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「今日は近年稀にみる、記録的な猛暑となりそうです」
画面の向こう側にいるお天気のお姉さんが、目の前で着替える自分へ話した。
右耳から左耳に流れたお姉さんの言葉を思い出したのは、小学校へ迎えに来た母と、そのまま買い物をした夕方の帰り道だった。
母は買い物袋を左手に、右手は自分と繋ぐ。小さくて軽いが、自分も繋いだ反対の手に買い物袋を携えている。
初めて荷物持ちの手伝いをした時は、渡された荷物の軽さに戸惑った。母の持つ荷物のほうが、圧倒的に大きく重そうだったからだ。つい自分の手元と見比べ、父に大きくなったら驚かせてやれと笑われた。
だから自分は、いつか全部の荷物を持って、なんなら母も抱えて驚かせてやる。内緒話として父に息巻くと、大層な野望だなんてまたしても笑われてしまった。
ほろ苦い思い出の一つだ。
住宅街にある歩道はいつもより人通りが少なく、ぽつぽつと疎らに歩を進めている。
気温も湿度も高いうえ、心なしか蝉の合唱が暑苦しさを倍増させた。
きっと皆、この暑さで溶けてしまったんだ。近所のおばさんも外出を諦めて、家で暇そうにしていること間違いない。いつも吠えてる名前を知らないあの犬だって、太陽に負けてふて寝してるはずだ。
歩道とはコンクリートの壁で隔たれる河川敷にさしかかった。古めかしい壁を見上げてから道なりに視線を進ませる。道先には遊具の少ない公園があった。
思いたって公園へ行きたいと駄々をこねると、困り顔で笑う母は「また明日ね」と宥めた。それに不貞腐れて立ち止まり、さらに母を困らせる。
しゃがんで目線を合わせた母は、帰ったらハンバーグを一緒に作ろうと提案してきた。自分の好物であるハンバーグは確かに魅力的で、迷ったのちに唇を尖らせながらも渋々と家路を歩き出す。
笑みを深めた母が繋いだ手を振ると、先程の不機嫌はどこかへ飛んで行った。手を引いて勇ましく先導しだした自分に、母の小さな笑い声が耳へ届く。
すっかり気分を良くして歩いていると、後方から車の走る音が聞こえてきた。
車とかけっこだ、と一瞬だけ振り返り繋いでいた手を離す。つられて振り返った母がこちらへ向き直ると、スタートの合図と一緒に背中を押し出された。その勢いで何歩か先へよろけながら、満面の笑みで走り出す。
勝手にゴールと決めていた横断歩道の手前まで行き、自信満々にまだ追いつかない母を見やる。
そこには────そこには必死な形相で何かを叫ぶ母と、なぜか歩道へ突っ込む車を視界に捉えた。
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