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「我妻さん、今朝から機嫌悪いよね。どうしたんだろ??」
タイピングの速度を緩めず、落合横の水越が即答する。
「生理じゃね??」
冗談交じりの水越に織戸はむぅ、と織唇をひん曲げる。そんな二人をさて置いて、落合は偶然を装って席から立ち上がる。
「悪ィ、俺もトイレ。」
パタパタと忙しなくオフィスを後にする足音が消えると、織戸はがっくりと俯く。
「…落合君、我妻さん追いかけたのバレバレだよ。空々し過ぎて、私なんか涙出てきた…。」
それでもタイプ音を絶やさず、水越は淡々と返す。
「おーおー…。泣け、織戸よ。泣くと感情のデトックス効果あるって聞くから。」
顔を真っ赤にして、織戸はボリューム控えめに叫ぶ。
「もぉ~!!…水越君は私の話を、もうちょっと本気で聞いてくんない!?」
トイレはオフィスを出て、すぐ右手。また、エレベーターから見て真っ直ぐ伸びた廊下の突き当たりにある。
男性トイレと書かれた扉を開き、個室と便器の空間に猛進していた落合は、前方の低い位置からスッと出された片足に気付かなかった。見覚えのある革靴に引っかかって、落合の身体が傾ぐ。
「うわっ、わっ、わわっ!!」
平衡感覚を失い、宙を漂う片腕を、細く繊細な指先が捕まえた。
「…落ち着け。」
くっと引っ張られて、体勢を正される。…少しして、身体に重力が戻ってくる。振り返った落合は躓かされた犯人を眺め、目を丸くする。
「我妻さん!?なんで…。」
問答無用とばかりに、我妻は言う。
「…お前が作ってきた弁当、昼休憩にゃ食わん。」
「・・・ええ~ッ!!」
部下の未練タラタラな叫び声に、我妻は肩を小さく上下させる。
「…やっぱり俺用に作ってきたのかよ。」
「あ…。じゃない、この際バレたのはどうでもいいです!!」
「いいのか…。」
呆れ顔の我妻に、両拳を振り回して忠犬は不思議そうにする。
「何で、いらないんですか!?俺、我妻さんを思って一生懸命作ってきたのに…。」
くぅんと寂しげにしょげる部下に、我妻は苦々しい顔をする。
「だから、社内で目につくような真似は控えてくれって、昨日言ったばかりだろ。」
トイレの個室前で、大の男二人が言い合う。
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