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ひねくれ者の、好きな人
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今すぐにでも会いたくて駅までの間にスマホを操作する。
そこで、気がついた。
俺は金井の連絡先も知らない
さっきまで浮かれていた気持ちが急激に冷めていく。
軽かった足取りはだんだんと重くなり
往来の激しい道の真ん中で足を止めてしまう
突然止まった俺に燻げな視線が突きつけられるが気にしてる余裕はなかった。
そしてふと頭を過る考えに俺の気分は更に沈んでいく。
本当はこんなこと無駄なんじゃないか?
俺がやった事は結局全部俺の自己満に過ぎなくて
金井だって別にそこまでを望んでないかもしれない
現に気持ちを伝えたいとは言われたけれど
その先を望んでいるかだなんてわからない
そもそも、その気持ちだってその時限りの感情かもしれないじゃないか
こうなりたい、だとか考えているのかもわからない
俺だけが浮かれて、一人突っ走ってしまっただけなんじゃないか…?
途端、不安に染まる心に頭はきっとそうなんだと思い込みまで始める。
そもそも男同士で普通はどうなりたいとかないだろ
俺は普通じゃないからあれこれ考えてしまうけれどあいつは違う。
普通より少し周りに好かれやすくて普通に良い奴で普通の男だ。
俺と同じで違う、男だ。
ここ最近、何を考えるてもいつの間にか金井のことを思い出していて
今までずっと片時も離れずにいたわけではないのに
むしろ、一緒にいる時間なんて少ない。
それなのに、金井を見つけると嬉しくて心のもっと内側が満たされていた。
信じる、というのは俺には難しいことで
信じた結果全てなくなる辛さを知ってる。
痛みも、知ってる。
待ってろなんて言っても
本当は不安で仕方なかった。
待ってる保証がどこにある。
次の瞬間には心が変わっているかも
悪い方へ悪い方へと沈む思考はからまって解けなくなる。
、
どうやってここまで来たのかわからない
気づいたら爺さんの店の前まで来ていた。
何も変わらない、昔からの俺の逃げ場所
ここに来たらなぜだか金井に会える気がした。
会いたくて
でも、会いたくなくて
シャッターは固く閉ざされており今日は店自体やっていないようだった。
そういえば、今日は日曜日か
しばらく来ていない間に定休日のことをすっかり忘れていたが、
ここの休みは日曜日だったな。
会えなかったことを残念に思う自分と
会わずにすんだことにほっとする自分がいて嫌気がさす。
大人しく帰ろうと踵を返した時
真っ直ぐな道の先に見覚えのあるシルエットを見つけた。
「伊澄さん?」
何日かぶりに聞いた俺を呼ぶ金井の声
なんてタイミングなんだ。
そう思うがその声で呼ばれただけで
身体の細胞が騒ぎ出すようにぶわっと熱が巡る。
ああ、好きだ。
ふと浮かんだ言葉は
それが当たり前だと言うようにストンと胸に落ちた。
いままで見て見ぬふりをしていたのに
認めてしまえば感情の渦はそれで満たされる。
しかし、頭の片隅では先程の悪い考えがちらりと顔を覗かせてくる。
「どうしたの、こんなところで」
「…爺さんの、顔でも見ようと思って。やってなかったけどな」
じわじわと身体を燻ぶる熱に声が震えないか心配になる。
駆け寄るように近づいてきた長い影ににトクンと心臓が弾んだ。
「あ、そうだった!俺は写真受け取りに来たんだよねー。んでも、そういや日曜定休日だったね」
忘れてた、と柔い笑顔を浮かべる金井をじっと見つめてしまう。
心臓は痛いくらいにリズムを刻み
休む暇など与えてはくれない
顔を見ると堰を切ったように溢れ出す気持ち。
身体は言う事をきかなくて抑えられない。
「金井」
「んー?」
けれど、形にした言葉は
「もう待たなくていい」
伝えたい思いとは異なるものだった。
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