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もしかして、と伊月の唇が静かに動いた。
「女に飽きて、好奇心で男の君を味見してみただけじゃない??味見済みの君は、きっと近い内にお払い箱になってしまうね。」
十分後。我妻は、悶々としつつ、社内食堂の列に並ぶ。…食堂は、食券を買ってカウンターで注文するタイプのもので、我妻も皆にならって食券を握り締める。
(…あの野郎。)
我妻が、本日何度目かになる、ふてくされた表情をする。理由は、さきほど伊月に投げかけられた言葉だ。
『女に飽きて、好奇心で男の君を味見してみただけじゃない??味見済みの君は、お払い箱だ。』
ちっ、と大きな舌打ちを一つして、我妻は首筋をガリガリと掻き毟る。
(いけすかねぇな、畜生。伊月に、アイツの…落合の何がわかるってんだよ。)
再び耳元で声がする。
『君はどこまで知っているんだろう。彼の過去の女性経験。鈍感だから、色恋に疎いからって、浮気一つしないと盲目的に思い込んでない??』
奥歯をギリギリと噛み締め、俯いた我妻は口を開く。
「そりゃ…、俺だってアイツの全部は知らねぇけどよ。」
沈む我妻の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「…いやぁ、昼飯まで済ませちゃって、すいません。次の会議も、この近くで行われるもので…。」
食堂の出入り口付近で何度もお辞儀をしているのは、我妻に見覚えのある若い男…赤沢、と名乗った忠犬の学生時代の友人だった。
赤沢は、我妻も知っている社員と話を続けている。
「でも、いいんですか??うちの社の食堂で。赤沢さんが言ってくだされば、出前をとるのに。」
「いや、流石に厚かましいですよ。それに、ここの社食は美味いって先輩に聞いたことあって。」
(赤沢…。落合の、学生時代の友人、ね…。)
我妻は少し考えてから、一度並んだ列から離れて、赤沢へと近づいていく。その頃には、赤沢は仕事の話を一段落させ、一人で辺りを見渡していた。
「よ、よぅ…。」
どう声をかけていいかわからず、我妻は片手を上げてフランクに赤沢へと声をかける。赤沢は数秒頭を斜めに倒す。そこでようやく、我妻は赤沢が自分を知らないことに気がつく。あの時、個室トイレからこっそり様子を伺っていた我妻は、赤沢を一方的に見知っているのだ。
わざとらしい空咳を一つして、鬼上司は慌てて話しかける。
「あ…。そうか、そうだったな。や、以前、落合に遠目から君を紹介されてね。すっかり、知人気取りになっていた。」
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