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「我妻先輩、今、電話して大丈夫ですか??」
電話は不思議だ。声だけなのに、酷く近くに本人が寄り添っていると錯覚する。
『…ああ、問題ない。』
落ち着き払った我妻の声に、部下は瞳を伏せる。何年も一緒に過ごしてきた落合には、わかる。我妻は冷淡を装ってはいるが、声は普段より幾分か上擦って…興奮している。
「先輩、今ドコ??」
近頃は、二人きりになるとこうして部下の言葉遣いが変わるようになった。我妻も最初は一々突っかかっていたが、近頃は何も言わなくなった。ちょっとずつだけれど、お互いの立場が対等になりつつある。
『会議場所近くのビジネスホテルだ。今は夜景が見える窓辺の椅子に座っている。木製の椅子でな。随分と座り心地がいいぞ、これ。』
悪戯っぽい台詞の後に、微かにぎしっと椅子の軋む音が聞こえてくる。…ベッドのスプリングを連想させる音に、落合は慌てて話題を変える。
「たっ、楽しそうだなぁ…。あ、あと、先輩は食事まだ??もう終わった??」
『うん??これからだ。』
「どこで食べるの??」
再び携帯を握り直して、落合は自分の手が汗ばんでいるのに気がつく。
(当然か。先輩とあんなことが会って、初めて電話で喋っているんだから。)
この間の出張でも、社用携帯を握っていたのは水越の方だった。
電話で喋ったのは、金曜の夜に飲みに誘われた数週間前だろうか。…あの時は、まだこんなに互いを意識してはいなかった。
『ホテルに入っているレストラン。肉料理が自慢らしい。』
「へぇ~…。俺も、夕食まだだし。肉にしよっかな。」
落合は冷蔵庫の片隅にチルドのハンバーグがあったことを思い出す。電話口からは、相手の小さく笑う声が聞こえてきた。
『…っふふ。好きにしろよ。』
落合は無意識に鼻の下を伸ばす。
「いいなぁ~、我妻先輩は。美味しい料理が食べられて。」
ややあって、相手から意外な答えが返ってくる。
『…そんなに旨い手料理が食べたいのか??なら、今度の金曜にでも作ってやるよ、肉料理。』
「ほッ、本当!?」
思わず、大きな声を出してしまったらしい。少しして、鬼上司の不機嫌な声が聞こえてくる。
『…お前、はしゃぎ過ぎだ。』
「ご、ごめん…。」
幾分か声を落として小さく頭を垂れる年下の男に、我妻は少し厳しめだった声のトーンを緩める。
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