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足早に自室へ入ると、伊織は制服に着替えた。今まで見たこのない美奈の変則的な行動に、さっさと家を出てしまいたくなったのだ。
仮にも美奈は伊織の義母にあたるが、形骸化した家族でしかない。その口から優しいような気遣うような、あんな言葉が飛び出てくるとは思いもよらなかった。
いつもとのズレが生じて、先へ続く時間に恐ろしさを感じた。何かまた予想外な出来事が襲い掛かってくるのではと予期してしまう。起こるのだと気付いて知ってしまえば、恐怖が生まれて日に日に増大していくばかりだ。
外泊の予定があって良かったと心から思う。明日になれば、きっと元通りになっているはずだ。
あれが美奈の歩み寄りであるならそうとも限らないだろうが、如何せん再婚から一年も経ってなおこの状態である。
恐怖を抱く原因があるように、払拭するには相応のきっかけが必要だろう。伊織自身もそう思うのだから、簡単でないことは想像に容易い。考えれば、前触れなく起こった事態だ。きっかけも何も、あったものじゃない。
人間の感情は複雑に見えて案外単純で、特に取り繕うことを苦手とする彼女は顕著だろう。初めて会った日から今の今まで、伊織が恐怖対象であることに変わりはない。
だから、あれはやはり一種の幻覚だったのだ。伊織はそう納得することにして、手際良くピアスを付けた。
不安がって悩んだって、よく知りもしない相手について答えは出ない。深みにはまる必要はないと、思考を放棄した。
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