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ハルとの約束の日まで
俺はバイトと学校を行き来するだけの生活を送っていた。
普段の生活に集中することで幾分か緊張は和らいだ。
あれから、学内で金井を見かけることはあっても
俺から話しかけたりすることはなかった。
それは、あいつも同じで
目が合って少し見つめられても何も言葉は交わさずに逸らす。
出会った頃は話しかけられることを鬱陶しく思っていた。
ただその生活に慣れ、それが無くなり避けられた途端
今度は自分でも理解できないほどの怒りが湧いた。
しかし今は違う。
今までは俺のそばに駆けてくる金井しか知らなかったけれど
冷静にはたから眺めてみると新しく気づくこともある。
金井はやはり一般的に見て人気者という立ち位置で間違いはないのだろう。
いつも金井の隣には男女問わず色々なヤツがいた。
派手そうなやつも大人しそうなやつも金井と話す時は楽しそうにしている。
人を惹きつけるヤツだとは思ってはいたけれど
これほどまでとは思ってもいなかった。
学内の喫煙ルームからその姿を眺めている。
と、
ぱちり
視線が交わった。
笑うでもなく顔を逸らすでもなく
ただお互い無言でじっと数秒見つめ合った。
既にあれから二日経ち金曜日
たった二日間で何度も繰り返したこの行為
俺は無意識に金井を探してる。
そして見つければその姿を目で追ってしまう。
二、三日会わないことなんて今まで何度もあって
そもそも学部が違うのだから機会を作らない限り会わないのが普通だ。
なのにそれが耐えられない。
少しでも金井の顔を見れると胸は暖かくなる。
俺はこの感覚を知っている。
友人に注意されたのかへらっと笑って金井の視線は逸らされた。
「…」
すぐに暖かかった胸は冷えていく。
金井の一挙一動にここまで心が動かされるのかと
自分に呆れはするが不思議と悪い気はしなかった。
、
「伊澄、これ五番な」
「はい」
ホールは少し涼しめに冷房がつけられているが厨房と行き来して動いてるせいで熱は増すばかり
腕まくりをして暑さを紛らわせる。
「お待たせしました、こちら______ 」
常連の多くで埋められる店内はさほど混んでるとは言えないが
少人数で回している所為か慌ただしい空気が醸し出される。
店が閉まる時間まであと少し
奥の方でお客さんと楽しそうに談笑する村前さんの声が聞こえた。
、
「お疲れ様で〜す」
「あーい、お疲れ」
今日は用事があるから、と珍しく直ぐに帰る村前さん
高めの位置で結われた髪がふわっと揺れるのを見て
柔らかいミルクティー色の頭を思い出した。
店内には俺と店長だけ。
どうしようかと少しだけ悩んで
酒を煽りつつ自分の料理を自画自賛している店長に声をかける。
「仁さん、一応報告…というか」
「んー?」
バイト中は公私混同を避けて呼ばないけれど
今は誰もいないので普段通り店長の名前を呼ぶ。
「明後日、ハルと会ってきます」
「へえ〜…って、は!?何で!?おま、は!?!?」
一度は流されたものの、バッと音が鳴りそうなほど勢いよくこちらを向き
珍しくの本気で焦ってる仁さん
「…俺もちゃんと前に進まなきゃと思って」
「無理矢理とかじゃないんだな?」
言葉にするとどこか気恥ずかしさを覚えた。
けれど決心が揺らぐことはなかった。
「もちろん。俺から連絡したし」
「そうか…」
仁さんはもう一度そうか、とだけ言って俺の頭を不器用に撫でた。
髪の毛がぐしゃぐしゃにされるのも気にせず俺は身を任せる。
仁さんには本当に迷惑をかけた。
そして、たくさん助けられた。
不器用でめんどくさがり屋な人だけど
本当は面倒みが良い尊敬している大人だ。
本当に感謝してる。
俺は自分の世界はずっと独りきりだと思っていた。
でもそれは間違いで
たくさんの人に助けられていたんだなって
あいつのおかげで気づけた。
ミルクティー色のふわふわ頭をした、犬っぽい誰かさんのおかげで。
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