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「あ!!…ちょっと、我妻さん!!そりゃないでしょう!?俺、この寒い中、待っていたんですよ~??」
「うるせぇ。俺は、お前に待っていろなんて頼んじゃねぇ。」
一端、忠犬が辿り着くのを待ってから、我妻はズンズンと先に向かう。追いかけてくれと言わんばかりに、寒さのせいで丸くなった後姿をこれみよがしに相手に晒す。
忠犬はご主人様の汚い目論見に引っかかって、とことこと後をついてくる。忠犬のキャラメル色をしたコートの裾が風にひらひらと靡く。
(…従順かよ。)
周囲の空気は冷たいはずなのに、我妻の体温は二度ほど上昇したように思えた。
「待って下さいよ~。」
「うぜぇ。何度も言わせんな、ついてくんなよ。」
切り捨てる一方で、本当に離れていったら寂しくなってしまうから、我妻は言葉を繋ぐ。
「…何で俺なんか待っていたんだよ。仕事絡みか??」
答えはNOだと知っている癖に、嫌味な口を叩いてしまう。
「違いますよ~!!…その、我妻さんと飲みに行って御近付きになれたんで、これを機にもっと仲良く出来たらなって!!」
「お前の御近付きの定義、一体全体どうなってんだ。距離詰めすぎだろ…。」
いいタイミングで横断歩道前になる。赤い信号を眺めながら、我妻が立ち止まる。釣られて、後方を歩く忠犬も足を止める。
「…もう、会社近くでこんな寄ってくんな。誰かに見られて、妙な勘ぐりされんのは真っ平御免なんだよ。」
信号待ちの間に我妻は片手で視界に邪魔だった前髪をかきあげる。背後の男は、か細い声を出す。
「…毎日、一緒に帰りたかったんですけど。」
不意打ちだったものだから、頭が勝手に映像を作り出してしまった。夜のネオン街に、肩を並べて消えていく二人。忠犬は年上の男の隣に肌が密着するほど至近距離にいて、自然な態度で相手の腰に手を回して、紳士らしいリードを見せており…。そこまで想像しかけ、我妻は我に返る。
(…俺はアホか。何でコイツの、お花畑咲き誇る妄想を一緒になって見てんだ。同レベルになるな、俺…。俺は上司。あくまで、コイツの上司…!!上に立つもの、それが上司…!!)
「ふざけんな。」
一蹴してから…言いすぎたかと横目でチラリと忠犬の様子を確認する。忠犬は項垂れ、背後にはくたっとなった尻尾が今にも現れそうだった。
(がっかりし過ぎだ、バカ!!)
可哀想になってくんだろ、と我妻が悶々としているところで、信号が変わる。我妻は横断歩道を渡り出す。…だが、忠犬は耳ごと頭を伏せたまま、進もうとはしない。思った以上に深手を負わせてしまった、と後悔した主人はヒヤヒヤしながら忠犬を呼ぶ。
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