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脳裏に過るのは、織戸が我妻の演技を見破った瞬間。
『…ここじゃ他の社員に迷惑がかかる。上の会議室が空いている。そこ、行くぞ。』
『は、はい…。』
落合が鬼上司に片腕を掴まれ、オフィスから連れられていく。…あの時、織戸は見逃さない。
織戸の好きな人の腕を掴む、我妻の手が滑稽なほど、ぶるぶると震えていた。
あの後、会議室を覗いたら二人は抱き合っていた。我妻がいつもは釣り上げている眦を嘘みたいに濡らして、部下に縋り付いていた。
(見せてくれちゃってさ…。私、ますますデカい魚を逃した気分になっちゃうじゃん…。)
織戸の背後で、段々と弱まっていた雨音が止んだ。しかし、未だに鈍色の雲が空の大部分を支配していた…。
雨でびっちょ濡れの二人を前に、椅子に座って足を組み、胸を張った我妻が堂々と言い放つ。
「貴様ら…。いい年して恥ずかしくないのか。」
「え…っと、あの我妻さん、これは…!!」
落合の発言を鬼上司は容赦なしでたたっ斬る。
「四の五の言うな!!…幾ら仕事の話で熱くなって、屋上で激しい口論になったからといって、その後こんな濡れ鼠になるなんていい迷惑だ!!」
落合と織戸は、ほぼ同時に顔を見合わせる。
(なにその、THE熱血☆お仕事ドラマみたいな展開の設定!!)
どうやら発案者は目の前でお冠の上司らしいが、だからってこじつけが過ぎるのではないか。部下達の不安をよそに、我妻は偉そうに続ける。
「お前ら、いっぺん頭を冷やせ!!仕事に対する熱意を、姿勢を考え直せ!!…時間が必要だろうと考えて、俺はお前らの半休を要請した!!」
うるさいほど声を張り上げる我妻だが、多分本人にとっては無自覚だろう。落合は口の端で小さく笑いを零す。
「風呂に入って、ゆっくり身体を暖めろ!!寒い格好すんなよ!!」
…ここまであからさまだと、織戸も上司の思惑に勘づいたらしい。口に手を添えて、笑いを必死に堪えている。
「特に、落合!!くれぐれも、腹を出して寝ないように!!」
オフィスでさざなみのように広がる失笑に、落合は耐えた。
(…この鬼卑劣上司…っ!!)
一時間後。仕事にキリをつけて、帰りの準備をする織戸は、長い溜息をつく。
斜め横から、聞き慣れた声がかかる。…常に自分を冷やかす方の。
「織戸、お前、もしかしなくてもフラレたのか??」
「何でそ~ゆ~時だけド直球で来るかな、水越君はぁ…。」
再び溜息をついて、織戸は俯きがちになる。
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