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「え?」
「だから……やっぱり待たなくていい」
金井は急に切り出した俺の言葉に戸惑っているようだった。
あんだけ散々待ってろって言ったのにひどい話だなと、
どこか他人事のように思う。
「待ってても意味ないから。待たなくていい。被写体も出来るなら他のやつ探してくれ」
「いや、伊澄さんちょっと待ってよ。意味わかんないんだけど」
珍しく少し怒気を含んだ表情と声色に
そんな顔もできるんだななんて考えるどこか冷静な自分がいる。
怒っているというよりはきっと困惑に近いのだろうけれど
「別にわかんなくてもいい。とにかくそれだけ、じゃあな」
「ちょ、待ってってば」
パシッ
音がするほどに手首を掴まれる。
優しく、ではなく痕が付きそうなほど強く
「痛え、離せ」
「ねえ、意味わかんないんだけど。どうゆうこと?」
全く離す気はないようで、先ほどよりもギリッと幾分か手首を掴む力が増す。
もう何を言いたかったのか
何を考えてたのか頭の中がぐちゃぐちゃで
自分でもわからなくなった。
前に進もう、なんて馬鹿らしい
初めからそんな考え事態、間違いだったかもしれないのに
金井の隣があまりにも暖かったから忘れていた。
勘違いしてしまった。
俺でも変われるかもなんて
結局、考えを変えようと思っても俺のひねくれた部分が邪魔をする。
もし上手くいったとして、また壊れたら?
俺のせいで普通のこいつが道を間違えたとして俺はどう責任を取る?
そんなもの取れるわけがない
辛いのも苦しいのも痛いのも嫌だ。
それならやはり諦めることが一番楽なんだ。
将来のやりたいことがきちんと決まっただけでいいじゃないか
言葉にして、胸を張って伝えられた。
それ以上に今回の事で得ることなんてない
最大の収穫だろ
思い出に昇華出来たらおしまい
新しい気持ちも何もかも蓋をして
また普通のフリをして生活すれば俺は大丈夫
諦めてしまえば、大丈夫
「…。」
金井は見たことも無い鋭い目付きで俺を見つめる。
けれど、一人で完結してしまった俺にはもうどうでもいい事だった。
睨み返す気にもなれず黙って視線を外す。
と、
「なんでそこで黙るんだよ…!」
「…っ」
金井はいつものバカ騒ぎの時みたいな大きな声じゃなくて
静かに責めるように声を荒らげた。
「全部諦めてるみたいな顔して」
うるさい
ダメだ、落ち着け。
もう終わった、終わりにしたんだ。
「自分から手放すみたいなことして」
うるさい、うるさい
金井と話す時はいつだってそうだ。
言葉よりも何よりも感情が先走る。
落ち着け。
「あんた何がしたいんだよ!」
うるさい、うるさい、うるさい
言葉は不自由だ、と誰かは言ったけどまったくもってその通りだ。
掴まれた腕がジンジンと痛む。
心臓は握られてるみたいに悲鳴をあげた。
「伊澄さん!」
名前を呼ばれれば、感情は溢れ出す。
心の奥底を探るような視線
出会った時からお前の声も、瞳も、
何もかも苦手なんだ。
嫌いに、なりたい。
「うるせえな!お前に何がわかんだよ!!」
「わかんないから聞いてんだろ!?」
頭では随分な逆ギレだ。
なんて自分勝手なんだ。
頭では分かっているけれど止めることは出来なかった。
不安なのは俺だけだ。
それは金井に対してだけじゃない
何に対しても常に漠然としない不安がついて回っていた。
「諦めて何が悪い、元から間違いだらけで!!何もかも嘘で塗り固めて、隠して、やっとまともになれそうだったんだよ!!」
何も知らないくせに。
知らなくて当たり前なのに理不尽にもぶつけてしまう
以前金井に「酷い」と言われたのを思い出した。
もし、嫌われるならそれでいい
いっそもう二度と会いたいと思われなくなるほど嫌われた方が楽だ。
「諦めれば、もう何も考えなくてすむ!!俺はお前みたいに自分を信じることも、誰かを信じることなんて出来ない!!」
なんで、なんで
なんで、そんなにすんなりと信じられる。
花が咲くみたいに笑うお前が眩しい
お前が笑えば周りも笑って自然とお前は色んなやつ囲まれる。
そんな中でこいつらと自分は違うと考えてしまう自分が嫌いだ。
普通じゃないといいつつ普通を求める自分が嫌いだ。
得体の知らないものは怖くて、俺はお前が怖いよ。
だってこんな感情も知らない
俺は、知らない
嘘でもいいから、お前に触れたいなんて
一時の夢でもいいからお前の隣にいたいだなんて
叶わないってわかってるのに
「俺は、失うくらいなら初めからいらない!!!もう何も!いらない!!!」
それでも、欲しいと思ってしまった。
どうしようもなく、求めてしまう
理不尽でどうしようもなく自分勝手でひねくれた俺をお前は嫌いになるかな
いやいっそのこと嫌いになってくれ。
言葉では否定するくせに
俺は、自分からは嫌いという言葉を口にすることすら怖がっている。
だから俺のことなんて嫌いになってくれ
だって俺は、
いつだってこんな自分が一番嫌いなんだから。
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