金井の笑い声が
深夜の部室棟に響いた。
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