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慌ただしい登校1
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清涼な空気、鳥の囀り、雄大な雲と照りだした太陽。
自転車を漕いで向かい風に髪を流される。熱気がひどくて暑さにじわりと汗がでた。
両肩に掛けたスクールバッグが僅かにずれ落ちる。遥か高い紺碧の空が夏らしく、白線とガードレールの色に目が眩んだ。
ほんの少し傾く坂道を下り、道沿いに走れば藤間理玖の後ろ姿を見つけた。自転車のスピードを落として近寄り、地面を向く理玖の顔を横から覗き込む。
「りーく、はよー」
「うっお、びびった。伊織かよ、はよっす」
大袈裟に反応した理玖は、手に持ったスマホを落としそうになって慌てた。その驚きざまに伊織が笑えば、脇腹を理玖に突かれる。擽ったさに身を捩り、半ば涙目で平謝りした。
「何してんの?」
徒歩の理玖に合わせ、伊織は自転車を漕がずに地面を蹴る。車輪をカラカラ回しながら、視線を理玖のスマホに向けた。
すると理玖は眉間に皺をよせて、たちまち怒りを露わにする。
「あの馬鹿猿を、起こしてやってんの」
「あー……なるほどね。まだ起こせてないんだ?」
「ずっと電話してんのに、こいつ全然起きねんだよ」
「紘太郎が電話で起きたら苦労しないだろ。あいつ、目覚まし時計が五個も鳴ったって起きなかったじゃん」
一人暮らしの紘太郎は、朝にめっぽう弱かった。
両親が仕事で海外にいる彼は、近場に親戚もいないらしく遅刻が多い。高校に入学して三ヶ月の間、週三回のペースで遅刻している。反省文を書かされた回数も、すでに片手で数え切れないほどの常習犯だ。
「馬鹿猿さ、今日も遅刻したら放課後に補習あるんだよ。そうなったら俺がシフト変わんなきゃいけなくなる」
「紘太郎は遅刻確定で、お前は放課後バイトだな」
意地悪く笑った伊織はご愁傷様、と付け加えた。
毎度のことながら、紘太郎は誰かに世話されなきゃ生活が成り立たなそうだ。
隣で苛立ちを募らせる理玖は、電話を入れては切って舌打ちする。
義兄の洋一よりも余程兄らしい理玖は、文句を言っても面倒見がいい。祖父母と暮らしているからか、細事にも気遣いできて頼りになる。紘太郎も自分も、良い友人を持ったものだとしみじみ思う。
始業まではまだ余裕な時間帯だが、朝に弱ければ寝起きも弱い紘太郎は今日も遅刻一択だろう。彼は自業自得にしても、尻拭いする理玖はやはり気の毒だった。
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