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跡には灰だけが残っていた。落合は、震える声で訴える。
「…な…で…っ」
我妻が年下の男に欲しいと言った、初めの贈り物だったのに。
我妻は、困惑した様子で年下の男に声をかける。
「…なぁ、落合。聞けって。」
「聞きません!!」
年下の男は力ずくで、我妻を背後から抱きしめる。息苦しいはずなのに、我妻は痛そうな素振り一つ見せず、淡々と年下の男に言って聞かせる。
「俺なりに考えたんだ。どうして、お前といるとこんなに気持ちが不安定になってしまうのか。社内なのに無様に部下のお前に泣いて縋る。相手の過去にこだわって嫉妬する。挙句、物をくれと強請って…。んで、わかった。…三十年以上生きてきたこの俺が、恋をすると酷く寂しくなるんだって。男同士で、心身共に繋がるのは、あまり周囲に理解されないってわかっているから。例え好きな人と傍にいても、俺は会う度に相手に『今夜会った』という保証を強請ってしまう。相手が好きだと言ってくれても、次に期待なんか出来ないから。だから、せめて確かな”今”の保証が欲しかった。”次”があると錯覚できる、”今”が欲しかった。」
物は物でしかないのに、と言って年上の男はくつくつと噛み殺した笑いを漏らす。
「…もう、いいと思うんだ。落合さ。俺は、とっくに気づいてんだから。…金も保証も、人の気持ちには変えられない。せいぜいいって、あの紙切れは万札だった。『一生を保証してくれる』チケットでも、『幸せになれる切符』でもねぇんだ。」
無言で力の限りと自分を抱き竦める部下に我妻は片腕を回し、彼の頭をポンと手を置く。
「落合。俺、決めたんだよ。次の相手からは、保証は受け取らないでいるよ。」
落合は、懸命に相手を抱きながら、かすれ声をあげる。
「…次の相手なんて、あなたには作らせません!!」
まあそう言うなって、我妻は年下の男の腕の中で肩を竦めてみせる。
「…俺とお前が、この場で決めりゃ作れなくはねぇんだよ。そりゃ、俺だってお前を手放したくはないさ。でもさ…。けどよォ…。…このままだと、こっちが背徳感に押しつぶされて虫の息なんだわ。いい加減、しっかり決めて欲しいんだ。今までの生活か、俺をとるか。」
なあ聞いてくれよ落合、と我妻は髪を掻き毟る。
「…俺は、お前に二つ、謝らなきゃならんことがあるんだ。」
「嫌です…っ」
両耳を塞ぐ代わりに、落合は全身で年上の男を抱き込んだ。しなやかで華奢な体躯が、生っ白い肌が自分の腕の中で脈打つように蠢く。
「一つはさ…。お前も、俺とこんな関係になろうとしたんだ。わかっているとは思うけど、俺達はあの夜、最後までシてねぇんだ。だから、引き返そうとすれば、今ならまだ間に合う。でも、俺は狡い大人だったから黙っていた。お前が一方的に責任を感じて、勘違いしたまま淡ゆくばこんなダメな俺に惚れてくれないか、試していたんだ。」
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