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「…我妻さんのデスク、こっから近いんだから。今の話を聞かれたらマズいぞ。」
水越はケラケラ笑って、座っていたアームチェアごと、ぐるぐる回りだす。
「ひゃっは~。そりゃ怖ェ。俺がちびっちまう。」
「笑い事じゃない。…今日中に、原案を何とかしないと。」
でも、と落合の正面から可愛らしい声が聞こえてきた。落合がそろりと目をあげると、そこには彼と水越と同期…淡い桃色の髪ゴムで黒髪を後頭部の高い位置で一つに結わえている女性社員が頬をやや膨らまして佇んでいる。やや豊かさが足りないと度々水越に指摘される胸で揺れる社員証には『織戸芽衣紗』と記されている。
「…やっぱり、我妻さんって酷いですよね。私、この間我妻さんと落合君が話しているの見かけた時、あの人は確かに言っていましたもん。『落合、この日まで案を絞れ。俺が目を通すからその後で決定しよう』って。あんな言い方されたら、ああこの人が判断するんだ。打ち合わせなんだって誤解しても、おかしくはないですよ。硬めた案を持って来いだなんて、一言も口にしてない。」
まあまあと落合は、女性社員を両手で制す。
「…俺が、あの人の話をちゃんと聞かなかったのが問題だから。」
違うよ、と織戸は両拳をかたく握り締め、忙しなくふるふると頭を左右に振る。
「我妻さんが言いだしっぺでしょう。じゃあ、提案したあの人が確認するべきなんだよ。注文が間違っているのに、出された料理が思い通りになるはずない。」
憤る織戸に、水越がまあまあと手を上下に振って話しかける。
「織戸ちゃん、ダメだって。ここは会社。俺ら社会人。言葉の足りない人、横柄な態度の人、それら『不条理』を含めて金とその日の飯にありつけてんだから。」
織戸は眉を寄せ、ますます膨れっ面になる。
「…わかっているよ。わかってはいるけど、腑には落ないよ。大体にして、我妻さんの普段の態度、アレなに??年上は敬いまくるのに、あたしら年下は顎で指図すんじゃん。」
そ~れ~はァ~、と水越は頭の後ろで腕を組む。
「我妻さんより年上っつったら、自然とみんな偉い人が多いの。…あと、年上っつっても、清掃員のオッサンだって、あの人は俺らと同じような扱いよ??」
水越は目を眇め、あの人だって色々あンのよ、としみじみ呟く。
「同期の伊月さんには出し抜かれ、今孤軍奮闘している真っ最中なのよ。だから最近、妙にピリピリしてんじゃん。些細なことでよく俺らに注意したりして。それでも、あの人なりに一生懸命、仕事してんだろ。」
「だからって、出世競争とか、無関係なあたしらにネチネチ絡んでこなくてもよくない??」
その場に佇んでいた織戸は身体を低くすると、正面のパソコンの影に消えた。後に勢い任せのどさっという音が聞こえてくる。…彼女は怒りに任せ、イスに腰を下ろしたらしい。
「そういいなさんなって。」
水越はヒラヒラ片手を振って…顔を緩々と隣席の落合に向けた。
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